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手塚作品の装丁がずらり90点!
香取さん:今現在、234名の正会員と、製紙会社や紙の商社、印刷会社などからなる16社の賛助会員からなる団体です。もともとは、装丁に携わるデザイナーだけで立ち上げて、それから、イラストレーターや、数は少ないですが写真家も加わったメンバー構成になっています。今年11月で設立されてちょうど25周年になります。
もちろん、本のほかにも広告などの仕事をする人もいますが、メインの仕事で装丁に携わっている人たちが集まっている団体です。
今はもう、少しでも会員を増やすため、ちょっとでも装丁にかかわっている人には声をかけています。僕なんかも特別装丁を専門にやっていたというわけではないのですが、装丁もいくつか手がけましたので、そのときの作品をお見せして入会しました。他の会員も結構皆さん、多種多様なキャリアをお持ちの方が多いですよ。
香取さん:ええ、そうなんです。もう20数年前になりますけれども、ある居酒屋で、
当時の僕は、日本漫画家協会の会員で、
片山さんは、手塚先生に僕のことを動物の絵を得意にして描いている人間です、と紹介したんですよ。当時僕は、動物画の大家と言われた木村しゅうじさんに動物の絵を師事していまして、図鑑の動物の絵からこの世界に入ったのですが、手塚先生も木村さんのことをよくご存知だったんですね。「僕も以前、木村さんに仕事をやってもらったことがあるんだよ」とおっしゃって、お話も弾んだんですよ。そうしたら先生が、「いや実はね、今、『森の伝説』っていうアニメの構想があってね、最初のシーンに動物をリアルに描いてくれる絵描きさんを探しているんだよ」なんておっしゃいましてね。
それで、僕の絵なんかまだぜんぜん見ていないんだけど、「それじゃ、『森の伝説』、君に頼むよ」って(笑)。まあ、非常にうまく乗せられまして、こっちも舞い上がっちゃいましてね、こんなチャンスは二度とないからと、その言質をつかまえて、その後、お礼のお手紙と一緒に作品を何点か送ったんですよね。オーディションを受けるつもりで。
そうしたら、見ていただいたらしく、さらにはとても気に入ってくれて、ある日いきなり電話がかかってきたんです。
ちょうど僕、そのときたまたまいなかったので、直接受けられなかったのですが、留守番電話に手塚先生の声が入っていました。手塚先生ほどの方がじきじきにお電話をかけて留守番電話に伝言を残すなんて、ぼくなんかはびっくりしちゃうんだけど(笑)、「あ、どうも、手塚です」なんてね。うれしくてその留守番電話の入ったカセット、今でも大事にとってあります。
その後、夜中の12時を過ぎていたのですが、とるものもとりあえず折り返し手塚プロダクションに電話をかけてみましたら、スタッフの方がつないでくれて。それで、先生と直接段取りを話し合ったんですが、そのとき先生、「今ね、コンテを描いていますから。だいたい2週間ぐらいで出来ると思うからその後に打ち合わせしましょう」とおっしゃったんですよ。こちらもいろいろとスケジュールを調整して、待っていたんですが、次に連絡があったのが2週間どころか半年先で(笑)。
はじめお話をしたのが、年末ぐらいでしたから、その後、7月ぐらいでしたかね、手塚プロダクションで正式に打ち合わせをしました。それで、大体2ヶ月ぐらいかかって100枚弱のイラストを、Gペン一色で描きました。サイズはだいたいB4(257mm×364mm)ぐらいから、大きいのはB全(1,030mm×1,456mm)ぐらいまでかな。
当時担当してくれたのが
香取さん:ええ。初めてお会いしてから1年後ですね。
これをきっかけにまた手塚先生と一緒にお仕事をやれたら、うれしいことは無いなあ、と心に期するものがあったんだけど、それから2年ぐらいして先生が亡くなって。
その後も日本漫画家協会の関係で、手塚プロダクションの方とは交流があって、なんどか顔をあわせていましたが、いつか手塚プロダクションと仕事がしたいな、と思っていたんだけど、なかなかチャンスが無くて。そんなことで、今回もお話はしやすかったですね。
香取さん:図書設計家協会の中には、いろいろな委員会がありまして、僕は、"展示委員会"というところの委員長をやっているんです。この展覧会は、展示委員会が受け持っているわけですね。
今回の企画に当たってのルールとしては、まずは、手塚作品を10作品選ぼう、ということで、その作品選定をしました。
香取さん:手塚先生というと、『鉄腕アトム』とか『ジャングル大帝』となりますが、あまりにメジャーすぎるので、ちょっと変わった作品とか、文学色の強い、大人向けの作品というようなところから10作品を選んだんです。
