4月7日、アトムの誕生日にあわせてリリースされたモバゲーのソーシャルゲーム、『鉄盤アトム』、皆さんはもう遊んでみましたか?
今月の虫ん坊では、『鉄盤アトム』の開発元・株式会社ファンクリックにお邪魔し、開発陣および、グラフィックデザインを担当した、モンスターオクトパスさんにインタビューをしました!
4/7アトムの誕生日に、鉄腕アトムをモチーフにしたソーシャルゲームが登場!!
株式会社ファンクリック WEBサイト
モンスターオクトパス on twitter
空想科学模型遊戯『鉄盤アトム』は、その名前のとおり、ボードゲームをイメージしたソーシャルゲーム。プレイヤーは謎の悪の組織「ダークダーク団」に奪われた街を取り戻すべく、闇に包まれた街をパトロールして建物やロボットを取り戻していくという内容です。
「初め、手塚プロダクションあてに提案をした際には、当時大ブームだった『ロワイヤル系』と呼ばれるバトルゲームで提案をしていました」
と、開発担当者が語るように、最初は全く違うコンセプトで提案された鉄腕アトムのSNSゲームでしたが、キャラクターデザインを担当したモンスターオクトパスさんは「それじゃアトムじゃない」と反対しました。
「セトルリン」などの人気ゲームのキャラクターデザインも手がけるモンスターオクトパスさんはSNSゲームの業界を良く知る一方で、小学生の頃手塚作品にもどっぷりはまっていたそうです。「小学生の頃は手塚先生の絵を一生懸命真似していましたね。近くの本屋さんと友達になって、作品を紹介してもらったり。そのようにして出会ったアトムには『ロワイヤル系』は不向きではないか、と思いました」
コンセプトシートを自ら書き下ろし、ファンクリックに提案をした、といいます。そのときに構想されたのが、『未来の世界のボードゲーム』。
「今のソーシャルゲームの中での「定石」というのはもちろんありまして、それを踏まえるのは大切なのですが、そこに『アトム』をのせるだけでは原作の大切な部分を壊すことになるのではと感じました。そういう中の苦肉の策で、『アトムたちのいる遠い未来の世界で、ボードゲームってどんなふうになっているんだろう?』というところから考えを起しました。ボードゲーム上であれば、戦いの要素があってもいいんじゃないか、というところで、初めのイメージボードを描いたんですよね」
ぽちぽち、ボタンを押すだけでゲームが進んでいく、というのが携帯向けソーシャルゲームではまだまだ主流。グラフィックのゴージャスさや、むずかしい戦略などは極力廃され、ゲームが苦手なユーザーでも楽しめる、という利点はありますが、ゲームとしてみると物足りない、ということで、『鉄盤アトム』はそこから少しでも脱却し、アクションのアニメーションや、ミッションを進めていくことによってタウンボードの絵が変わっていく、などのリッチな要素をできるかぎり盛り込んでいます。それによって、いっそう大変になったところも、実はあるのでした。
ゲームを進めていく上で重要な要素である「ロボットフィギュア」たちは、すべて書き下ろしでデザインされています。実は、ロボットたちはみんな、原作『鉄腕アトム』に登場するキャラクターなんですよ! その数、なんと100体以上!
キャラクターデザインはモンスターオクトパスさんが総括し、複数のデザイナーさんが手分けしてデザインしました。
「まず、世界観に入り込みやすくするために、ゲーム内の絵柄は統一したいと考えました。なので、複数のデザイナーさんが手がけ、僕が絵柄を統一するための確認しています。デザイナーさんたちには苦労をかけてしまっていますが、みな手塚作品ということで意欲的に参加してくださっています」
ロボットたちは意外なエピソードやシーンから選ばれています。地上最大のロボットたちや、プルートゥやガデムといったエピソードの主役を張るロボットたちはもちろん、あまりレアじゃないロボットたちのなかには、「こんなのいたっけ?」と思ってしまうキャラクターもいます。ロボットフィギュアはゲットすると「ロボット図鑑」に登録され、詳しい情報が見られるようになっていますが、そこには、原作のどのエピソードに登場するのか、も丁寧に網羅されているのが特徴です。
「この、『図鑑』には特にこだわりました。やはり、『鉄腕アトム』でゲームを作るのであれば、原作を知らない人でも、原作を読もう、という気持ちになってもらいたいですから」と開発担当者は言います。
「原作ファンには、『こんなロボットまで良く見つけたな』と驚いてほしいですし、原作を知らない世代には、ぜひ興味を持って、読んで貰いたいですね。このゲームから『アトム』を知った若者の家の本棚に、『鉄腕アトム』が全巻そろって置いてあったら、ちょっとうれしいです」
と、モンスターオクトパスさん。
手塚キャラクターをデフォルメするに当たって、難しかったこととか、気づいたことはありましたか?
