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虫ん坊 2017年7月号 特集2:第21回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

虫ん坊 2017年7月号 特集2:第21回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

朝日新聞東京本社での展示の様子


 早くも第21回を迎えた手塚治虫文化賞の贈呈式が、2017年5月31日に行われました。
 普段、お目に掛かることのできない先生方のお話を直接拝聴しながら、一緒に受賞をお祝いできる貴重なイベントとなっています。
 虫ん坊では昨年に引き続き、贈呈式と記念イベントの模様をお届け致します。


虫ん坊 2017年7月号 特集2:第21回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

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当日のスケジュール



贈呈式


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 関係者、招待者が会場を満員に埋め尽くすなか、『鉄腕アトム』の主題歌に乗せて各受賞者が入場。
 主催者のごあいさつから幕が開きます。

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朝日新聞社社長 渡辺雅隆 さん


 はじめにお祝いと受賞作品のご紹介を述べられました。
 また、詳細は未定ですが、今後、手塚治虫とゆかりの深い自治体などの後援団体の協力を経て、直筆サイン入り受賞作品パネルの巡回展も行っていく予定とのことです。

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 続いて、来賓を代表しての祝辞です。

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手塚眞


「日本のマンガはそもそも世界の水準の中でも高いクオリティがございます。
 先生方の作品はいまの日本を代表する資質をそなえていると感じました。
 手塚治虫が亡くなりまして28年が経とうとしています。今なお “手塚治虫”という名前が色あせずにあるのは、ひとつにはこの手塚治虫文化賞が長く続いているおかげ、また、もうひとつに、手塚治虫の描いた未来というものが現在も息づいているからではないかと思います。
 昨今、マスコミでも“AI”が随分取り上げられ、商品化されたという記事を目にしますが、自動車が人間よりも速く走るからといって人間を超えたと思わないことと同じで、今回の受賞作のような、人間の機知、心のひだが巧みに描かれた作品を人口知能が自ら生み出すことは、まだまだできないことなんじゃないかと思います。とはいえ、機械が入る余地はまだないにしても、マンガの選考に加わって分析することだったらできるかもしれない。そんな妄想を膨らませたりするのもマンガ文化が生み出すひとつの力かなと思います。
 まさにマンガというのは作家の想像力、そして、読者の皆様の想像力がぶつかったところで作品としての力が生まれ、このことがまた文化を築いていくことに繋がるのだと感じます。
 この場をお借りして、全国のマンガを支えてくださっている読者のみなさまに感謝を申し上げます。」

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 更に今回の選考結果の説明へと移ります。今回の受賞作はどのように選ばれたのでしょうか。

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選考委員 中条省平 さん


「最初に書店員・マンガ雑誌の編集者の方々、選考委員8名の投票に基づいて最終選考に選ばれたノミネート作品は、雲田はるこさんの『昭和元禄落語心中』、野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』、梅田阿比さんの『クジラの子らは砂上に歌う』、高浜寛さんの『SAD GiRL』、丹羽庭さんの『トクサツガガガ』、大月悠祐子さんの『ど根性ガエルの娘』、くらもちふさこさんの『花に染む』、星野之宣さんの『レインマン』の8作品でございます。
 議論を重ねるうちに、『昭和元禄落語心中』と『ゴールデンカムイ』と『花に染む』が大賞の有力作として浮上しました。
 最終的に決選投票ということになりまして、『花に染む』が過半数を制して大賞を受賞ということになりました。『花に染む』に関しては、少女マンガの伝統を擁しつつ、非常に精神的な実験を繰り返しながら素晴らしく力のこもった作品に仕上がり、完結致しました。これは、くらもちふさこさんという作家にとっても、代表作になるにふさわしい作品にではないかという評価が寄せられました。
 続きまして、新生賞ですが、これは惜しくも大賞を逸された雲田さんの『昭和元禄落語心中』が実質的なメジャーデビュー作品だということ、落語という伝統的な世界を題材にしておりますけれども、BLなどを通過した新鮮な手法が非常に光り、新しい才能の登場を印象付けたことから、『昭和元禄落語心中』が受賞ということになりました。
 短編賞は、最初から深谷かほるさんの『夜廻り猫』が非常に支持を集めました。現代において人情をストレートに謳いあげる、その説得力に支持が集まりました。
 特別賞は我々選考委員の推薦に基づいて、朝日新聞社が決定致します。国民的人気マンガである『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を40年間連載し、ついに完結させたという文字通りの偉業に対して今年は秋本治さんに決定しました」

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 ここで、いよいよ『鉄腕アトム』のブロンズ像と副賞の授与となります。
 各先生方の緊張がこちらまで伝わってくるようでした……!