個々の作品としては、女性の装丁家さんにも多く参加してもらいたいな、と思って、『リボンの騎士』や『ふしぎなメルモ』を入れたり、代表作もひとつ二つは入れたい、ということで、『火の鳥』などを入れたり。
『紙の砦』や『ユフラテの樹』なんていうのは、中でも変わっているでしょう? それでもまあ、『紙の砦』なんかは、自伝的な要素があるということで手塚先生の短編の中でもよく紹介される作品ですよね。そういうものも入れて。
その後、その各10作品について、どこから画像を選ぼうか、ということを検討しました。扉絵や表紙などに使われているカラーイラストではなく、ひとつの作品について装丁として使えそうな本文10ページの画像を選ばせていただきました。
それら100ページを手塚プロダクションから画像データで提供してもらって、それぞれの作品の担当者に送り、この中からは自由に使って、どういうふうに処理をしてもいいですよ、というルールにしました。もちろん、オリジナルは傷つけない、ということと、手塚プロダクションの監修を通す、ということでね。
他にも細かいところでは、本の厚みと大きさ、袖の長さは規定のサイズにしています。また、文字の部分、—タイトルや著者名、出版社名の変わりに入れる"日本図書設計家協会"という文字は必ず入れてもらって。あと、人によって、『火の鳥』にキャッチコピーを入れた人や、『アドルフに告ぐ』で横文字のタイトルを作ったりする人もいましたけど、その辺はまあ、お任せで。
香取さん:イラストレーターの人は、手塚先生の絵素材に、自分の絵も絡めたい、という方もいますので、そのへんはもう、その人の感性に任せる、ということで。あとはもう自由に作りました。
たとえば、ある方の作品では、色を厚塗りにしたりとか、別の方はご本人の絵が作品のイメージにあわせて描かれていたりしていますね。
香取さん:装丁家って、ほとんどの人は自分の装丁する本は全部読むんですよ。その上でイメージを膨らませて、その内容にあった、言わばパッケージをどのように見せるか、ということを一生懸命考えます。本からかもし出される雰囲気を生かすパッケージを作る職業なのですよ。
ついつい、われわれの仕事は表紙だけ、と思ってしまいますが、本人たちとしては、背とか、裏とかのつながりとか、本をめくっていってその連なりで展開する感触とかも考え合わせて作るんです。だから、紙などにもこだわりがあって。実は今回の展示作品は、作品と使用する紙の種類も対応させています。だから、もしかしたら作品よりも紙のほうを重視して、参加作品を選んだ方もいるかもしれません。そういうことを考える人たちです。
たとえば、紙の目(向き)もたいへん気にしていて、裁断するときの切り方、方向とか、そういうことをとっても気にするんです。もちろん、あたりまえといえばあたりまえなのですが。
香取さん:紙のほうは賛助会員の会社からの提供で、新製品だったり、従来からある製品だったりするものを、紙の宣伝も兼ねて使わせてもらっています。紙の可能性をいろいろさぐる、というのが、この企画展のコンセプトでもありますので。
香取さん:今回の展示は、おっしゃるとおりこの25年間ずっと「BOOKSCAPE 本の風景」っていう名前でやってきたものの30回目なんです。「カヴァーノチカラ」シリーズ以前は、仕事でいろいろ作った出版物の中からテーマを決めて、—— たとえば、植物の絵や写真を使ったもの、とか、白が基調の装丁、とか—— そんな形で集めてやっていたのですが、ここ最近はどうせなら日本図書設計家協会でオリジナルのものを作りたい、ということで、参加する装丁家おのおのが思うように作れればいいじゃないの、ということで、オリジナルの装丁作品を展示するようになりました。この展示はそのシリーズ「カヴァーノチカラ」の4回目になります。
それぞれの展覧会を順に紹介しますと、第1回は2006年で、「100冊展」ということで、『木を植えた男』というタイトルでアニメにもなった、ジャン・ジオノの『木を植えた人』という絵本と、
この3回目のルールはちょっと変わっていて、装画家とイラストレーターが自由に絵を描いて、それを使ってデザイナーが装丁する、という、デザイナーとイラストレーターのコラボレーションがルールでした。
この、3回目の「カヴァーノチカラ」の企画を手がけていたときに、このスタイルで、—— つまり、手塚先生の絵を元にして、デザイナーが装丁をデザインしたら面白いんじゃないか、と思いつきまして。次はそれにしよう、と。
