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虫ん坊 2017年6月号 特集2:Amazing Performance W3 構成・演出 ウォーリー木下さんインタビュー

虫ん坊 2017年6月号 特集2:Amazing Performance W3 構成・演出 ウォーリー木下さんインタビュー

劇作家・演出家 ウォーリー木下さん


 『W3(ワンダースリー)』がノンバーバルパフォーマンスでロングラン公演決定! 
 このニュースを初めて耳にしたとき、虫ん坊スタッフは思いました。ノンバーバルパフォーマンスってなに、と……。
 これは是非ともお話を聞くしかないと思い立ち、構成・演出を手掛けるウォーリー木下さんを直撃!!
 舞台『W3』にまつわるエトセトラを伺いました。


 プロフィール

劇作家・演出家。神戸大学在学中に演劇活動を始め、劇団☆世界一団を結成し、現在は「sunday(劇団☆世界一団を改称)」の代表として全ての作品の作・演出を担当。外部公演も数多く手がけ、役者の身体性に音楽や映像を融合させた演出を特徴としている。また、ノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースにおいてはエジンバラ演劇祭にて五つ星を獲得するなど、海外で高い評価を得る。10ヶ国以上の国際フェスティバルに招聘され、演出家として韓国およびスロヴェニアでの国際共同製作も行う。最近の作品に、「ハイキュー!!“勝者と敗者”」「ハイキュー!!“烏野、復活!」「ハイキュー!!頂の景色」「Honganji-リターンズ-」「Honganji」、「麦ふみクーツェ〜everything is symphony!!〜」、「やぶのなか」などがある。また、DANCE BOX 20周年企画 「The PARTY -Can’t Stop the Dance-」他、様々な演劇祭のフェスティバルディレクターや「東京ワンピースタワー ONE PIECE LIVE ATTRACTION」の演出、「東京パフォーマンスドール(TPD)」のライブ演出を手がけている。



ノンバーバルパフォーマンスとは

虫ん坊 2017年6月号 特集2:Amazing Performance W3 構成・演出 ウォーリー木下さんインタビュー

―――まず、木下さんのお名前ですが、やはり、絵本で有名な「ウォーリーをさがせ!」に因んで名付けたのでしょうか。


ウォーリー木下さん :(以下、木下)

 そうですね(笑)。当時、神戸大学の学生劇団に入っていたんですが、はじめてオリジナル作品を書いて演出することになったんです。そのときにスカウトした子役の男の子の家族と仲良くなって、あるときその子に言われたのが、「昨日テレビを観ながらみんなでご飯を食べているときに、あの演出家の人、風貌がウォーリーに似てるってことで盛り上がったの」って話だったんですけど、僕以外、30分くらい笑いが止まらない状態になりまして。その場で「今日からおまえはウォーリーだ」と言われたのがきっかけですね。
 仲間からも「確かに似てる!」ってすごく笑われて、後からボーダーのシャツを全部捨てるくらい後悔しました(笑)。
 僕自身は、ウォーリーが好きなわけでもないし、すぐ変えたらよかったのに、すっかり変えるタイミングを失って、ズルズルといまに至ります(笑)。


―――単刀直入にお伺いしますが、「ノンバーバルパフォーマンス」とはどのような表現方法なのでしょうか。


木下 :

 言葉に頼らなくても直感的に理解できるパフォーマンスのことで、海外では認知度が高いんですが、日本だとあまり耳慣れない言葉ですよね。
 海外って、たくさんの移民や人種がいる国が多いじゃないですか。おそらく文脈や言語にとらわれないで楽しめるものはなにか、と模索して発展していった表現だと思うんです。
 サーカス芸はその筆頭かと思うんですけど、1990年代には、オフブロードウェイ(ブロードウェイのなかでも比較的小さい劇場)でも『Blue Man Group(邦題:ブルーマングループ)』や『STOMP(邦題:ストンプ)』といった言葉を使わないミュージカルが注目を浴びていました。
 当時、ニューヨークに行ったときに彼らのショ―を観て、結構影響を受けましたね。


―――日本でも人気でしたよね。木下さんがノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO(以下、オリジナルテンポ)」を設立した理由もその影響からなのでしょうか。


木下 :

 きっかけはまた別で、阪神大震災から5年目だったかな。神戸アートビレッジセンターという総合施設から、神戸出身の演劇人を集めてなにかやりませんかという話が僕のところに来まして。丁度、ロックフェスが流行りだした時期だったんですけど、演劇でも1日に10組・20組いっぺんに観られるようなものって出来ないかなって思って、音楽やダンスはもちろん狂言師やお笑い芸人……、パフォーマンスが優れていればなんでもOKのフェスを開きました。
 そこで、ハタと気付いたんです。表現を突きつめることにジャンルなんて関係なくて、目指す核は全部一緒なんだということに。山に例えるなら頂上は一緒で、登り方や続いている道が違うだけなんです。
 そのときまでずっと、台本を描いて演出をするといういわゆる“演劇”をやってきたんですけど、面白ければ、ダンスみたいな演劇があってもいいし、音楽みたいな演劇があってもいい。もっと、いろんなことを試してみようと、オリジナルテンポを作りました。


