1966年
終戦直後、非常に私の心をうったものに、カレル・チャペックの作品集がある。ことに「山椒魚(さんしょううお)戦争」と「虫の生活」(戯曲)は、当時かなり厭世(えんせい)的なやりきれなさを抱いていた私の感覚に刺激をあたえてくれた。大河的なドラマの中に主役クラスを十人も二十人もおりまぜていく作風は、ドストエフスキーやトルストイの影響だが、チャペックのものは私にはっきりSFマンガの指針をあたえてくれたのである。
私のSF作品は大別して二つの要素を含んでいる。ミュータントテーマと世界滅亡テーマである。初期の「来(きた)るべき世界」や「鉄腕アトム」「メトロポリス」「0マン」そして「フライングベン」などはミュータントをあつかったものであり、ことにミュータントやアウトサイダーの目を通して人間諷刺(ふうし)を試みようとしたものが多い。
また「来るべき世界」「0マン」「大洪水時代」「魔神ガロン」「W3(ワンダースリー)」などは世界破滅テーマのバリエーションだが、まだ一度も破滅におわったものを描けないのは、私の生来の気の弱さのためかも知れない。