いよいよ、対戦型トレーディングカードゲーム、『アトム:時空の果て(英語名:Astroboy : Edge of Time)』のリリースが近づいてきました!
このゲームの魅力のひとつといえば、著名クリエイターによりリメイクされた200体以上の手塚キャラクター。
今回の虫ん坊では、マグマ大使のリメイクを手掛けた漫画家・奥浩哉さんにお話をうかがい、カードイラストの制作について、手塚治虫の漫画を読んで漫画家を目指したというご自身のルーツについて語っていただきました。
奥 浩哉
福岡県出身。1992年より「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」を週刊ヤングジャンプにて連載スタート。1996年にはTVドラマ化されるほどのヒットを記録。2000年より同誌にてSFアクション「GANTZ」を連載。マンガの背景にコンピューターを使った制作(CG)を取り入れたりするなど、緻密な作画とスリルある壮大な展開で好評を博し、アニメ、実写映画化など様々なメディアミックスがなされた。
2014年よりイブニングにて『いぬやしき』を連載中。(イブニング公式サイトより抜粋)
「アトム:時空の果て」への参加
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「アトム:時空の果て」の企画を聞いたときのお気持ちはいかがでしたか。
奥 浩哉さん :(以下、奥)
一番最初にお話をいただいた時は、アクティブゲーミングメディアのご担当の方からFacebookの個人アカウントで連絡が来たので、なんだこれは? と思ったのを覚えています。
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そうだったのですか。(笑)正直、怪しいなと?
奥 :
はい。(笑) 怪しいなあと若干思いつつお話を聞いていると、「こんな風にリメイクイラストを描いていただけませんか」と参考にいくつかカードイラストを見せていただきました。著名なイラストレーターの方も参加していて、「あ、ちゃんとした企画だ」と安心したのを覚えています。
手塚先生のキャラクターをこういうふうに新しい解釈でリメイクするというのは、とても面白い企画ですよね。
僕自身、漫画家になるきっかけが手塚先生の作品だったので、こういったトリビュート企画ならばぜひとも参加させていただきたいと思いました。
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手塚キャラクターをリメイクするにあたり、マグマ大使を選んだ理由を教えてください。
奥 :
最初にリメイクするキャラクターの候補をいくつか提案していただきました。その中にマグマ大使があって、メカだったら楽しく描けそうだなというのと、小学生の頃に特撮の『マグマ大使』を見ていて、戦うシーンや造型をよく覚えていたので選びました。
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実際に描いてみて、どうでしたか? 奥先生のマグマ大使は細部まで描きこまれており、かなり迫力があります。
奥 :
マグマ大使をこういうアプローチで描いた方はまだいないだろうから、メカ好きの僕なりの、メカニカルなマグマ大使を生み出そうという挑戦でした。
どのパーツを取っても格好よく見えるように細部のディティールにも気を配りつつ、全体を見たときに存在感のあるシルエットになるよう目指してひたすら描き込みました。
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制作期間はどれぐらいでしたか。一番早くあがってきたのが奥先生のマグマ大使だったとお聞きしました。
奥 :
『いぬやしき』の連載と平行して進めていたので、1週間ほどでしょうか。もともと筆が速いということもありますが、お話をいただいてからすぐに取り掛かったので、ご担当の方との初めての打ち合わせの時には出来上がった状態のものをお見せすることができました。
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アクティブゲーミングメディア代表取締役で本ゲームの発案者であるイバイ・アメストイさんは、奥先生の作品について、「ゴアとの戦いのために“ロケット人間”として造られたマグマ大使の心が憂いを帯びた目に映し出されている」と絶賛したそうです。
奥 :
僕の中でマグマ大使は、原作よりもどちらかというと特撮のあの顔立ちと長い髪の印象が強かったので、顔もそのイメージを思い出しながら描きました。そこまで汲んでいただけるとは、ありがたいですね。
手塚治虫の描くエンターテインメントに惹かれた
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先ほど、漫画家になるきっかけが手塚治虫だとおっしゃっていましたが、手塚作品に初めて触れたのはいつなのでしょうか。
奥 :
小学生の頃、近所のデパートにある本屋でいろんな漫画を立ち読みしていたんですけれど、そこで『バンパイヤ』を見つけて、ふと気になって手に取ったんです。それで読んでみたら、本当にすごく面白くて。
