来るべき世界

1951年

核戦争と暗黒ガスの脅威に晒された人類が宇宙船で地球脱出を図るSF作品。戦争への不安を背景に、反戦と命の尊厳を強く訴えています。

 マンガ「来るべき世界」より

 マンガ「来るべき世界」より

マンガ「来るべき世界」より

【解説】

地球滅亡の危機を描いた近未来SFで、前後編に分けて大阪の不二書房から刊行された。

 

核兵器の開発に熱中するスター国とウラン連邦は国際会議の席上で激しく意見が対立し、ついに両国の間で戦争が始まる。

だがそんな地球に別の脅威が迫っていた。

オリオン座で発生した暗黒ガスが地球へ向かって拡散しており、それが地球を包み込んだとき、地球上の生物はそのガスですべて窒息死してしまうというのだ。

人類は円盤型宇宙船を建造し、様々な動物たちを乗せて地球脱出をはかろうとするが、それに乗れる生き物の数は限られていた。

 

第二次大戦の終結からおよそ5年、米ソ間の緊張が再び高まる中で描かれた作品である。

執筆開始当初、手塚はこの作品に『ノア』という仮題を付けていた。

言うまでもなく旧約聖書の創世記に出てくるノアの箱舟伝説"のノアである。

醜い争いを続ける人類に暗黒ガスという神の裁きがくだるとき、人類は果たしてどんな行動に出るのか。

 

他人を蹴落としても宇宙船に乗ろうとする人物、地上にとどまり将棋を打ちながら地球最期の日を心静かに迎えようとする人々……。

そしてスター国とウラン連邦のふたりの首脳は、隕石が雨あられと降りそそぐ中、手と手を取り合って自分たちのしていた戦争が何と愚かだったかを悔いるのだった。

 

この作品と、これに先立って発表された『ロスト・ワールド<前世紀>』(前・後編、1948年)、『メトロポリス<大都会>』(1949年)の2作品を合わせて「手塚治虫の初期SF3部作」と呼ばれることがある。

 

ただし前2作が夢のあるファンタジー色の強い作品だったのに対して『来るべき世界』はとりわけ強い反戦色に彩られている。

これはやはり手塚がこの時期、再び戦争が始まるのではないかという危機感を痛烈に感じていたからだろう。