今回のオススメデゴンス!では『エンゼルの丘』を紹介します。
3月といえば、ひなまつり。
宝塚市立手塚治虫記念館では、3月3日より「手塚治虫のヒロインたち 〜可憐な少女から妖艶な美女まで〜」が開催されます。
そのメインビジュアルに使われている可憐な女の子が、『エンゼルの丘』のヒロイン、ルーナです。
どんな過酷な状況に身を置かれようとも、常に相手を思いやる心優しいルーナと、本当は良い子なのに寂しさの裏返しでひどい態度を取ってしまう活発な少女あけみ。中身は真逆だけど、見た目がそっくりなふたりが出会うことで物語は急展開!エンゼル島を巡って、悪者に命を狙われたり、人魚達が助けてくれたり、素敵な王子様が現れたり、ハラハラドキドキなファンタジー作品となっています。あと、出ている女の子達が全員かわいいのもポイントです。
また、講談社 青い鳥文庫より、『エンゼルの丘』を原案とした『海色のANGEL』(作:池田美代子/絵:尾谷おさむ)第1巻が好評発売中。現代版『エンゼルの丘』と言えるでしょう。
読み比べてみると、より楽しめること間違いなしです。
ぼくの好きなテーマに、鳥人と、もうひとつ人魚があります。
古くは昭和二十六年に、おもしろブックという雑誌に連載した「ピピちゃん」と、単行本でかいた「化石島」。そして昭和二十八年に、少女クラブに連載した「リボンの騎士」に人魚が登場いたします。
最近では「青いトリトン」という作品が、人魚をテーマにした作品です。
この「エンゼルの丘」は、少女マンガとしては、「リボンの騎士」のつぎに長いストーリーで、人魚という好きなテーマのためか、たいへん楽しくかけた作品です。
単行本としては、いままでに二度出版されています。一度めは鈴木出版という出版社から全四冊ということで依頼を受けたのですが(当時は単行本一冊が百ページ前後のものだたのです)、連載したときよりもページ数が少ないので、しかたなく、一部分カットして話をまとめて発行しました。
二度めに出版したときは、今度こそ連載のときに近いものをと思ったのですが、一度めに単行本化したときのイメージを強く持っている読者が多く、これもすこし内容をかえただけにとどまった作品になっています。
今回は全集でもあるし、ページ数にも余裕があったので、わりと連載当時に近い形に戻してみたのですが、いかがでしょうか。
手塚作品には海のシーンがわりと多く出てきます。
解説にも触れられているとおり、それは手塚治虫が人魚にあるこだわりを持っていたから、というのもあるでしょうが、日本という国は、外国に出るには海の向こうに行かなければならず、日本を基点にして、ちょっとスケールの大きな冒険譚を語るとするならば、どうしたって海の外へ出なければならないというのも、その一因かも知れません。手塚マンガでも、ちょっと不思議なもの、エキゾチックなものは、しばしば海からやってくるようです。
手塚作品の、海からやって来た素敵な主人公といえば、例えば『海のトリトン』のトリトンがその代表格と言えるでしょう。この『エンゼルの丘』はその『海のトリトン』の少女漫画版とでも言うべき物語。トリトンも始めのうちは日本で普通の学生として暮らしていたように、この作品の主人公ルーナもまた、海の向こうからやって来た姫ぎみなのに、ひょんなことから日本で普通の女の子として暮らすことになります。トリトンと同様、決して幸せとは言えない暮らしを余儀なくされますが、それでも持ち前の智恵と優しい心で幾多の苦難を乗り切って、自分の本当の姿を取り戻していきます。 とはいえ少年と少女の違いはあって、トリトンが勇ましい戦いの連続でアイデンティティを取り戻していくのに比べ、ルーナの物語は優しい、温かいエピソードが満載で、読後はきっと優しい気持ちになれることでしょう。
そして、やはりこの作品のキー・ポイントは「人魚」。女は下半身が魚で、男は上半身が魚、というエンゼル島の人魚ですが、登場の仕方がなかなかにさりげなく、かつ神秘的。暗闇にふっと登場する美しい顔は人間なのに、静まり返った暗い淵からは魚のしっぽが覗いている、といったような、ちょっと怖くて神秘的な演出が人魚の登場シーンにぴったりです。さすがは「人魚好き」を自認する手塚治虫らしい演出と言えるでしょう。