アニメ×テクノロジー×自然をテーマとした新感覚テーマパーク『ニジゲンノモリ』が兵庫県立淡路島公園内にオープンしました。
アトラクションのひとつ『ナイトウォーク火の鳥』は、原作の「火の鳥」を軸にしたオリジナルストーリーを追いながら、最新テクノロジーを駆使した光と音とともに全長約1.2kmの森の中を歩く体験型エンターテインメントとなっています。
今回、オリジナルストーリーと監修を担当した手塚眞と演出を手掛けたアーティスト 村松亮太郎さん。
なぜ「火の鳥」だったのか、どういったメッセージが込められているのか――。
虫ん坊では、その魅力について、村松亮太郎さんが監修する食×アートの体験型レストラン「TREE by NAKED yoyogi park」にて語っていただきました。
村松亮太郎さん :(以下、村松)
手塚プロダクションさんとは、2014年の『としまナイト プロジェクションマッピング』でお仕事をご一緒させていただいたことがあるのですが、実際に眞さんとお会いするのはこの『ナイトウォーク火の鳥』の企画が初めてでしたね。
手塚眞(以下、手塚):
そうですね。でも、お互い映像に携わる業界に身を置いているので、認識はしていましたよね。
村松 :
今回、『ニジゲンノモリ』のアトラクションを作るにあたり、なぜ、「火の鳥」がモチーフとして使われたのでしょうか。
手塚 :
アニメのテーマパークを作るという企画の段階で、「火の鳥」をモチーフにすることはすでに決まっていたんです。
もともと「火の鳥」は、阪神・淡路大震災の復興のシンボルとなった作品で、企画元のパソナグループさんでも復興支援の一環でキャラクターを使用してくださったご縁がありました。
また、「漫画少年」に掲載された初代の「火の鳥・黎明編」では、ストーリーのなかに日本神話に登場するイザナミとイザナギが描かれているんですが、淡路島は、まさに国産みの伝説がある土地じゃないですか。ピッタリ重なります。
「火の鳥」というと、光輝くイメージがあります。そこから、夜のアトラクションにしようという話になり、“ナイトウォーク”という発想にたどりつきました。
村松 :
「火の鳥」はフェニックスの別名で、何度もよみがえる不死鳥とされています。僕は大阪府堺市の出身なんですが、堺市で使われているモチーフもフェニックスなんですよ。堺市は過去2度、江戸時代に行われた合戦・大阪夏の陣と第二次世界大戦で丸焼けになっていて、“フェニックス通り”と呼ばれる通りには、戦後の復興のシンボルとしてフェニックスと呼ばれるヤシ科の木が植えられています。
このように、「火の鳥」が復興のモチーフとして使われる理由には、どういった背景があると思いますか。
手塚 :
手塚治虫が「火の鳥」を描く前から、フェニックスの神話は存在するわけですが、調べてみると、古代エジプト時代まで遡り、太陽信仰というものがあって、太陽は昇って沈んで夜がやってきてまた次の朝昇るじゃないですか。そこから、死してもなお永遠に復活を遂げる、という信仰が生まれたようなんです。フェニックスはもともとはその太陽を象徴する鳥で、世界中に散っていって、姿・形を変え、その土地の伝説になっていきました。例えば中国では名前を変えて“鳳凰”と呼ばれていたりしますね。「火の鳥」というのは、少なくとも5千年以上同じイメージを抱いているということなんですよ。
洞窟の凸凹を利用して描かれた洞窟壁画なんかも4万年も前から存在しているわけですけど、人間の想像力って、良い意味でも悪い意味でもそれほど変わっていないんじゃないかって(笑)。
村松 :
洞窟の形状を利用して描いているって、まさにプロジェクションマッピングじゃないですか(笑)。壁画もただ描いているのではなくて、ある種のストーリーや世界観が存在するわけですよね。表現上変わっているだけで、世界最古のエンターテインメントなのかもしれません。
眞さんが『ナイトウォーク火の鳥』の原案を作られた上でこだわったポイントについて教えていただけますか。
手塚 :
ストーリーと映像が従来の表現とは違う形で密接することで、ただ景色を観て楽しむだけではなく、その裏にある、歴史的な背景や人物を感じ取れるようなお話にしたいと思っていました。
