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虫ん坊 2018年5月号 特集2:手塚治虫×スイッチプランニング『火の鳥』スカジャン 制作の裏側

虫ん坊 2018年5月号 特集2:手塚治虫×スイッチプランニング『火の鳥』スカジャン 制作の裏側


 豪華絢爛な『火の鳥』の刺繍が目を引く、コラボレーションスカジャンが誕生!
「一味違うスカジャンを届けたい」と語るのは、今回制作を手掛けた株式会社スイッチプランニングの営業企画担当、吉田龍太さん。コラボのきっかけや刺繍技術についてお話をうかがいながら、スカジャン制作の裏側に迫ります。




虫ん坊 2018年5月号 特集2:手塚治虫×スイッチプランニング『火の鳥』スカジャン 制作の裏側

株式会社スイッチプランニング 営業企画 吉田龍太さん


―――事務所に入ると、至る所にスカジャンが! 吉田さんも本日はキツネがあしらわれたスカジャンを着ていらっしゃいますが、やはり、もともとスカジャンがお好きだったのですか?


吉田龍太さん :(以下、吉田)

実を言いますと、もともと好きだったわけではないんです。この仕事をはじめてからスカジャンを着るようになりました。


―――てっきり、スカジャンLOVE! な方なのかと勝手なイメージが……。


吉田 :

いやいや(笑)。会社に入りたての頃はスカジャンを着ることに気後れしていたのですが、着てみればわりといけるな~と。雑に着てもそれなりに見えるのはスカジャンの良いところですし、シンプルなボトムに合わせて、どなたでも着こなせるアイテムだと思います。
 僕自身は、チューバという金管楽器を大学までやっていたので将来は音楽の道に行ければいいなと漠然と思っていたのですが、進路で迷っていた時に親父が立ち上げたスイッチプランニングに勤めはじめ、一から営業企画を学び、今に至ります。
 今はスカジャンを専門に制作・卸しをしていますが、もとは、さまざまなアパレルアイテムも取り扱っている会社だったんですよ。


―――そこからスカジャン専門になったのはなぜですか。


吉田 :

この会社を立ち上げた後に、和柄ブームというものがあったんですね。


―――和柄ブーム……何年ぐらい前のことですか?


吉田 :

12、3年前になりますね。このブームにあやかって、うちでももっと日本の昔の画家が描いていた浮世絵をそのまま刺繍にしてみたらどうだろうということで作ったのが和柄のスカジャンでした。それがかなり好評で、ほかの商品よりスカジャンの売れ行きが良くなり、最終的にスカジャン一本でやっていこうということになりました。


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―――近年では、柄ものだけではなくキャラクターとのコラボスカジャンを多く手掛けていますが、キャラクターの事業をはじめたきっかけを教えてください。


吉田 :

あるキャラクター会社の方が自社コンテンツとコラボしたスカジャンができないか、と問い合わせてくださったのが最初ですね。ご担当の方がものすごくコンテンツ事業の推進に熱心な方で、ほかでは見たことがないようなグッズを作りたいということでお声掛けくださいました。その方がもともとスカジャンがお好きで、上野のアパレルショップで弊社のスカジャンを見て気に入ってくださり、そのご縁からお声掛けいただきました。それが3年前のことです。


―――そこで初めて、キャラクターの刺繍に挑戦されたのでしょうか。


吉田 :

長年和柄の刺繍を手掛けるうちに技術もかなり洗練され、絵の再現には自信がありました。思い切って漫画調のイラストに振ってみてもいいかもな、とそのときは思いましたね。自分で言うのも何ですが、実際に作ってみたら本当に良い出来で! このスカジャンがきっかけで、ありがたいことにキャラクターコラボのお声掛けが増えました。


―――今回は手塚治虫の『火の鳥』とコラボレーションをさせていただき、「火の鳥と菊花」と「火の鳥の飛翔」の2柄が制作されました。


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「火の鳥の飛翔」(左)、「火の鳥と菊花」(カラー、モノトーン)(右)。サイズはS、M、L、XL、XXL、XXXLの6種展開で、価格は各5万2920円。※XXXLのみ価格5万5080円(税込)


吉田 :

ギフト・ショーという合同展示会に毎年出展しているのですが、弊社のブースへ手塚るみ子さんがいらっしゃって『火の鳥』のスカジャンを作りたいというご相談を受けたんです。すぐに頭の中に『火の鳥』スカジャンの完成図のイメージが浮かんだので、その場でやりましょうとお返事をしました。


―――『火の鳥』以外に、候補のキャラはいたのでしょうか。


吉田 :

手塚さんからは、『火の鳥』でご指定があったので、一択でした。もともと弊社では花鳥柄の刺繍スカジャンが多く、『火の鳥』はそのイメージをとぴったり重なったので、これだったらイケるぞ! と思いました。


―――以前から『火の鳥』は読まれていましたか?