ストーリーの面白さももちろん魅力なのですが、『バンパイヤ』は手塚治虫先生が本人役として出てくる世界で、主人公と絡んで手助けをするという結構重要な役回りだったんですよね。それが、その時の僕にとっては衝撃的でした。自分を主役にできるし自由に話を描けるなんて、漫画家ってなんて面白い職業なんだろう、僕もこんな風に自由に描いてみたい、これはなるしかないぞと思って、それがきっかけで漫画家を目指しました。
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デビュー作である『変』では、主人公の友達として奥先生と同姓同名のキャラクターで出てきましたね。
奥 :
あ、そうですね! でも、その頃は初心を完全に忘れていて、ただの遊び心で出していました。
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そうだったのですか。てっきり、これは手塚先生へのオマージュだったのかと、勝手に感動してしまいました。
奥 :
特にそんな美味しい役ではなかったですし、それだったらもっとすごい大活躍させてましたよ。(笑) いざ漫画家になってみると、逆に自分を登場させて活躍させるのがおこがましくて出来なくなってしまいました。『GANTZ』で星人にやられるモブとかだったらいいかも……。
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自分を出演させるのも、手塚先生自らエンターテイナーとして読者を喜ばせたいという姿勢かもしれませんね。当時、『バンパイヤ』を読んだときの感想はどうですか?
奥 :
初めて読んだ時に、『バンパイヤ』って、ハリウッドのエンターテインメントのような作品だと思ったんです。いろいろな動物に変身することができる村の人たちが自分の村を飛び出して都会に行き、そこで事件に巻き込まれる。読み進めるうちに話がどんどん大きく広がっていくので、これからどうなっちゃうんだろう! とすごくワクワクしながら読んでいました。読者を楽しませようという手塚先生の精神が漫画から伝わってくるというか。
その時に感じていた“先の見えない展開にワクワクする感覚”を、『GANTZ』や『いぬやしき』を描くうえで一番大切にしていました。手塚先生の影響もあって、どうしても世界観を大きく広げたくなってしまいます。
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まさに、『GANTZ』や『いぬやしき』は先の展開が気になって読む手が止まらなくなってしまいます。 奥先生の作品は、まるで映画のようなカメラワークやダイナミックさがありますが、漫画を描くうえで意識していることはありますか。
奥 :
手塚先生が『新寶島』で、映画のような見せ方や表現を漫画に取り入れ出したというのは、藤子不二雄先生の『まんが道』を読んでやっと知ったのですが、これは僕も意識的に取り入れていることですね。手塚先生の「紙の世界でどれだけ映画みたいな効果が出せるか」という挑戦は、僕にも共通している部分です。
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映画的に見せるために、具体的にはどういう効果を入れていますか。
奥 :
ライティングを意識して白と黒のコントラストをしっかり付けることにより恐怖の表現をしたり、『いぬやしき』では空を飛んでいるキャラクターが見下ろす都会の景色を描くために空撮を使うなど、連載中でも実験的に取り入れて、新しい見せ方を常に模索しています。
臨場感と説得力を出すために写真に近い背景を描き、そこに3DCGを使ったメカを合わせることで、読者の方に「これは本当に起こっていることなのではないか」と錯覚させて、物語に引き込むような演出を心掛けています。
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ご覧になった映画作品に影響されることはあるのでしょうか。
奥 :
デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」という映画は、デビュー作『変』を描くうえで影響を受けました。
これは、物質転送の研究をしていた主人公が、自分の体を使って人体転送の実験をするのですが、装置の中に一匹のハエが紛れ込んでいたために、主人公の体がハエ男に変化していってしまうというSFホラー映画です。
肉体が徐々にハエへと変化していき、自分の変化に驚き悲しみながら最後にはハエ男となってしまう過程がやけにリアルに描かれているんですよ。
1975年に連載されていた弓月光先生の『ボクの初体験』もそうですが、性転換をしてしまうファンタジーというのは結構昔からあって、そう珍しいものではなかったので、だからこそ、一風変わった演出で描きたいという気持ちがありました。
性転換のファンタジーものって、あっという間にぽんっと異性になってしまうというものがそれまでの定番だったので、「ザ・フライ」で主人公がじわじわハエ男に変わっていくように、一日ずつ毛が生えてきたり、ちょっとずつ贅肉がついてきたり、そうやって少しずつ女の子の体へ変化していくという表現にしたら面白いなと思ったんです。