「手塚治虫先生の絵って、すでにシンプルにデフォルメ、デザインされているんですよね。同時期に永井豪先生の『デビルマン』のキャラクターデザインも手がけたのですが、『デビルマン』の絵は劇画タッチのため、線や要素が複雑で、それをいかにそぎ落として、シンプルにするか、という作業になりましたが、手塚先生のキャラクターにはそぎ落とす要素があまりないんです。それよりむしろ、コマによってデザインが微妙にちがったり、統一されていないところが、いかにもマンガ的で、悩ましい部分でした」
工夫したところは、『いかにもそのキャラらしい』特徴を捉えて取り入れること。デザイナーが複数かかわることで、いろいろな視点があって、モンスターオクトパスさんも他のデザイナーの仕事に、「こうきたか」と思わずうなることもあったそうです。
コレクションの楽しみもあるロボットフィギュアたちですが、原作どおりのデザイン以外にも「レアデザイン」があって、そこも集める楽しみの一つ。
「手塚先生のほかのキャラクターのコスチュームを着せたものがゲットできるイベントとか、もし、実現可能であれば他の漫画家さんの作品とのコラボイベントなども、できればうれしいです! あと、グッズ化などもできればなあ。夢はたくさん、あるんですよ」
キャラクターへのこだわりのほかにも、ページ全体のデザインも慎重に幾度も考え直されたそうです。
ゲーム内に出てくるフォントのデザインや、バナー・ページデザインなどを担当した尾崎さんは、
「僕の担当したのは、ゲーム中に出てくるフォントです。『救出成功!』とか『PUSH』というような字の部分を書き起こしました」
といいます。
普通、そういう細かい文字は、既製品のフォントを使うことが普通。細部までこだわって創りこむことで、より世界観を明確に打ち出そう、という狙いです。
「難しかったのは、漢字ですね。カタカナは効果音などで漫画にも多く登場していますが、それと同じテイストを出すのが難しかったです」
手塚タッチの「描き文字」を習得するために、
「ゲームのコンセプトラインを決めるために、モンスターオクトパスさんや他のスタッフとなんども会議をしました。モンスターオクトパスさんのイメージは、『スッキリとした綺麗な未来テイスト、というよりも、レトロフューチャー的な、雑多感がありつつも現代的なポップさもある感じ』ということで、僕もいろいろなイメージを探して提案しました」
モンスターオクトパスさんは、「ネットで情報を探すだけじゃなくて、もっと足を使って、いろんなものを見てきて、と言いました。手塚先生も、アトムの世界でもヒゲオヤジがちゃぶ台を愛用していたり、子どもが路地裏でメンコをしていたりと、連載当時の生活感を感じさせるシーンを描いているじゃないですか。あんな感じがほしかったんですよね」
細部まで創りこまれたデザインワークに真剣に取り組んだ尾崎さんにとって、開発中のカンフル剤はモンスターオクトパスさんがスタッフに読んで貰おう、と持ち込んだ『ブラック・ジャック創作秘話』だったそうです。「手塚先生がここまでやっていたんだから、ぼくたちもがんばらないと、となりましたね!」
デザイン側の大変さはもちろん、ゲームのプログラムでも多くの困難が立ちはだかりました。
「携帯向けソーシャルゲームで一番大変なのは、いかにデータ容量を抑えるか、というところです。『鉄盤アトム』のパトロールの場面、街のマップのところは、意外とデータの容量が大きいんですよ」
イラストのデフォルメや、色なども、データの容量をしぼるための工夫が施されています。さらに、日本の携帯電話の数はなんと三百機種以上!
「すべての機種に対応するのはさすがに不可能ですが、できるかぎり多くの機種で遊んでもらいたい、と思っています。今リリースされている競合のゲームは、すべてそういう苦労をクリアしているわけですから、負けられませんね!」
ソーシャルゲームに参入しよう! ことで設立された株式会社ファンクリック。代表取締役
「社のロゴマークは、パソコンのマウスをイメージしていますが、今は携帯ゲームが主流。そうこうしているうちにどんどん、スマートフォンが台頭してきて、最近リリースされるゲームでは、スマートフォン対応が常識になっています。とても移り変わりの早い世界ですので、今後の見通し、などについてはヒミツです。まず、私たちとしては無事リリースした『鉄盤アトム』を安定稼働させ、もっと皆さんに楽しんで貰えるように育てていくことが当面の目標ですね」
「僕のような手塚ファンの視点からすると、今の『鉄盤アトム』にはまだまだ、直してほしいところがたくさんあります。SNSゲームの良いところは、サービス開始後も修正やアップデートができるところですが、それに甘んじてはいけない、と思います。アップデートをすることでよりいっそうブラッシュアップして、良いものを追求していかなくてはなりませんね」とモンスターオクトパスさん。今後もさまざまな限定イベントや、もしかすると他手塚作品とのコラボなど!? も期待できそうです!
「現在では、中国の支社とも連携して、サポートや開発をつづけています。中国工場は四川省の成都にあって、中国人のスタッフも採用しています。現地には日本からスタッフが派遣されて、ハンドリングをしています。『鉄盤アトム』にも、5、6人ほどの現地スタッフが力を貸してくれていますよ」
皆さんに、好きな手塚作品を聞いてみました。
「やっぱり『ブラック・ジャック』でしょう」「やっぱり、アトムのゲームを作ってみて、『鉄腕アトム』って改めて名作だな、と思いました」と、いろいろな意見が飛び交う中、「僕は『ミッドナイト』だなあ」とモンスターオクトパスさんがぼそり。
「深夜限定で『ミッドナイト』イベント、『鉄盤アトム』の中でやってみたいですね。あと、『低俗天使』っていう短編がすごく印象深くて。どの単行本に収録されているか、おしえてください!」
さすがファンなだけあって、ちょっとマニアックな作品を推していただきました!
「愛情と情熱をもって作っていますので、ぜひ一度、遊んでみてください」とみなさんからコメントもいただきました!
ファンクリック・『鉄盤アトム』スタッフの皆さん、お忙しい中ありがとうございました!