もう戦争は沢山だ

1969年

太平洋戦争終結後、今度は東西の冷戦を背景に起こった朝鮮戦争。手塚治虫はやりきれない気持ちで「来たるべき世界」を描きました。

手塚治虫エッセイ集より

もう戦争は沢山だ。

結局、人間みんなが大損じゃないかというやりきれない気分で、ぼくは、「メトロポリス」と「来(きた)るべき世界」を描いた。

 

「来るべき世界」は、スター共和国とウラン連邦の"冷たい戦争"から始まる。

ウラン連邦は、スターリンまがいのウイスキー長官によって牛耳られ、辺境のツンドラの下には、膨大な秘密工場がある。

ここでヒゲオヤジと、スター国の諜報(ちょうほう)部員であるロックが強制労働をうけ、反抗すると「籠(かご)の鳥の刑」を受け、洗脳され、人格を破壊され廃人にされる。

マンガ「来るべき世界」原画より

マンガ「来るべき世界」原画より

一方、スター国では、ドルの力で一躍新興成金になった無頼漢のランプが、地球が破滅すると知って国中の技術を買い集め、ロケットを建造させ、自分と自分の一族だけで脱出しようとする。

 

いずれにせよ、かなり虚無的な気持ちでこれを描き、アンハッピー・エンドにするつもりだった。

が、翌年、朝鮮がいったん休戦にはいり、まがりなりにも日本が講和条約に調印したので、「来るべき世界」のラストも、大団円にし、「もし人類が再び過ちをくり返すならば、危機はまたやってくるだろう」といった意味の、きざな警告をつけ加えた。

こういうきざなしめくくりが、学生などにはわりと受けるのだった。

講談社版手塚治虫漫画全集『手塚治虫エッセイ集 1』より
(初出:1969年毎日新聞社刊『ぼくはマンガ家』)