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くらもちさんの展示コーナーの様子。サイン入りパネルを中心に受賞作の『花に染む』はもちろん、前作にあたる『駅から5分』、作画に愛用したペンや作画の際、参考にしたゴム弓、直筆の書き込みが入った、参考資料の年表などが並ぶ

マンガ大賞 くらもちふさこ さん


「恥ずかしながら(本日)駅の階段の上から足をすべらせて、ねん挫をしてしまうといううっかりなことをしてしまいまして。
 こういったあまりにも喜ばしい賞をいただいたことが受け止めきれないくらい嬉しかったので、プラスマイナスゼロで(笑)、ある意味、気持ちよく受け取れるかなと自分の中で等価交換といたしました。

 このような手塚先生のお名前に冠する賞をいただけたこと、身にあまる思いでございます。私たちの生まれた時代というのは、ほとんどが手塚先生の作品を読んで育ったこどもたちばかりで、私も同様に先生の作品で育ちました。いろんな空想をするとか想像をするとか、そういう喜びを(手塚作品の)奇想天外なストーリーから学びました。そういう環境の中で育ったことが礎となり、いまこの場所に立たせていただいているのだとしましたら、こんなに喜ばしいことはございません」

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雲田さんの展示コーナーの様子。こちらもサイン入りパネルを中心に、『昭和元禄落語心中』の原作コミックスをはじめ、作品のキャラクターをモチーフにした「八雲」と「与太郎」の反物、「助六」の『落語心中ゆかた』、手ぬぐいなどが並ぶ

新生賞 雲田はるこ さん


「口下手なものでこちらで失礼します。
 (おもむろに取り出したスマホを見ながら)大賞のくらもちふさこ先生、短編賞の深谷かほる先生、特別賞の秋本治先生と、大ファンのマンガ家さん方と一緒に受賞させていただいたことも本当に嬉しく光栄に思っております。
 『(昭和元禄)落語心中』というマンガは、落語家さんたちが作り上げた“落語”という文化がなければ、まったく成り立たないマンガです。古典落語を作中に使わせていただいたんですが、お会いした落語家さんたちは快く受け入れて楽しんでくださいました。都内の定席寄席で『昭和元禄落語心中寄席』(2017年1月31日に開催された定席寄席3軒の合同落語フェス。原作に登場する落語を実際に五街道雲助などの現役の人気落語家が演じた)という落語会まで開いていただいき、(その模様は)朝日新聞さんやAERAさんにも大きな記事で取り上げていただきました。寄席にお客さんが増えて欲しいという思いで描き始めたマンガですので、満場の客席を目の当たりにしたときの感動はいまもこれからも一生忘れられないと思います。それから、落語心中のアニメのスタッフさんにも、アニメからたくさんの大きなインスピレーションをいただいて、マンガに良い影響を与えていただきました。完結までの道のりをみなさんと一緒に走れたこともとても貴重で幸せな経験でした。
 来年でマンガ家デビューから丸10年という節目を迎えます。そういう年に新生賞という素晴らしい賞をいただけましたこと、はじめての長期連載への“お疲れさま”と“次の連載もがんばって”というエールをいただいたと思って、これからもこのアトム像を励みにさせていただきたく思っております。最後に、日本の最高の文化であるマンガ、そして、落語の末永い発展の一助となれましたこと、とても光栄に感じております」

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短編賞 深谷かほる さん


「私はその昔、くらもちふさこ先生のマンガに憧れて、福島から武蔵野美術大学に入りました。
教室でよく同級生たちと一緒にいろんな作業をしたんですけれども、ある日、同級生のひとりが、みんな、“シーン”って知ってる? あれも手塚治虫が最初に始めたんだって、と言い出しまして、マンガの場面で場が静まっているときに使う“シーン”という言葉なんですけど、もちろん、知ってる知ってる。なにもかも手塚治虫だね、と返したら、だから、俺らはみんな手塚治虫の子どもなんだよ、とそんな話をしていたことを思い出しました。
一番最初に観たアニメは白黒テレビの『ジャングル大帝』でしたし、感動して眠れなくなった『きりひと讃歌』、『ブラック・ジャック』、小さいころからたくさんの素晴らしい手塚作品に触れられて本当に幸せでした。
その後、マンガを描くようになるとは全く思いませんでしたが、マンガからどれだけの楽しみを、たくさんのものを与えられたかと思います。読めただけで本当に幸せでした。
それが思いがけず、自分で描いたささやかなマンガにまで今回は光を当てていただきまして、本当にありがたいことだと思います。自分のマンガについては、あまり“作っている”というほどではなく、普通に頑張っている人たちがお互いに元気や勇気を、希望を与えて励ましあっている、そんな場面を切り取らせて描かせてもらっているだけだなって思います。
みんな自然にそういう風に生かし合っているんじゃないかなっていう、そんな気持ちで描いたところもあります。本当にありがとうございました」