さっきもちょっと言いましたが、手塚プロダクションとも長いこと付き合いがあったおかげで、割と気楽に連絡ができましたし。でも、ちゃんと書面を一筆書きまして、ちょうどこの3回目の展覧会の図録などをお送りして、「じつはこういうことを考えているのですが、画像をお借りできますでしょうか」と連絡をしました。それが去年の12月ぐらいでした。
しばらく時間がかかるかと思ったのですが、その後すぐ電話がかかって来たときはあっさり「OKです」ということで。ちゃんと使用料もお支払いして。
香取さん:最近の僕の絵は、タッチが暗いんですよ。もちろん、いろいろなタッチを描くことはできるんですが、日本図書設計家協会に入ったころ、ミステリー作品などの装画を手がけていましたからね。『森の伝説』のころは動物の
最近はミステリーふうの、ちょっとアンダーな、暗い部分のタッチを引きずっていますね……。そのあたりだと、『奇子』か『アドルフ』あたりが良いかと思います。
香取さん:手塚先生も、話によると白手塚・黒手塚っていうふうな側面があるというじゃないですか。そこまでじゃないですけど、僕もシーンによって絵柄を使い分けています。
最近の得意は暗めの雰囲気の絵ですが、ときどき戻って動物キャラクターの絵なども描いています。
香取さん:もちろん、子供のころに『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』は読みましたが……キャラクターというよりも、手塚先生の描く短編が好きです。『雨ふり小僧』とかが良いですね。
香取さん:展示会の段階では、商品化などの想定はしていません。ただもちろん、実際の書店に並べても
香取さん:今後はペーパーレスな電子書籍なども出てきますから、本のよさをアピールしていこう、ということで、東京製本組合などにもご協力いただきました。この展覧会もだんだん、装丁を見せるというだけではなく、本や、紙のよさをアピールするような方向に変わっていくと思います。
今はちょうど過渡期で、まだまだ紙の本のほうが好き、という人もいらっしゃいますが、今後、生まれたときから電子書籍がある、という世代が出てくるとまた状況も違ってくるでしょうからね。そういう人たち・子供たちにも、本というものの、めくっていって展開する、というものの面白さや、製本のよさなどを展覧会のテーマにしていきたいです。たとえば、普通本って四角ですけど、六角形の本があったら面白いな、とかね。
香取さん:ぼくは、本がなくなる、ということにはならないと思っています。ひょっとしたら、きわめて限定的なもので残るとか、そういう運命をたどるかもしれません。純粋に情報のみを取り扱う本は、電子書籍にシフトしていくでしょうけど、絵本などの2歳3歳の子供のためのものは残ると思います。幼い子供は電子書籍といっても、装置を取り扱うことも難しいでしょうからね。
装丁というのも、電子書籍化ではどうなるの? というテーマも、ちょっと心配ではありますが、装丁に変わる、たとえばアイコンなどのかたちでは、デザインの仕事はやはり残るだろうな、と思います。
装丁の一部を触ると動くなど、電子書籍ならではの機能をそなえた装丁が、今後作られる可能性はありますよね。
展覧会では毎回、トークイベントをやるのですが、前回のトークショーでも、電子書籍の話はやはり出てきて、盛り上がりました。われわれ装丁家としては、危機感を持っている、というより、何か自分たちも対応していくことを考えなければ、というふうに感じています。協会の会議などでも、ホットな議題になっていますし、提言などもしています。
香取さん:今回は、秋田書店から出している『ブラック・ジャック』の文庫の装丁を手がけた
香取さん:やはり、一番感じてほしいのは、装丁の持つ可能性の部分です。
最近はずいぶん、いろいろなタイプの装丁のマンガの本も、大人向けの作品を中心に出版されるようになってきましたが、マンガの装丁というと、まだまだ、一枚の表紙用のカラーイラストがあって、その上にタイトルがついて、というパターンが多く、すこし固定観念があるかもしれません。でも、装丁というのはそういうことではなく、一部分をつかって加工したり、写真をつかったりなど、いろいろな方法の広がりがあるのです。普段見慣れている漫画も、こんなに装丁の仕方によって変わるんだ、ということを感じていただければうれしいですね。
ぜひ一度見に来てください!
<関連リンク>
「手塚治虫を装丁する」展
http://toshosekkei.blogspot.com/2010/09/blog-post.html
日本図書設計家協会
http://www.tosho-sekkei.gr.jp/
株式会社竹尾 見本帖本店 展示情報
http://www.takeo.co.jp/site/event/central/201007.html