僕は旅行をするときに、この場所には昔どんな物語があったんだろうと思いを馳せるんです。実際に現地で歴史書を買って調べながら、ここで何百年も前にこういうことがあったとか、そこの湖はいまこうだけど、もともとはちがう湖だったとか、自分の中で歴史を読み解いて想像しながら、旅をするのが好きで。
淡路島をはじめ瀬戸内海一帯というのは、その昔、海の民が作った古代都市群なんですね。いまはほとんど消失してしまった古代のストーリーをふんわりと引っ張りだせたら面白いんじゃないかと、古代に生息した海の民「アマーン族」という“海人”にちなんだ民族を登場させました。
『ナイトウォーク火の鳥』は、お客さんにダイレクトに伝わる明確なストーリーがあるというより、その場所にどんな歴史があったんだろう、って想像してもらえるような内容になっています。
村松 :
以前は、作り手側からストーリーが提示されて、受け手側はそれを読んだり見たりして咀嚼するというのが一般的でしたけど、いま盛んに“体験型”や“参加型”という言葉が使われているように、お客さんが主役となる時代に突入しましたよね。
ストーリーの主体をどこに置くのか、作り手側と受け手側のストーリーどう交じり合わせるのか、とても難しい課題が生じていると思うんです。
手塚 :
大きな課題だと思います。単に見せられるだけではなくて、受け手側もストーリーの一部分を成すことで、個人の体験や感じたものが最大のストーリーとなるわけですから。
『アルタード・ステーツ 未知への挑戦』という映画のモデルのひとりになった、ティモシー・リアリーというVR(ヴァーチャル・リアリティ)がまだ黎明期に提唱した方にお会いしたことがあって、彼が「VRに装置は必要ない、君が体験したことを僕がそのまま感じ取れることではじめてVRが存在することになる」と言っていたんです。そのときは何を言っているのかわからなくて、ちょっと、ラリっていたのかも知れないなって思ったくらい(笑)。
村松 :
(笑)。
手塚 :
ずっとそれから考えてはいるんですけど、彼が言っていたことは要するに、個々が持つ自分のストーリーを相手にどれだけ伝えられるか、個人の体験というものの重みについて説いていたのかなって。
村松さんのお話を聞いていて、急にそのときの話を思い出しました。
村松 :
手塚治虫さんが描かれた「火の鳥」についてですが、特に大事にされていた部分はどこにあるとお考えですか。共通したテーマというのはあったのでしょうか。
手塚 :
手塚治虫が直接影響を受けたのは、ロシアの民話でした。有名なバレエ「火の鳥」を観て、そこから着想を得た。
僕は、人間の歴史に架空の「火の鳥」を絡ませていくというところにいちばんオリジナリティを感じるんです。
例えば、平家物語を取り入れた「火の鳥・乱世編」では、歴史上の人物と「火の鳥」を絡ませ、現実と虚構を完全に混ぜてフィクションを作っていて、それも単に歴史をなぞっているのではなく、自分の心のなかに眠っている日本人の気質や感性を投影した物語になっていることに気付きました。
村松 :
今回の『ナイトウォーク火の鳥』も、淡路島という実際にある場所を舞台に、創作したストーリーと演出を加えたという点で、同じことが言えるかもしれませんね。その土地に根付く話と絡みあわせることによって、虚構と現実を行き交い、ストーリーやその背景を感じてもらう。
新しい表現だし、いままでになかったアトラクションだと思います。
手塚 :
最近、“2.5次元”って言葉をよく聞くじゃないですか。『ナイトウォーク火の鳥』は、“2.5次元”を超えた、“3.5次元”だなって(笑)。
そこに気付かせるような空間を作るということが、いま一番クリエイターに必要なことなんじゃないかな。
村松 :
2次元と3次元の間じゃないぞと。むしろ、3次元の上だぞと(笑)。
そういった意味では、実際に森の中を歩いてもらうという行動も伴うじゃないですか。ストーリーを作るにあたって、そのへんもかなり意識されたのでは。
手塚 :