―――演劇に関係なくても、面白いと思ったことをすぐ取り入れられるような環境を作りたかったと。


木下 :

 アイデアの集積の場ですね。
 最初の頃のオリジナルテンポは即興劇をやってみたり、ノンバーバルにこだわってはいなかったんですけど、「Shout Up,Play!! ~喋るな、遊べ!!~」という作品を作ったときに一回しゃべらないでやってみよう、という事になって。結果、その作品の評判がすごく良かったんです。
 当時、YouTubeが流行り出した頃で、作品の動画をアップしたところ、いろんな国からオファーが来るようになって、こんなに世界と簡単に繋がれるんだと、毎日感動していました。その自信によって、演劇を戯曲ではないものから作るようになっていきました。自分のなかの可動域が広がった気がします。


Amazing Performance W3について

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―――手塚治虫原作『W3』についてですが、『W3』がノンバーバルパフォーマンスで舞台化されることになった経緯を教えてください。


木下 :

 最初に、ノンバーバルパフォーマンスで面白いことがしたいというプロデューサー・江口剛史さんの意見があったんですよ。彼は舞台『アドルフに告ぐ』も手掛けている方で、次に、手塚さんの作品でノンバーバルができたらいいなという話になって、結構いろいろ悩んだんですけど、どの作品が合うのか結局分からなくて。分かんないなら教えてもらった方が早いと思って、手塚プロダクションに直接聞きに行ったんです。どの作品をノンバーバルでやったらいいですかって(笑)。
 そこで、設定に汎用性があって、ストーリーもシンプルでわかりやすいという理由から『W3』をオススメされました。『W3』というタイトル自体、ワクワクするものがありますし、キャラクターの絵も印象的でいいなとまず思いましたね。


―――まさか、直接聞きにいらしていたとは知りませんでした(笑)。


木下 :

 実際に読んでみて、単に全部丁寧にやるのではなく、入口と出口はそのまま、物語を新しく解釈して作れば、イケる気がしたんです。
 『W3』の世界って、地球の片田舎の小さな世界の人々の話と、宇宙人が地球を滅ぼすか滅ぼさないか決めるという規模が大きな話が入れ子になっているんですよね。そういう“ミクロ”と“マクロ”を行ったり来たりするような構造が面白いし、演劇に置き変えたときにいろいろ使えるなと。
 あとは、ボッコ、プッコ、ノッコの3人が宇宙人から人間ではなく、あえて動物へ変身するというところが飛躍的で興味深く感じました。
 “ミクロ”と“マクロ”とか、“変身”であるとか、手塚先生の作品によく出てくるモチーフ、“骨格”だと思うんです。
 設定はそのままに、「ビッグ・ローリー」という時速5000キロで走りだすのりものなど、SFチックで非現実的な出来事を舞台という現実の中にどう落とし込むのか、各スタッフとアイデアを出し合いながら探っているところです。


虫ん坊 2017年6月号 特集2:Amazing Performance W3 構成・演出 ウォーリー木下さんインタビュー

ビッグ・ローリーに乗って、秘密機関・フェニックスへと向かう、主人公の真一とボッコたち。


―――どうノンバーバルとして表現されるのかいろいろ気になるところですが、キャッチコピーが「3分あれば、世界は変わる。3分あれば、世界は終わる」ということで、3分に1度不思議なことが起きるそうですね。


木下 :

 僕のなかの勝算としては、どう転んでもポップで可愛くなるはずなんですよ(笑)。人形やパペットをはじめ、プロジェクションマッピングを使ったり、マジシャンを起用したり、おもちゃ箱をひっくり返したような驚きに満ちた時間になると思うんですが、すべてをファンタジーで終わらせないようにしたいなと思っていて。今回映像をたくさん使うんですけど、実写的で立体的な素材を積極的に使いたいと考えています。
 原作では、たくさんの“闘争”が描かれていますが、そこがすごく身近だなと感じたんですよね。小さい村の村長の話にしてもテロリストの話にしても宇宙人の話にしても、実際にいま毎日流れているニュースと同じような“闘争”が描かれていて、すごく現実味があるんです。
 面白おかしく描きながらも身近なものに感じられるよう、根底にはシリアスなものが漂っているようにしたいですね。『W3』を手掛ける上で、そこは重要な“魂(ソウル)”の部分だと思っています。


―――手塚作品がまさにそうですね。ファンタジーだけにとどまらないというか。可愛らしい絵柄なのに、ときにものすごい残酷さが描かれたり、重いテーマや深いテーマが流れていたり。


木下 :