吉田 :

小学校の時に、図書室に置いてあったのを読んだのが初めてでした。全巻読んだのですが、なにぶん小学生だったので物語の真髄みたいなものは全然わかってなかったです(笑)。


―――それでも飽きずに読まれたんですね。


吉田 :

面白かったんでしょうね~。当時から漫画が好きだったということもあったんですけれども……。実は、今回コラボのために購入して、また読み直しました。


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―――箱買い!! ありがとうございます!


吉田 :

コンテンツのスカジャンを作るときは、ある程度原作は読まないといけないですよね。ストーリーを把握してキャラクターもしっかり調べたほうが齟齬がないですし、自分よりもファンの方の知識量のほうが絶対に多いので、なるべくボロがでないようにしたいんです。


―――スカジャンの絵柄のデザインは、デザイナーが考案されるのでしょうか。


吉田 :

今回はぜんぶ私のほうでやりました。火の鳥も一から描かせていただいています。


―――そうなんですか!? ラフなどがあれば、ぜひ見せてください。


吉田 :

毎回、骨格を取るところからスタートして、そのまま描画ソフトで描きこんで提出してしまうんです。なので、ざっくりとしたラフというものはないんですよ。


―――キャラクターのイラスト素材は使わないんですね。


吉田 :

原作からトレースも考えたのですが、今回は鶴の写真から骨格を取ってみました。ただ、実際の鶴だと羽が小さいので、そこは大き目に調整しながら描いています。


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こちらが吉田さんによる『火の鳥』のデザイン図案


吉田 :

火の鳥のキャラクター性というよりも、「鳥」であるところに着目して、日本画の中によくある組み合わせを連想させていきました。鳥と花、鳥が飛んでいる下に遠景が描かれている日本画などを意識しています。実際に物語中にそういう場面がなくても、スカジャン映えするヴィジュアルを重視で考案しました。菊の花や赤富士など、『火の鳥』に似合うモチーフをこちらで選ばせていただきました。


―――絵は、もともと描かれていたんですか?


吉田 :

いえいえ、この仕事を始めてから独学していきました。並みの絵でも、刺繍になるとけっこう綺麗に仕上がるんですよ。


―――(並みどころではないような気が……。)


吉田 :

でも、刺繍には刺繍の絵の描き方というものがあります。ごちゃごちゃしたものを描くと刺繍でそのまま表現されてしまうので、見栄えを考えて描き込みすぎないように注意しています。
 色の表現でいうと、いくらグラデーションを綺麗に描いても結局のところ刺繍になると数色の色分けになってしまうので、最初からグラデーションをせずにいくつかの層に分けて原色を置きグラデーションを表現したほうが綺麗に仕上がるんですよ。


―――なるほど! 『火の鳥』の羽根も3色で色分けされていますね。


吉田 :

実は、「火の鳥の飛翔」はもう少し安い値段の予定だったのですが、御社とやりとりをしているうちにどんどん絵柄が大きくなってしまい……。もっと羽がシャープで細かったんですが、『火の鳥』感を出すんだったらもっと大胆な羽根がいいとのことで、そのぶん刺繍を増やしたので、結局5万円代になりました。


―――刺繍の面が広がると、そのぶんお値段が上がるんですね。


吉田 :

刺繍は針数で値段が決められています。横に一往復で“一針”と数え、それを何往復したかが値段に反映されるんです。今回の火の鳥だと80万針ぐらいですね。工場では1回で12枚分のスカジャンに刺繍ができるのですが、1回ローテ―ションするのに半日はかかります。


―――ちなみに今までで一番針数が多かったスカジャンは……?


吉田 :

この葛飾北斎の鳳凰の刺繍です。これは160万針ぐらいでしょうか。現在ボストン美術館に飾られている『鳳凰図屏風』を一から全部描きおこしています。


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背中一面に見事な鳳凰の刺繍がされている。街中で着たら注目の的になること間違いナシ。


―――これもボストン美術館に飾ってほしいくらいです……。デザインができた後は、いよいよ刺繍に入るんですか?