村松さんも演出するときに御苦労されたかと思うんですが、あまりにも森そのものが広大じゃないですか。全部に手を加えるとなると、ものすごくコストも掛かりますし、そうしたところで、森じゃなくてもいいんじゃないかってことになってしまう。
実際、夜ですから、とても暗い森のなかを歩くわけですが、途中、フッと上を見上げると、晴れているときは星空が広がるんですよ。あの星の光は、何万光年も先から地球に届いている光なんだと考えると、それこそが「火の鳥」のストーリーそのもののようで、とても感動しました。
村松 :
演出については本当に苦労しかなかったんですが(笑)、森じゃないとできないことをやらないといけないし、森という素材をどこまで活かすかですよね。今回の演出にも、ただ見るだけじゃなくて、森を感じて欲しかったというのがあって。
ストーリーをただ伝えるだけだったら、映像で説明するのがいちばん早いんですよ。そうではなくて、その場で感じることが重要で、要は木に直接“触れる”とか、森を直に感じる行為を体験することでバックストーリーやメッセージを届けられればと。
手塚 :
特に面白いなと思った演出が、木に顔が投影されて言葉をしゃべるじゃないですか。非常にシンプルなアイデアなんだけれども、昔の人は森のなかで生活していたとき、実際、木に語りかけていたんじゃないかと思うんですよ。
村松 :
僕もおそらく木と交信したり、会話ができたと思いますね。エスキモーに伝わる伝承で、昔の人間は動物になれた、風にもなれたし、雨にもなれた。なぜ、そういうことができたのか。ただ、思うだけでよかったのだ、という内容のもので凄く好きなんですけど、昔の人って、そういう感覚を持っていたんでしょうね。
手塚 :
木がなにか情報を出していて、それを受けることもできたんだと思いますね。現代の人たちはもう忘れてしまったけど、とりあえず、木に触れてみるとか、木に耳を傾けてみるとか、自然の力を感じる一歩として大切なことかなって。
手塚治虫の「ブッダ」でも、主人公シッダルタは人生のターニングポイントでは必ず大きな木の下に居るんです。彼も自然の力を木から得ていたんじゃないかという気がします。
村松 :
ちなみに、今日、お越しいただいたこちらのお店は、"食×アート”の体験型レストランなんですが、「TREE by NAKED yoyogi park」と言いまして(笑)。
まさに、木の下で食事をすることや集うことをテーマにしています。
手塚 :
本物の木じゃなくてもモチーフとして映像でイメージできたり、感じたりすることで、本当の自然のなかに行って木を感じてみたいと思ってもらえるのではないでしょうか。
村松 :
まさにそこで、人間のライフスタイルにおいて、自然とテクノロジーというのは、どちらも必要で切り離せないものだと思うんです。
代々木公園という自然がすぐそこにあるということにも意義があって、最新テクノロジーを使って“食”と“アート”を演出し、“食べる”という人間の原点とも言える行為とを融合させることで、自然とテクノロジーはこの先ずっと共存していくということを浮き彫りにしたかったんです。
手塚 :
すごくいいテーマだと思いますね。僕らはもういまの時代の文化的な恩恵を知ってしまっているわけで、自然だけの中で生活を送ることは無理なんだけど、実は自然と繋がっているんだって思えることで、やすらぎを感じて生きられる気がします。
そこに気付かせるような空間を作るということが、いま一番クリエイターに必要なことなんじゃないかな。
村松 :
確かにクリエイターの仕事というのはそういうことかも知れないですね。
普段、歩いているときに、ふと岩を触るとか、木肌を触るとか、そういうことってなかなかしないと思うんですよ。
実際に夜歩きながら、淡路島の自然そのものに触れることによって、最先端のテクノロジーという技術的な側面だけで終わるのではなく、忘れがちな気付きや新しい視点をなにかしら得るような、その人だけの物語に出会える機会を作れればいいなと思います。
手塚 :
そのきっかけをつくることって、すごく大事なことですよね。今回の『ナイトウォーク火の鳥』を通して、気付かされました。
