資産家札貫家の家長・礼蔵は、資産を増やすために一家全員で冷凍睡眠をすることにした。ところが札貫家が眠りについた後、冷凍睡眠は法律で禁じられることになる。彼らの眠る屋敷はいつしか、「ガラス屋敷」と呼ばれ、忌み嫌われるようになった。交代で起きたり眠ったり、を繰り返していた一族は、兄弟・親子の年齢が逆転したり、長年の冷凍睡眠で脳に支障をきたしたり、と少しずつ歪み、狂っていき…。
1970/01/22-1970/04/23 「現代コミック」(双葉社) 連載 1972/12/22-1973/02/23 「COMコミック」(虫プロ商事) 連載(未完)
『ガラスの城の記録』は、冷凍睡眠によって人工的な延命を行った札貫一族が辿る、悲劇の物語です。手塚治虫の作品では、正義のヒーローが大活躍するものや、「生命の神秘」「ヒューマニズム」などをテーマにした作品が、一般的に認知度が高く、代表作とされています。しかし、中にはこの『ガラスの城の記録』のように、世間でタブーとされている題材にあえて真っ向から取り組んだ作品も存在します。冷凍睡眠の弊害により、良心を失った主人公・札貫一郎は、近親相姦と殺人を繰り返し、その行動こそがこの暗く重たい物語を転がしていきます。しかし、この物語は刺激的な題材により、読者をいたずらに煽情させるようなものでは決してありません。登場人物達の異常な行為と、それによって引き起こされる悲劇を通して、人間性を失う危険性についての警告をきちんと含んでいるのです。特に、『ブラック・ジャック』におけるドクター・キリコの、「生きものは死ぬ時には自然に死ぬもんだ…それを人間だけが無理に生きさせようとする」というセリフが共通のテーマとして思い起こされます。この作品がどのような結末を迎えるのかによって、テーマもより明確になったはず…謎の女・ヒルンがその鍵を握っていると思われるですが、残念ながら未完です。ぜひ皆さん一人一人で考えてみてください。