吉田 :

イラストを描いた後に「パンチカード」といって、針をどのように往復させるかを指定する刺繍の設計図を作ります。イラストを参考にソフト上で刺繍針の振り方をあらかじめ手作業で指定していきます。機械での刺繍ですと、ふつうは機械がパンチカードを作ってくれるのですが、それだと刺繍が味気なくなってしまうんですよ。


―――手で針を指定するのと、どういう違いがあるんでしょうか。


吉田 :

刺繍というのは、針の振り方で仕上がりがかなり変わってきます。機械に任せると「畳刺繍」といって、ずっと同じ糸の調子で凹凸の少ない平坦な刺繍になってしまうんです。イラストとしては畳刺繍でもそれなりに仕上りますが、うちはそれ以上のものを目指したいので、ひとつひとつパーツごとに手作業で針を指定しています。良い刺繍にしたいなら、振り方もちゃんと考えないといけません。


―――たしかに、ぺたーっとしている刺繍は見てすぐにわかります。


吉田 :

たとえば、羽根の筋のラインに対して縦に刺したり、主線の茶色い糸は中心点に対してラウンドするように針を振ることで糸の光沢が反射し、刺繍に立体感や奥行きが生まれます。毎回、立体感のある刺繍にするにはどう針を振ればいいのかを考えながら針の向きを指定していきます。そしてパンチカードができたら、中国にある弊社の工場で刺繍に入ります。


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写真だと立体感が伝わりにくいですが、よく見ると糸の方向がパーツによって違うのがわかります。


―――ここまで細かいデザインだと、工場に渡してから羽根の表現など細かくやりとりが生まれそうですね。


吉田 :

これは一発であがってきました。


―――ええーー!!


吉田 :

工場も慣れているので、ツーカーでこちらの希望を汲み取ってくれますね。どの商品にも言えることですが、刺繍があがってきた後の修正はほとんどありません。
 うちのスカジャンの特徴として、背面だけではなく肩の方まで縫い目をまたぐように刺繍を入れることがあります。この刺繍をするときは、まずは「第一次縫製」という、刺繍がまたぐ部分のパーツを縫い合わせをしてからその上に刺繍をします。次にスカジャンのすべてのパーツと縫い合わせる「第二次縫製」をするのですが、縫い目またぎの刺繍はこうして工程がひとつ増えるので、工場のほうではあまりやりたがりません(笑)。しかし、そこはうちのこだわりなので毎回きちんとやってもらっています。


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羽根が袖の縫い目をまたぐことにより、ダイナミックに飛び立つ火の鳥を表現。


吉田 :

縫製が済んだら、最後の加工でスカジャンを薄いベージュで染めています。製品染め加工をすることで刺繍と生地の色がワントーン落ちて、全体的に馴染むんですよ。染めることによって表面に細かいキズが入り、ヴィンテージ感や生地に味を出しています。新品なのに、古着を作っている感覚ですね。


―――スカジャンはサテン生地でテカテカしたイメージですが、そこを落ち着かせることによって高級感が出ています。


吉田 :

キャラクターのスカジャンを制作するときは、後染めをすることによってキャラクターの肌の色がくすんで不健康に見えてしまうことがあるので普通はしないんですよ。でも今回の『火の鳥』スカジャンは高級感やレトロな風合いを出したくてあえて後染め加工をしています。それに今回は人間ではなく鳥なので、染めることによって多少色味が変わってしまってもそこはあまり気になりませんしね。後染めが終わったら、スカジャンの完成です。


―――いや~、ここまで手が掛かっているとは! 工程のひとつひとつに商品への愛とこだわりを感じます。『火の鳥』だけとは言わず、ぜひほかのキャラクターでも作ってほしいです。


吉田 :

『ジャングル大帝』のレオはぜひ作りたいです! 動物のキャラクターと自然物というのはスカジャンの柄でも鉄板なので、うちだったらきっといいものになると思います。


―――レオはかわいい印象ですが、御社の手にかかるとどうなるんでしょう。


吉田 :

レオの場合は原作のまるっとした可愛らしい線を生かしたいですね。白い毛並みはうすく色分けをして……どんどんイメージが広がりますね。あとは『リボンの騎士』もやってみたいです。コテコテにリボンの刺繍をつけたりして。
 でも、それぞれのコンテンツの見せ方というのはその企業が一番よくわかっていらっしゃるので、先方からのこだわりを出されるほど、こちらも表現するのに力が入りますし、期待に応えるのが楽しいんですよ。


―――吉田さんから見て、スカジャンの魅力はどこにあると思いますか。


吉田 :

自己主張が激しいところですね。スカジャンを見れば、何が好きなのか丸わかりじゃないですか。


―――たしかに、『火の鳥』のスカジャンを着ていて『火の鳥』がきらいな人なんていません!(笑)


吉田 :

手塚ファンの皆さんにこのスカジャンを着ていただいて、ぜひとも街中で手塚好きをアピールしてもらえたら嬉しいですね!




【スカジャンのお求めはこちら】

株式会社スイッチプランニング 公式サイト:
https://switch-japan.com/sp/

【取扱い店舗】
上野 FIT'S MARKET: http://www.fits-is.co.jp/
原宿 KINGLYMASK:https://twitter.com/kingly_mask
原宿 +8 PARIS ROCK Tokyo:http://8parisrock.theshop.jp/




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