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特別賞 秋本治 さん


「本日はこのような賞をいただき本当にありがとうございます。僕は小さいころから、マンガで出来ていたって言っていいくらい、マンガが大好きでした。
 マンガ家に憧れてマンガ家になりたいなあと思っていた時期に、手塚先生のマンガを読んで、名前が、手塚“治虫”で、僕も秋本“治”で、近い!と(笑)。
 あとから聞いたら、手塚先生は本名は“治”で、虫が好きで虫を付けたので、本名は“治”で同じだ!すごい、そのことがモチベーションになって、僕は絶対にマンガ家になろう、マンガ家になって、手塚先生に会おうっていうのを夢に、ずっとマンガを描いていました。
 それから、『週刊少年ジャンプ』でデビューして、当時、年に2回、手塚賞・赤塚賞のパーティがあったんですが、手塚先生が忙しいなかいつも来て壇上で話をされていたんです。
 僕はそのとき、審査員をやっていまして、僕の3メートル前に手塚先生がいるんですよ。うわーー、会いたい! って(笑)。『バックネットの青い影』とかマニアックな作品も含め、子どもの頃から読んでましたってひとことしゃべりたいんだけど、先生は忙しいからそのまま挨拶をしてサッといつも帰られるんですね。
 なかなかきちんと話すチャンスがなくて、たまたま時間があるときに、会場のなかに来るんだけれど、一歩(壇上から)降りた途端、黒山の人だかりでとても近付けないんです。目の前で、ファンの方にウランちゃんとか描いているわけですよ。あーー、欲しいなあって(笑)。
 それから先生がご病気になられて、お話をする夢は叶わなかったんですけれども、先生の名前を冠した賞を取れたということで、今日ついにお会いできたような感じがして、いままで憧れていたのが、形になったようですごく嬉しく思います。」



記念イベント


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 ここでコミュニケーション・ロボットのATOM(CV:津村まことさん)が登場し、「アトムが突撃インタビュー」と題して、受賞者のみなさまにお祝いインタビューを決行!

 再度、手塚眞、受賞者が壇上へ。手塚眞が声を掛けるとATOMが起動。
 まずは栄えある大賞を受賞されたくらもちふさこさんから、ATOMのインタビューがスタートしました。

 受賞作『花を染む』は弓道を題材とした、陽人(はると)・花乃・雛(すう)・楼良(ろうら)の4人のラブストーリー。

 くらもちさんに受賞の気持ちを伺ったあと、「ボクはロボットだから、弓は射れないけど、代わりに歌と踊りでお祝いするね!」と言ったかと思うと、突然、スクッと立ち上がるATOM。その姿にどよめく会場内。

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 盛大に鳴り響く、音楽。このイントロは……!




(((『アトムの子』 作詞/作曲/歌:山下達郎 )))



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 リズムを取りながら、歌って踊るATOM。

 ATOMがパフォーマンスを終えると、場内からは拍手と笑いが起こりました。
 ちなみに、この「アトムの子」はATOMに標準装備されているとのこと。
 完成系のATOMがいれば、いつでもどこでも「アトムの子」が聴けちゃいます。変調パートまでバッチリです。

 ATOMがくらもちさんに感想を尋ねると、「すごくうまかったし、ATOMは歌もうまいんだね! ビックリしました! 格好良かったです!」という、人柄がにじみ出る菩薩のような御言葉が。

 大賞作品の感想を訊かれて、「ボクもあんな恋をしてみたいなあ。くらもちさん、ロボットのボクにも、恋できるかなあ」というATOMの言葉に対し、「ちょっとわからないけれど、でも、恋をするロボット第一号になって欲しいなと思います」と、心優しい受け答えをされていました。


 次に、雲田はるこ先生が登場!

