7月といえば、夏休みがスタートだ! というワケで、今回のオススメデゴンスでは、有意義な夏休みを送るはずの少年の身に降りかかる奇妙な出来事を描いた『すべていつわりの家』をご紹介します。
これぞ、手塚が描く真夏の夜の夢!? この世で~あなたひとり~♪ というフレーズにぴったり当てはまるシーンも登場しちゃいますよ。
悪夢のような展開の先に待つ壮大なラストシーンは、必見です!
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集「メタモルフォーゼ」 あとがきより)
ぼくは“変身もの”が大好きです。
なぜ好きかというと、ぼくは、つねに動いているものが好きなのです。物体は、動くと形が変わります。いつまでも、静かだったり、止まっているものを見ると、ぼくは、イライラしてきます。動いて、どんどん形が変わっていくと、ああ、生きているんだな、とぼくは認め、安心するのです。
(中略)
こういうわけで“変身”は、ぼくのマンガの大きなひとつの要素です。調べてごらんになるとおわかりですが、どのマンガにも、どこかに、変身――姿を変えたもの――のテーマがかくれています。リボンの騎士も、アトムも、0マンも、マグマも、ビッグXも、もちろんW3や三つ目や悟空など、変身ものの典型でしょう。そこで、この「メタモルフォーゼ・シリーズ」も、そのつもりで、いちばん出しやすいテーマのシリーズのつもりで連載を始めたのです。
(後略)
「メタモルフォーゼ」とは、ずばりドイツ語で「変身」の事。上の『解説』にもあるとおり、手塚治虫が「変身するもの」を愛したというのは、最早手塚ファンの間では周知となっています。
でも、よく考えてみれば手塚治虫ならずとも、子供の頃はみんな「変身」が好きだったはず。皆さんも一度は、テレビの変身ヒーローの真似をしてポーズを取ったり、魔法の鏡に見立てて、お母さんのコンパクトをこっそり持ち出したりしたことがあるのではないでしょうか。
この「すべていつわりの家」は、“変身”をテーマにしたシリーズ「メタモルフォーゼ」に収められた一編ですが、読者の方はきっと、「あれれ?」と思われるに違いありません。ぜんぜん変身ものじゃないじゃん。いつ変身シーンが出てくるの? と。
一見のどかな夏休みの平和そうな夜。主人公の
読み進めていくと、その違和感が徐々に強まって行きます。お母さんの体が冷たかったり、普段やさしいお父さんが突然ひどく乱暴になったり…、一見ごくふつうの日常のようでありながら常に怪しげな気配が漂っています。
実は作品冒頭から、意外なモノが既に「変身」を遂げてしまっているのですが、いったいなにが変身してしまったのかは、作品を読んでのお楽しみです。
「変身」というテーマのアレンジの鮮やかさもさることながら、実はこの作品、ラストシーンが必見なのです。救いがないはずなのに心がちょっと温かくなる、なんとも憎いラストですので、ぜひ読んでみてください。
なお、この作品と同じようなテーマを持ちながら、一転サスペンスタッチの「赤の他人」という作品もあわせて読んでいただくと、結末の後味がまったく違っていて、その対比を楽しめます。「赤の他人」は「SFファンシーフリー」に収録されています。
久少年が、意外なモノの「変身」を目撃してしまった時のリアクションがこちら。
セリフはなくとも、その表情から驚き・恐怖・困惑・絶望が見て取れます。
まさかの展開に、読者も久のように言葉を失ってしまうこと間違いナシ……。
みなさんも学生時代にきっと経験したことがあるのではないでしょうか? 夏休みの風物詩(?)お母さんの「宿題はやく済ませなさい!」攻撃を。
この久君も例にもれず、夏休みに入ったばかりだというのに「宿題やんなさい!日記書きなさい!レポート作りなさい!手紙書きなさい!」とお母さんから散々言われてしまいます。
そこで、たっぷりと顔を歪めてこう言い放つのです。「そんなこと毎日してりゃ夏休み終わっちまァい」……。
なんてフテブテしい顔! そしてセリフ! 宿題なんかやってたまるかという態度がむしろ、潔い!
しかし、この先久が体験するのは、夏休みの宿題地獄よりももっと恐ろしい現実だったのです。