ある嵐の晩、理学博士・山田野加賀志(やまだの かがし)氏は、「破壊蟲」と言う驚異的な生物を発見、研究所に持ち帰りました。「破壊蟲」とは、生物と鉱物の中間的存在で、鉱物が進化し、生物となった、という憶説を裏付ける証拠になるばかりでなく、あらゆる物質を分解してしまう特殊な分解液を分泌する能力をも秘めていました。破壊蟲の分泌液は、敵の街を何もかもとかしてしまうような武器にもなりうるというわけです。
そこに突然、黒い影のような「幽霊男」が現れ、破壊蟲を奪い去ってしまいました。ひとり研究室に残した鳴子君は、幽霊男に破壊蟲の分泌液で溶かされてしまったのでした。
この事件を聞きつけて現れた私立探偵・ヒゲオヤジは、逃げる幽霊男を追って谷底に建つ怪しげな屋敷を発見します。そこはゴンドラ・カヌー医学博士またの名をルセーヌ・パンという大悪人のアジトだったのです。
1945 習作
後のロビタを思わせるロボット・プポ氏や、「メトロポリス」のミッチイにも繋がりそうな美しくも奔放な女性ロボット・毒蛇(コブラ)姫(悪人ゴンドラ博士の愛妾!という設定)、ヒゲオヤジの八面六臂の活躍ぶり、医学や科学へのロマンティシズムなど、多くの手塚漫画の萌芽を含む作品です。この作品は習作ととして手塚治虫がデビュー前の1945年に描かれ、現存するのは前編のみで、後編は今のところ、発見されていません。
習作ではありますが、1995年8月3日、「手塚治虫過去と未来のイメージ展」の別冊図録として発行され、いまでは講談社刊「手塚治虫文庫全集 手塚治虫漫画全集未収録作品集 3」で現存する部分を読むことができます。