 ATOMが「受賞した感想はどうですか?」と伺うと、「はい、とっても嬉しいです。まさか、アトムと話せる日が来るとは思ってもみませんでした」とごもっともな意見。

 受賞作『昭和元禄落語心中』は、落語家・有楽亭八雲と弟子の与太郎、天才落語家の助六の物語。
 作品についての問い掛けに対し、「ロボット落語家・ATOMも落語ができるんだよ!」と再び意気込むATOM。

 「ロボット落語家?!!!」と、「?」と「!」が思わず飛び交う空気をよそに、突如ぶちかます落語の前座噺「寿限無」。

 「寿限無(じゅげむ)寿限無、五劫(ごこう)のすりきれ、海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命(ちょうきゅうめい)の長助……」
※従来の1.5倍くらいの速さでイメージ願います

 ATOMの超早口な「寿限無」に対し、「思ったよりも速くてビックリしました(笑)。とても上手ですね!」と、雲田さん。若干、動揺を隠せないようにお見受けしたのは気のせいでしょうか……。
 ATOMの「雲田さんは好きな落語家は誰ですか?」という質問に対しては、「はい、たくさんいるんですけど、柳家小三治師匠が大好きです」と即答。

 柳家小三治師匠、要チェックです。

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 続いて、深谷かほる先生が登場!

 ATOMが『夜廻り猫』に登場するお決まりのセリフを真似て、「泣く子はいねが~~、泣いている子はいねが~~、む、涙の匂い、もし、そこな深谷先生、おまえさん、なぜ泣いておる」と振ると、司会の美女が「なぜ泣いておるって、先生、泣いてないよ、ATOM」とツッコミます。
 「いーや、心で泣いておろう。深谷さん、いまの受賞の気持ちはどうですか」と畳み掛けるATOM。深谷さんも「心で泣いているくらい嬉しいです」と応えます。

 受賞作品『夜廻り猫』は、涙の匂いがするところに現れる夜廻り猫の遠藤平蔵が、弱い者にも強い者にもそっと寄り添う物語。

 「『夜廻り猫』にはボクも励まされたんだ。深谷さん、ボクもみんなを癒やしてあげる、『夜廻りロボット』になれるかな」というATOMに対し、「ATOMなら、宇宙的な『夜廻りロボット』になれます」と、『鉄腕アトム』の世界観に寄り添ったコメントをされていました。

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 最後は特別賞の秋本治さんが登場です。

 「僕、ボーカロイドが好きなんで、機械と話すのはすごく好きです。リアクションもワンテンポ遅れるのがすごく心地よいです」という、サブカルチャーに詳しい両さんの生みの親らしい発言。

 ご存じ、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の連載は40年も続き、国民的マンガとなっています。

 「一度も休まず完走できた秘訣はなんですか?」というATOMの問いに対し、「風邪引いたときって風邪が治ったらなんでもできる感じになるじゃないですか。健康体だとずっと描き続けられるし、丈夫に生んでくれた両親に感謝の気持ちでいっぱいですね」と、1番の秘訣は、身体の健康との返答が。

 40年も続いた連載が終わったときの気持ちについては、「やっぱり40年間描いてきたので、思うところはいっぱいあったんですけれども、読んでくれた読者に納得する終わり方をしたいなとすごく思っていたんですね。単行本も200巻で連載も40周年というちょうどキリがいいところで終わり方も自分としてはよかったんじゃないかなと思っています」と秋本さん。
 誰もが気になる新作については、「両さんをはじめ、男の人をたくさん描いてきたので、これからは、女性を主人公にしたマンガを描きたいと思っています」と意気込みを語られました。


 ATOMの登場と畳み掛けるパフォーマンスのムチャぶり? に、会場も壇上の受賞者の方々もはじめは置いていかれそうになりながらも、終始笑いが絶えず、和やかで楽しいインタビューとなりました。

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 当日のラストを飾るのは、くらもちふさこさんと秋本治さんの対談です。

 実はくらもちさんと秋本さんは旧知の間柄。雑誌は違えど、集英社でずっと一緒に描いていたおふたり。編集者を通して、マンガ家同士のグループでよく顔を合わせていたそう。
 まずは栄えある大賞を受賞されたくらもちふさこさんから、ATOMのインタビューがスタートしました。
 くらもちさんについて、「電車に乗る時に階段で転んで足を怪我するっていう、おちゃめな感じが昔から変わっていない。転んじゃうのがサザエさん的でかわいいマンガ家さんだなあと思います」と秋本さん。

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 どんなマンガから手塚作品に入ったかというような話では、手塚マンガで育った世代の自分たちが、当時、どんな作品に触れていたかを語られました。


