もはや大都市暮らしには欠かすことのできない存在、マンション。東京や大阪、名古屋や福岡などの都市圏に住んでいる方であれば、多くはマンション住まいなのではないでしょうか?
そんな「マンション」と、まだまだ残暑が厳しいこの季節にぴったりの「オバケ」が登場するのが、この「マンションOBA」という作品です。東京・武蔵野に住んでいたオバケたちが、住宅地の開発で森を追い出されて、新築マンションに住み着いた! そんな舞台から繰り広げられるドタバタ喜劇の数々の面白さはさることながら、逆境!?にありながらも力をあわせてがんばるオバケたちの姿にも癒されること間違いなし!
ぜひ読んでみてください。
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住宅地の乱開発で森を追われた、東京はムサシ野のオバケたち。みすみす森を追われて逃げ出すのは癪に障る、とばかり、こともあろうにその新開地に建ったマンションに住み着いてしまいました。そのマンションの名前は偶然にも「マンションOBA.KE」。『ライオンブックス』の中で唯一、短編3つのシリーズ構成。連載長編「百物語」「ミューズとドン」とともにひときわ目を引く作品の一つといえましょう。
都会と現代社会の象徴のような"マンション"と、昔懐かしい香りのする"オバケ"。奇妙といえば奇妙な取り合わせですが、この一見そぐわないような取り合わせがまた、この作品の妙味でもあります。本来は森で自由に暮らしていたオバケたちが、人間に身をやつし、ひっそりと肩を寄せ合ってコンクリートの箱の中に暮らしている…、悲しいながらもどこかユーモラスです。
そもそも、マンションの住人たちがまた個性的。こわもてで頼もしい、しかしどこかお茶目な長老、美人のオッショさんにハナちゃん、ころころしていて愛想の良い漫画家の阿波先生、漢方医の四六先生にゴルファーの穴入さん…。どこか元の姿を隠しきれない人間に化けた彼らオバケたちがまた、そろいもそろって人が良く、愛すべきキャラクターなのです。作品のテーマは自然破壊の危機を訴える大真面目なものですが、彼らの愉快な奮闘振りを見ていれば、なんらお説教臭く感じることなく、私たち人間も彼らのために自然を守らなきゃ…なんて素直に考えてしまうから不思議です。
しかしよく考えれば、同じ建物に起居をともにしていながら、どんな人が何人住んでいるのかも良く分からないのがマンション。かえってマンションOBAの住人たちのほうがお互い仲良く暮らしているようで、むしろ人間同士のほうが油断のならないのが都会暮らし。マンション暮らしの孤独さにふさいでいる方には、マンションOBAは一つの理想郷のように見えるかもしれません。