11月3日は手塚治虫の誕生日! ということで、今月は、手塚先生のルーツを知る作品をご紹介します!
『陽だまりの樹』は、幕末を舞台にした物語。主人公の伊武谷万二郎は武士として、手塚良庵は蘭方医として、激動の時代を生きていきます。
名前からぴんとくるかと思いますが、手塚良庵こそは、あの福沢諭吉も通った「適塾」に通った秀才で、手塚治虫の曽祖父に当たる人物。幕末といえばたくさんの有名なヒーローがひしめく時代ですが、あえて自らのルーツを掘り下げる視点が読みどころの作品です!
解説
手塚治虫が、3代前に実在した先祖で蘭方医の手塚良庵(のちに良仙)を題材にとり、幕末〜明治初期における日本と、その時代に翻弄される人々を描いた歴史大河ドラマ。
この作品の連載は足かけ6年に及び、その執筆量に加え高い完成度からも手塚作品の中で特に重要な1作である。それまでに『シュマリ』『一輝まんだら』『アドルフに告ぐ』『奇子』などの大人向け作品を描いてきた手塚治虫は、この作品の連載が終了して幕末〜戦後をひとまず描き終えたと感じ、次に現代劇である『グリンゴ』(絶筆)の連載をスタートさせることになった。
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手塚治虫の晩年における代表作の1つで、時代劇としては手塚作品中、1番のボリュームを持つ大河ドラマです。激動する幕末を舞台に、蘭方医の手塚良庵と、不器用だが実直な府中藩藩士・伊武谷万二郎の2人を中心として、その時代に生きる人々の生きざまをえがきだしています。特に下級武士の日常生活や、蘭方禁止令の中での蘭方医達の悪戦苦闘などは綿密な調査のもとに描かれたと思われ、フィクションを交えているとはいえ非常に興味深く、また作品に実在感を添えています。
さらに『陽だまりの樹』で見逃せないのは、良庵、万二郎の2人はもちろんのこと、脇役の1人1人にいたるまで、登場人物が非常に個性的かつ魅力的であることです。西郷隆盛、坂本龍馬、勝海舟、福沢諭吉など、当時の日本を代表する人物達が次々と登場しますが、手塚治虫の視線は、時代に翻弄されながらも必死に生きる庶民から離れることはありません。それは、良庵による「歴史にも書かれねえで死んでったりっぱな人間がゴマンと居るんだ」という、作品中屈指の名セリフに象徴されており、そのまま手塚治虫から読者へのメッセージと受けとめることができるのではないでしょうか。
同時期の作品『アドルフに告ぐ』と同様に、登場人物達の各々のエピソードが大団円にむかって1つの大きな物語として進行・収斂されていくという、手塚治虫が得意とするドラマ作りの手法が存分に発揮されており、作品としての重厚感も格別で、しみじみとした読後感までじっくりとあじわって欲しい作品です。