くらもち

 「(手塚作品と出会った)当時は小学生低学年で、大人のように本を買いあさって読むことができなかったので、おこづかいを貯めてカッパコミクスの『鉄腕アトム』をコツコツ集めていました。
 アトムが連載していた『少年』は親戚の男の子から借りて読んではいたけど、飛び飛びで話がつながらなくて。話を全部通して分かるようになったのはアニメーションが始まってからです。マンガよりもアニメーションの手塚治虫としての方が心に残っているかもしれません」


秋本

「僕が最初に買った手塚作品は『新選組』で、中学2年のときでした。
 当時、総集編という形はあったけど、コミックスというものがまだなくて、マンガは読み捨てにされるものだったんです。『新選組』はいまのコミックス時代の先駆けのような存在でした。
 小説みたいに最後にあとがきがあるんですけど、こう思って描いたという作家の意見がそこには書いてあったりして、初めて、コミックスには作家の本当の言葉が書けるんだと知りました。
 昔からマンガ好きな少年を育てる基盤を作ることをずっとやっていた手塚先生は、マンガ家に対しても、マンガ作品に対しても、どういう風に残していくか、どういう風に読まれていくのかということを絶えず考えながらいろいろ描いていらしたんだなと思います」

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ご自身で持参された『新選組』のコミックスを手に想いを語る秋本さん


 途中、お互いが作中で描かれた弓道について資料もなく苦労したという話を交えながら、くらもちさんの受賞作『花に染む』について秋本さんが、「いかにもやったようにみせるのも作家の技量。本当にこの街があって、みんな住んでいるようなリアリティがあります。実写を観ているような気がしました」と称える場面も。

 また、くらもちさんは少年マンガばかりを、秋本さんは逆に少女マンガばかり読んでいた時期があるそう。


秋本

「『サイボーグ009』の話をくらもちさんとしたとき、島村ジョー(009)とフランソワーズ・アルヌール(003)が一緒に座っているときはうしろで絶対手を繋いでいるって、少女マンガ家特有の妄想で話してきて(笑)。くらもちさん、それは違うと思うよって(笑)。
 少女マンガって、本当、妄想が大切だと思うね。実はこうなっていたんじゃないかっていう。その辺、男の作家はストレートに書いちゃいますけど」


くらもち

「いま思えば、妄想力は作家にとって大切なことだなって。そこをすごく手塚作品に育ててもらったと思います。
 久々に『火の鳥』をもう一度読み返したんですね。そうしたら、自分で無意識に影響されているんだなあと思うところがありました。
  コマ自体が絵と一緒に調和されている感じの構成がありますよね。ああいう部分が、私、影響されているなあと改めて思って、意識していないところで影響を受けているのが良いことがわからなかったけれども内心嬉しかったです」


秋本

「僕らが一番吸収する時代にそういうマンガを読んで育ったのは大きいよね。さっきの歌のアトムの子じゃないけど、先輩たちの活動とかマンガへの姿勢を次の世代も受け継いでもらえたらと思いますね」


 話は尽きず、“○分前”というカンペが袖から掲げられてもなかなか気付かないおふたり。時間が差し迫るなか、くらもちさんが秋本さんに聞いてみたかった質問を投げかけます。


くらもち

「手塚作品ではなにがお好きですか?」


秋本

「初期の作品だね。『魔神ガロン』とか、小さければ小さいときにみた方がインパクトがあるよね」


くらもち

「リアルタイムで観ることってすごく影響が大きいと思いますね」


秋本

「結構、重要だよね。大人になって見るのと全然違うし」


くらもち

「そういう意味ではいい時代に生まれたなあって思っていますね。 自慢話になりますけれども」


 最後は秋本さんが締めくくります。


秋本

「古き良き友人として、くらもちさんが大賞を受賞されたことが本当に嬉しくって。
こういう機会を設けることで、マンガに対していろんな人に注目してもらったり、関心を持ってもらえたりする本当に良い機会だと思いますので、今後も続けていただけたら本当に嬉しく思います」


 

 来年はどんな作品が選ばれるのか――

 手塚治虫文化賞の贈呈式とイベントには、一般の方でも参加できる無料招待枠があります。抽選とはなりますが、受賞作の展示はもちろん、マンガ家の先生方のお話を生で聞ける貴重な機会です。
 参加者には、記念に手塚キャラのピンバッジもプレゼントしていますよ!
 来年はぜひ参加応募してみてはいかがでしょうか。



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