手塚治虫による創作ノートや、手記などを装丁や筆跡まるごと、現在のデジタルリマスター技術を駆使して“復刻”する『創作ノート』シリーズに、ついに第3弾が登場します。
今回は2012年12月に新たに発見されたデビュー前の習作、「噫 それなのに」や、単行本や雑誌などに使用されなかった幻の原稿など、新たな資料もセットで刊行されます。
手塚治虫についてより深く知りたい方は必見のこの復刻シリーズについて、虫ん坊2012年3月号に引き続き、小学館クリエイティブ・川村寛さんにお話しを伺いました。
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2013年7月31日(水)まで
——『手塚治虫の創作ノート』シリーズも今回で第三弾になりますが、今回のコンセプトはどういったものなのでしょうか。
川村寛さん(以下川村):
タイトルのとおり「新発見編」ということで、「創作ノート2」を発行したあとに新たに見つかったいくつかの新発見原稿も含めた、今まで未発表、未発見だった原稿の複製原画が多く収録されているところが特徴です。また、今まではみなさんがよく知っているような、実際に作品として認知されているものの下書きやデッサンが入っているものを中心に選んできましたが、今回復刻したノートには、中学生くらいの頃に描いた友達の間で回覧していたという『知恵の豆袋』や、デビュー直後の『珍念と京ちゃん』などの、きちんとペン入れされていて、原稿として通用するようなページが入っているようなノートも復刻しました。
——ノートに直接ペン入れされているんですか?
川村:
そうですね。こういう感じで……(写真参照)。なぞなぞや数学の問題などを教科書風にまとめています。友達に見せるためのものとして、きちんと清書されていますよね。
その他には、今までに引き続き『ジャングル大帝』に関するメモ、それから、『アトム大使』の元になったらしい「狂乱の地球」に関するメモ、その他、『タイガー博士』や『珍アラビアンナイト』『ロマンス島』『ファウスト』『吸血魔団』の下書きなどを収録しました。
それから、こんなものもあります。
メタモルフォーゼに終生、こだわり続けた、と手塚治虫自身も各所で発言していますが、初期の創作ノートにも、こんな感じの絵が残っています。アニメーション作品などでもいくつか登場するシチュエーションですよね。女性の姿が、徐々にさまざまなものに変わっていく形が、ラフスケッチされています。これも初公開です。
いずれにしろ、これらのノートは、何度も見ていただいて、読者の方がそれぞれ新しい発見をしていただければと思います。
——「新発見」がやっぱり、気になりますね!
川村:
今年の1月ごろに、新発見の原稿が見つかった、というニュースが世間を騒がせましたが、この、新発見の原稿について手塚プロダクションで調べていただいて、作品名と、何時頃の作品なのか、なぜ途中までで原稿が中断しているのか、などを資料と類推を交えて掲載しています。1946年の8月以降で、『ロマンス島』の直後に描かれた作品、タイトルは「噫、それなのに」ではないか、ということが『ロストワールド 私家版』の作品リストより分かりました。
新聞には1部のページが公開されていましたが、この本には全ページを収録しました。手塚プロダクション資料室の森晴路さんの解題を読んでいただければ、どういう経緯でこの作品のタイトルと執筆時期が詳しく特定できるのか、また、なぜ中断を余儀なくされたのかが詳しく説明されています。
その他、こちらはつい先日、5月の末に松本零士先生のところから見つかった、『メトロポリス』や『有尾人』などの原稿です。
『メトロポリス』については初期タイトル案だった『超人ミッチイ』の扉絵が珍しいですし、『有尾人』に単行本収録原稿はいくつかありますが、出版社(不二書房)が持っていた使用原稿が1ページでも出てくるのは、紛失したと思われていたので、奇跡に近いことで、これもまた貴重なものです。
また、松本先生の所蔵原稿の中でも今回嬉しかったのは、『浮漂島』の原稿の発見です。初めは、いったい何の原稿なのか分からなかったのですが、調査を進めるうちに、なんと『創作ノート』第1弾に収録したノートに、そのヒントが見つかったんです!