村松 :
僕は森を演出することがいかに大変かということにも気付かされたという(笑)。
手塚 :
(笑)。淡路島には都会にあるようなちょっとした自然ではなくて、本物の自然がしっかり根付いていますからね。
海もあるし、美味しい食べ物もある最高の環境のなか、『ナイトウォーク火の鳥』では、本物の星の光と人間がテクノロジーで作り出す光も同時に体験できる。その感動を味わって欲しいですし、その土地ならではの歴史を思い返していただいて、ひとりひとりのなかにある日本人の感性を見つけて欲しいですね。
村松亮太郎
アーティスト。クリエイティブカンパニーNAKED Inc.代表。大阪芸術大学客員教授。環境省が認定した日本一の星空の村「阿智村(あちむら)」阿智★昼神観光局のブランディングディレクター。
TV/広告/MV/空間演出などジャンルを問わず活動。 長編/短編作品と合わせて国際映画祭で48ノミネート&受賞している。
代表作として、東京駅3Dプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』、「東京国立博物館特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」『KARAKURI』」の演出、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』タイトルバック、『新江ノ島水族館ナイトアクアリウム』企画・演出など。2016年5月には、市川染五郎主演の歌舞伎ラスベガス公演”Panasonic presents Wonder KABUKI Spectacle'KABUKI LION’ ”の空間創造を手掛ける。近年では、東京タワーほか全国主要タワーにて夜景×マッピング『CITY LIGHT FANTASIA by NAKED』シリーズや、花の体感型イベント『FLOWERS BY NAKED』、『SWEETS by NAKED』(表参道ヒルズ)、『二条城 桜まつりーDirected by NAKED』などを手掛けており、これまでのイベント通算動員数は150万人を超える。
2017年6月より”東京”を体感するアート展『TOKYO ART CITY by NAKED』開催。アーティスト本&作品集「村松亮太郎のプロジェクションマッピング SCENES by NAKED」がKADOKAWAより発売。
手塚眞
1961年東京生まれ。ヴィジュアリスト
高校時代から映画制作を始め、ぴあフィルムフェスティバルほか数々のコンクールで受賞。大島渚監督ら映画人に絶賛される。
大学時代に8mm映画『MOMENT』を発表、学生映画のヒット作となり現在もDVDが発売されている。
以後、映画・テレビ・CM・PV等の監督、イベント演出、CDやソフト開発のプロデュース、本の執筆等、創作活動を全般的に行っている。
1981年角川映画『ねらわれた学園』に俳優として出演。テレビ『もんもんドラエティ ~お茶の子博士の HORROR THEATER 』が高視聴率で人気となる。
1985年『星くず兄弟の伝説』で商業映画監督デビュー。
2012年には震災後の石巻に取材したドキュメンタリー『雄勝 〜法印神楽の復興』を撮る。
また手塚治虫の遺族として宝塚市立手塚治虫記念館、江戸東京博物館「手塚治虫展」、手塚治虫公式ホームページ等の企画、プロデュースを行う。
著作に『ブラックキス』(幻冬舎)『ヴィジュアル時代の発想法』(集英社新書)『父・手塚治虫の素顔』(新潮社)他がある。
有限会社ネオンテトラ代表取締役。株式会社手塚プロダクション取締役。一般財団法人手塚治虫文化財団代表理事。一般社団法人ジャパンイメージカウンシル理事。東京工科大学客員教授。イメージフォーラム映像研究所専任講師。
http://neontetra.co.jp
◆ニジゲンノモリ公式HP
http://nijigennomori.com/
◆ニジゲンノモリ公式Twitter
http://columbia.jp/tomita/newrelease.html