平安時代、都に出没する金髪碧眼の少年、鬼丸。人々に鬼と恐れられた彼は実は、ローマから流れ着いた父と日本人の母から生まれた子どもだった。時の権力者藤原良範に親子共に捕らわれ、生死も不明のまま生き別れとなる。牢獄の過酷な暮らしにたくましく育った鬼丸は、やがて牢をやぶって親を捜す旅に出る。
1969/01/01-06/29 「少年キング」(少年画報社) 連載
「鬼丸大将」は、平安時代の日本に漂流してきたローマ人と、日本人の妻、そしてその二人の間に産まれた息子・鬼丸の悲劇と戦いをかいた、一風変わった時代ものです。時代ものということを抜きにしても、ハーフの主人公というのは、当時の少年マンガ界ではかなり異色の存在といえるでしょう。この、少し強引ともいえるキャラクター設定は、手塚治虫の作劇術によって、少年向けのエンターテイメントとして昇華されており、また、権力との戦い、差別、異民族との交流など、『鉄腕アトム』や『火の鳥』の古代日本を舞台としたエピソードなどに共通する、明確なテーマが作品中に色濃く反映されています。日本人に比べ、大きな体をうまれ持ち、「自由の国を作る」という大きな目標に向かって進む主人公・鬼丸は、力強く、純朴な心の持ち主です。彼が無知な人間達から恐れられ、藤原良範をはじめとする権力者達から、出世の道具として利用され、虐げられる姿には、読者は大きな悲しみと憤りをおぼえることでしょう。そして、彼が戦いの中で理解ある人間達と出会い、「本当の正義」に悩む姿からは、「人間同士が戦うことのむなしさ」という、手塚治虫の思想を汲み取ることができるのではないでしょうか。そしてこのテーマは、晩年の「アドルフに告ぐ」まで繰り返し語られることになります。鬼丸というヒーローが設定されたことによって、手塚治虫得意の、複数の登場人物達がそれぞれの物語を繰り広げる大河ドラマ性が、この作品においては希薄といえますが、物語の中心が、運命と戦い続ける鬼丸の描写に絞られた結果、読者は鬼丸とともに怒り、悲しみ、感情を共有することが容易になったのです。あなたも鬼丸になったつもりで、彼の受ける試練を感じ取りつつ、同時に声援を送りながらこの作品を読んでみてはいかがでしょうか。