『創作ノート』第1弾をまとめていたころには、このシノプシスは単なるアイディアのメモで、実際の作品として描かれたものではないと思っていたのです。今回、こうして2色カラー原稿が出てきたんです。これはとても珍しいことです。こうなってくると、この原稿以外にも何ページか原稿が描かれているに違いない、という類推ができます。
今までは、まず作品ありきで、その原稿が見つかった! といってニュースになることが多かったのですが、今回のケースは初めてで、シノプシスのみがノートの中に描かれていたものが、こうして原稿の形で見つかった、というものです。こういうことがあると、「創作ノート」の復刻をやってきたことにも意味があったなあ、と感慨深い思いです。
今回の「創作ノート 新発見編」には、これらも含めて全部で18枚の複製原画を入れました。ただ、見つかったもの、というだけではなく、発見自体に意義のある原画ばかりなので、ぜひファンの皆様にご覧になっていただきたいです!
——他にはどのようなものが収録されているのでしょうか?
川村:
こちらは、発見というよりも新発表、といったところですが、手塚先生が小学生の頃に描いたという、『火星人来る!』という紙芝居も今回復刻しました。
原本は手塚治虫記念館が所蔵していたもので、中身は一部しか公開されていません。クレヨンでとても丁寧に描いてあり、何しろ絵がとても美しくて、小学生のころから並々ならぬセンスがあったことが伺えます。合計37枚で一組で、ラストは「続く」となっています。
残念なことに文章はまだ見つかっていなくて、もしかしたら物語はその場のアドリブで作っていたのか、他の紙に書いてあったのかもしれません。どんなストーリーだったのかはこの絵を見ながら推し量るしかないのですが、すべてのページが公になるのはこれが初めてです。
——もう一冊『手塚治虫デッサン集』という本も出ましたね。あちらにも数多くの未発表原稿が収録されているそうですが……
川村:
「創作ノート」シリーズはおもに昭和20年代に描かれたノートを復刻したものですが、手塚先生が売れっ子になって忙しくなった昭和30年代以降は、いままでノートに書いていたものを、手近の紙に描いていたようです。そのお話しを聞いていたので、GAMANGA BOOKS版の『三つ目がとおる』を出版した際、付録の『三つ目がとおる読本』に『三つ目がとおる』の主人公・写楽保介のさまざまなデザインのラフスケッチを収録しました。
他の作品でもこのような絵が残っている、ということだったので、手塚プロダクションで所蔵しているラフスケッチを森さんに集めてもらって、本にしました。
本当ならば手塚先生としては人に見せたくないたぐいのものだったかも知れません。森さんからは、本来これは公表するものとして描いたものではない、ということを必ずお断りとして添えてください、とお願いされました。
でも、こういうものはそれこそ放っておいたらどんどん散逸してなくなってしまうものだと思うんですよ。手塚先生が人にあげたり、アシスタントの方が持っていったりしていたということです。でも、手塚先生の創作方法の秘密に迫るにはとても貴重な資料ですので、事情は重々承知の上、最終的には手塚プロダクションや手塚眞さんからも許可をいただくことができ、出版することができました。
実際、この『手塚治虫デッサン集』は評判も上々で、すでに2刷になっています。読者の方のニーズにも合ったのだな、と思うと嬉しいですね。
——他にはどのようなものが収録されているのでしょうか?
川村:
当初はノートの冊数も多いですし、10巻は出せるかな、と思っていましたが、案外絵が入っているものが少ないことが分かってきまして、一般的なファンの方にも楽しんでもらるものができるかどうかが、難しくなってきています。ですから、今後の『創作ノート』シリーズの刊行は現時点では検討中、未定です。1巻目から収録のノートには通番をつけているのですが、第3巻で34番までが復刻されますので、全部で75冊のうちの約半分が復刻されたことになります。単純に冊数だけなら6巻ぐらいまでは行けることになりますが、残っているノートの多くが文字だけのものなんですよ。やはり、スケッチやデッサンが入っていたほうが見た時に楽しいですからね。
とはいえ、手塚先生は日本のマンガの原点ですから、こういうノートやメモが将来、劣化したり散逸したりしてしまっている、ということだけは避けなければならないと思っています。デジタルリマスターすることで、中身を保存することはできるのですから、貴重な原本はぜひとも、日本の文化財として、国立博物館のような場所で永久保存していただきたいですね。
——ありがとうございました!