 僕の個人的な演劇観ですが、“日常”と“非日常”って、混沌としながらも密接に繋がっていると思うんです。『W3』はその集大成のような舞台にしてみたいという気持ちがあって。
 ノンバーバルの良さは、観ている人がいろんな解釈をできるところだと思うんですよ。例えば、部屋で寝ている時に天井に映る影が大きい怪物に見えたりというような事を僕らは日常的に経験しているけど、あの怪物を怪物たらしめているのは自分の脳なんです。そういう人間の想像力の豊かさみたいなものを信じて作っていきたいなとすごく思いますね。


―――マンガを原作とする舞台作品をたくさん手掛けている木下さんですが、演出・脚本を作る際にこだわっていることはありますか。


木下 :

 マンガ原作と舞台は別ものでいいんじゃないかと思っているんです。わざわざ劇場のチケットを買って足を運んだときに、もう一度マンガと同じものを観せられても、つまらないと思うんですよ。そこは、原作とは別のアプローチをしたエンターテインメントを提供しないといけないと思っていて。
 ただ、そのときになるべくマンガを読んだときに受けた感動とかエネルギーみたいなものと等しい何かは舞台上にも用意したいなと思います。
 あとは、デザインを読み解く作業ですね。例えば、小説が原作の場合、巨大な三角形の建物って書いてあったら、二等辺三角形なのか正三角形なのかこっちで自由に解釈できるけど、マンガ原作の場合は、もうそこにデザインとして描かれているから、なんで普通の二等辺三角形じゃなく、すごく尖った二等辺三角形にしたんだろうって考えなきゃいけない。このデザイナーとしての作者の意図を読み解く作業が個人的にはすごく楽しいし、大切にしていることですね。


さいごに

虫ん坊 2017年6月号 特集2:Amazing Performance W3 構成・演出 ウォーリー木下さんインタビュー

―――出演者の方々ですが、全体的にダンサーさんが多いなと感じました。


木下 :

 そうですね、やっぱり、言葉を使わないパフォーマンスになるので、身体で伝えられる能力が高いというのは重要になってきますよね。
 パフォーマーって、個々が全部の責任を持たなくてはいけないので、これだけは負けないというものを持っている人を選びました。それと一人ではやらないこと。
 オーディションのときに、椅子取らないゲーム、つまり、椅子取りゲームの逆をやったんですよ。椅子を取ったら負けなだけではなくて、滑って転んで椅子をとれないとか、いろんな演技をその場で即興でやるっていうことをやってもらったんですけど、すごく面白くて。そのときに、一人でやらない人っていいなって思ったんですよね。まわりをうまく巻き込んでる人はセンスあるなと。ひとりでやる分には発想力さえあれば出来るんですけど、同時にまわりも美味しくしてあげられるっていいですよね。


―――会場はDDD青山クロスシアターとなっています。先日、別の舞台で足を運んだのですが、役者さんと舞台との距離感が想像以上に近く、驚きました。


木下 :

 温かくてすごく素敵な空間ですし、規模も丁度、小さいテントくらいなので、親密な空気が生まれやすいのかも知れないですね。
 会場の入口からすでに『W3』の世界観に入っていくような仕様にする予定でいて、舞台が終わって会場を出たころには、おそらくサーカス団に入りたくなっていると思います。あまりないですけどね、サーカス団(笑)。ひとまず、木下大サーカスとかに入ってもらって(笑)。そういう気持ちになるような仕掛けをそこかしこに施そうと思っています。


―――会場もひっくるめ、見どころということですね。最後に意気込みをお願いします!!


木下 :

 こんなことしたい、あんなことをしたいというアイデアをどんどん出しあって作り上げていく舞台なので、集団創作の極みみたいなものをやれたらいいなと思っています。人間のアイデアの力はすごいですからね。
 それと、『W3』の“骨格”と“魂(ソウル)”を伝えたいです。手塚作品のモチーフをなぞりながら、ときにジーンとしたり、全体的に楽しかったけど、どこか最後にピリッとしたものが残るような作品にしたいと思います。


 公演情報

手塚治虫 生誕90 周年記念
Amazing Performance W3(ワンダースリー)

構成・演出:ウォーリー木下

キャスト:
【team A】西島数博、フィリップ・エマール、川原一馬、椎原夕加里、松本ユキ子
【team B】藍 実成さん、坂口修一さん、梅澤裕介さん、石井 咲さん、関口満紀枝
【Understudy】廣瀨水美

宇宙初公演:2017年7月1日(土)~9日(日) ※全20公演
通常公演:2017年11月3日(金)~3月4日(日) ※195公演予定

会場:DDD青山クロスシアター

チケット:価格:6,500 円(全席指定・税込)発売中

主催:Amazing Performance W3(ワンダースリー)実行委員会 (ニッポン放送/ 読売広告社/ シーエイティプロデュース/ 手塚プロダクション/ キューブ/ フラックス)

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※未就学児入場不可
※公演スケジュールなど詳細はコチラでご確認ください。



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