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今も映画はよくご覧になるのでしょうか。
奥 :
そうですね。仕事の合間でも、最先端の映画を見続けようと心掛けています。
デビュー当時は「ザ・フライ」のように影響を受けた作品も少なからずありましたが、今はどちらかというと、ハリウッドでもまだ試されていないような誰も見たことのない世界を漫画で描きたいから、そのために映画を観て、まだ描かれていない表現やテーマを探しているという方が大きいです。
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奥先生は3DCGを使用して作画を行っていますが、それがより迫力のあるリアルな世界観を作り上げていますよね。
奥 :
3DCGを取り入れ始めたのは、『変』の次作にあたる『01 ZERO ONE』というSF漫画からです。
僕がデザインしたメカのデザイン画を手書きのアシスタントさんに渡して、それを参考に一から描いてもらうというのはすごく大変な作業なので、もともと僕が趣味で3DCGをやっていたこともあり、CGでメカを作ってそれを漫画で使えないかと思ったのが最初ですね。
背景も、アシスタントさんそれぞれのイメージが違っているとコマによってバラつきが出てしまうので、CGを使用して統一された世界観を描くようにしています。
CGで作るメカは色や影まで作り、仕上げとしてつけペンで線を足しています。
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CGで作業をしても、最終的にはアナログの線を足していくのですね。
奥 :
そうですね。ペンを入れることで、自分が思ったとおりの仕上がりになります。
背景やメカとは別に、人物はラフからすべて僕が手で描くようにしています。人間の表情までCGでつくってしまうと無機質な感じになってしまい読者も感情移入しにくいと思うので、メインのキャラクターからモブまで手描きにこだわっています。最後に全部の原稿をうまく合成して、ひとつの原稿が完成します。この方法を、未だに進化させながら描いています。
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リアルな描写にこだわるというのは、漫画家になろうと決心したときから目指していたのでしょうか。
奥 :
いえ、そんなことはなくて、『バンパイヤ』で手塚治虫先生を知ってからというもの漫画家の中で一番絵がうまいのは手塚先生だという信条が生まれてしまって。それからしばらく先生の絵をずっと模写して、丸みのある線の練習ばかりしていました。
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それは意外でした! そこから、リアルテイストを目指したのは何かきっかけがあったのでしょうか。
奥 :
小学校高学年になった頃、『無敵鋼人ダイターン3』『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』といった富野由悠季監督のシリーズにドハマりしたんです。
『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインをしていた安彦良和先生の絵を見たときに、手塚先生の絵柄以上に夢中になる絵柄を見つけてしまった……と思ったのを覚えています。
時代が進むにつれて安彦先生や、池上遼一先生といった劇画タッチの漫画家が増えていき、写実的な描写に惹かれるようになっていきました。
とはいえ、手塚先生の絵は僕の原点ということもあり、今でも魅力を存分に感じます。
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今でも手塚治虫を意識する事はありますか?
奥 :
このアトリエとは別の作業場なのですが、そこには昔中野ブロードウェイで見つけて思わず買ってしまった時計を飾っています。
ピースした手塚先生が大きく描かれて、そこにキャラクターたちも一緒にいるイラストの入った時計で、これを作業机に置いて、いつも見守ってもらいながら漫画を描いています。
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それでは最後に、奥先生にとって手塚治虫とはどのような存在ですか。
奥 :
手塚先生がいなければ、僕は漫画を描いていなかったわけですから、手塚先生は漫画の神様という存在であると同時に、漫画家としての僕を育ててくれた父親のような存在でもあります。
漫画家になった今、こういう形で手塚先生の作品に携わることができて、とても嬉しいです。
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ありがとうございました!
タイトル/『アトム:時空の果て』(英語名:Astroboy: Edge of Time)
ジャンル/本格対戦トレーディングカードゲーム
価格/基本プレイ無料(ゲーム内課金あり)
配信時期/2017年春 配信予定・PC版は2017年3月配信予定
プラットフォーム/App Store, Google Play, Steam(PC)
公式サイト:http://www.playastroboy.com/