今月の『オススメデゴンス』では、2013年4月、「新発見・未使用扉絵」のニュースで、未使用・仮タイトルの扉絵が見つかり、話題になった、『メトロポリス』をご紹介します!
手塚治虫の初期のSF三部作の一つで、藤子不二雄に衝撃を与えたというこの作品、あなたにも何かのインスピレーションを与えるかも知れません!?
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『メトロポリス』あとがき より抜粋)
(前略)
「メトロポリス」が出ると、おかげさまで予想以上の反響を呼びました。かなりの再版をしたと思います。また、これを読んで漫画家を志した学生たちも多かったときいていますし、SFというエンターティンメントをこどもたちに認識させることにかなり役立ったものと自負しています。
これと、「ロストワールド」「来るべき世界」の三作を、ぼくの読者は初期のSF三部作と名づけてくれていますが、いちばん都会的な匂いを感じるのは「メトロポリス」で、ぼくの当時のアメリカ指向があらわれています。表紙のレッド公の立ち姿や、見返しページの大都会の夜景などに、戦前のよき時代のマンハッタンやシカゴのたたずまいを連想させ、当時のアメリカの都会映画の影響を感じとれるのです。
(後略)
手塚治虫初期SF三部作のひとつであるこの作品が、2001年に緻密で美しい劇場アニメ映画『メトロポリス』としてリメイクされ、何度目かの脚光を浴びたのは、読者の皆様にも記憶の新しいことと思います。表題ともなり、この作品の本当の主人公とも言えそうな摩天楼の立ち並ぶ大都会「メトロポリス」は目もくらむような細密な群集やビル群のアニメーションとなって、ともすればその中で活躍するヒゲオヤジやケンイチ君といったキャラクターを飲みこんでしまいそうなほどの圧倒的な存在感を持っていました。
原作であるこの漫画「メトロポリス」もまた、全編に描かれる大都会の風景が実に生き生きとしています。ケン一君がまぎれる、細部まで描きこまれたモブシーンの活気のあるざわめきや、初めてミッチイが空を飛ぶシーンに見えるおしゃれなビル群の描写には、わけもなく心が躍る魅力が備わっています。
また、ストーリーも表現のマンガっぽさにいささかつりあわぬ真摯なもので、科学のやみくもな発展とそれによって生みだされた人工の生命の悲哀という、その後の手塚マンガにも通じる深いテーマを扱っています。人工細胞の開発にいそしむロートン氏の研究室は、その後『火の鳥』の猿田教授の研究室へ発展し、人造人間ミッチイの人間に対する怒りは、そのまま鉄腕アトムの「青騎士」などのエピソードに換骨奪胎されたといっても過言ではないでしょう。
敵役の悪党紳士レッド公や、ロートン博士と言った登場人物達も、この大都会の舞台にふさわしいおしゃれさで、彼らとヒゲオヤジ・ケンイチ君らの対決には、当時ならずとも、現在でも充分、わくわくさせられる冒険譚となっています。