いよいよBS時代劇『陽だまりの樹』の放送も始まり、舞台の大阪・名古屋公演ももうすぐ、手塚治虫の歴史・時代劇作品に、さらに注目が集まるといいなあ…という昨今です。
今月の「オススメデゴンス」では、短編作品集『ライオンブックス』より、時代劇モチーフの「奇動館」をご紹介します! 大阪の適塾も顔負け!?の先進的なある江戸時代の田舎の私塾が舞台です。
短編作品ながら、印象深い一編です。
『奇動館』は「少年ジャンプ」昭和48年2月19日号に掲載された読み切り作品です。時代劇のスタイルをとりながら、ストーリーは「理想の教育」について描かれており、現在でも十分に通用するテーマを持っています。
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『奇動館』は、「教育」をテーマとした、一風変わった時代劇です。
武士の中浜好太郎は、とある村の私立学校・奇動館へ、教師として江戸から派遣されました。しかし、着いていきなり奇妙な試験を受けさせられた好太郎は、0点を取ってしまったために、なんと“生徒”として奇動館の一員に加わる事となります。奇動館の徹底した放任主義に最初は憤りを感じた好太郎も、自由な校風の中で、生徒達がのびのびと得意分野を伸ばしている姿に、何かを感じ始めますが…
奇動館に集っているのは、不良やなまけ者など、いわゆる「普通の子供」の枠からはみだした生徒達ばかり。教師と生徒の関係もフランクで、礼儀はあってないようなもの。しかし、生徒達はいきいきと学校生活を送り、教師への尊敬の念を忘れる事はありません。
そこには、型どおりの教育に対する、手塚治虫の疑念が反映されているのは言うまでもありません。しかしラストシーンで、人間そのものに対する大きな希望のメッセージを掲げる事も忘れ
ないのが、何とも手塚治虫らしいところです。
不登校児が大きな社会問題となっている昨今ですが、理想的な教育、そして師弟関係とは、果たしてどのようなものなのか。読後にあらためて考えさせられてしまう、テーマ性の高い一作です。