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光文社 手塚治虫漫画全集「西遊記」3巻 カバー表4用イラスト 1960年

ストーリー

超能力を持つ石猿の孫悟空が、三蔵法師とともに、魔物を退治しながらインドへの冒険の旅をする、手塚版「西遊記」です。

2000年もの昔、中国の奥地にある華果山(かかざん)の山頂の石から、1ぴきの黄金色をしたサルが生まれました。このサルは、かしこく勇敢で、やがて仙人の弟子となって魔法をおぼえました。しかし彼は、天界で大あばれをしたため、おシャカ様に岩牢へとじこめられてしまいました。

それから五百年のち、唐の国から、王の命令で貴重なお経をもらいに天竺(インド)へ行く偉いお坊さん・三蔵がその岩牢の前をとおりかかりました。三蔵に助けられたサルは孫悟空と名づけられ、三蔵の供をしてインドへ行くことになります。

途中、悟空は豚の顔をした妖怪・猪八戒や、河童の妖怪・沙悟浄と戦い、彼らも三蔵の家来にします。三蔵と魔法を使う3人の家来は、奇妙で驚異的な旅をつづけることになります。

解説

1952/02-1959/03 「漫画王」(秋田書店) 連載

言わずと知れた中国の「四大奇書」と言われる俗語体小説「西遊記」を原作として、子供向けにわかりやすく描かれた作品です。原作のスケール感や何でもアリ感を咀嚼し、またアレンジして、当時の子どもたちが楽しく読めるような工夫がなされています。

おどろおどろしい化け物たちも、怖さばかりではなく茶目っ気とパロディが効いた描写で、悟空と化け物たちの変化合戦には、セメントが出てきたりDDTが出てきたり。果ては悟空たちが漫画をとびだして、作者をも巻き込んで大暴れするという自由闊達ぶりです。

「漫画王」の創刊第2号からスタートし、毎号巻頭カラーで全98回、足かけ8年間にわたって連載されました。

原作を大きく外れて、手塚治虫のギャグ路線が自由奔放に発揮された作品となりました。火焔山のたたかいのシーンなどは、日本で1942年に封切られた中国最初の長編アニメーション「西遊記 鉄扇公主の巻」の影響を受けています。

その後1958年に、手塚治虫のところへ東映動画からアニメ化の話が持ち込まれ、手塚治虫の初めてのアニメーションの仕事となりましたが、できあがった長編漫画映画「西遊記」(1960年)は、原作とはまったく違うものになりました。

1967年には、やはりこの作品を原作にして、虫プロダクションで『悟空の大冒険』がつくられましたが、これもまた原作とはまるで違うものでした。

主な登場人物

孫悟空

孫悟空

華果山の上の大きな石から生まれた猿。生まれたときは金色に光っていた。竜王の家来から屋敷をもらって、山のサルの王になっていたが、人間より偉くなりたいと、仙人のもとに勉強に行き、妖術を身に着けた。優れた能力に驕って乱暴を働いていたら、おシャカ様に五行山に閉じ込められてしまう。
>キャラクター/悟空

孫悟空

猪八戒

沙悟浄

猪八戒

元天の川を守護する大将軍だったが、食い意地のために誤って下界に落ちて、豚の身体を得てしまった。ある屋敷の娘の婿になるところだったが、妖怪であることを見破られてしまい、悟空に退治されて以後、三蔵法師の弟子となる。

沙悟浄

流沙河に住んで追いはぎをしていた魔物。きれいな着物が着たくて追いはぎをしていただけあって、おしゃれなところがある。悟空に退治され、三蔵法師の弟子になる。

三蔵法師

タツ子

三蔵法師

天竺までお経を授かりに行くため、旅をしている僧。観音様の予言通り、悟空を五行山から救う。たびたび妖怪にさらわれては食べられそうになる。

タツ子

東海竜王のすえの娘。家出をした先で三蔵法師一行の馬を食べてしまう。悟空に退治されて、三蔵法師の弟子になる。以後馬にばけて馬代わりになる。

手塚治虫が語る
「ぼくのそんごくう」

中国最初の長編アニメ「鉄扇公主」

「火焰山のたたかい」
本文 原稿より

(前略)
「ぼくの孫悟空」をはじめたきっかけはおそらく、ギャグものを、という秋田さんの要請によったのだと思います。戦争中に講談社から出版された宮尾しげをさんの絵物語「孫悟空」が、戦争下の漫画不足に、かなりぼくの渇をいやしてくれたこともありますが、なによりも昭和十七年に封切られた中国最初の長編アニメ「鉄扇公主」が、ぼくの目をみはらせ、つよい印象をあたえたのが、「ぼくの孫悟空」をやりたいというのぞみになったのです。

このアニメは、そのコピーフィルムのボロボロになったのが一本ぼくの手元にあります。当時、ディズニーの「白雪姫」がつくられてからまもないというのに、あの中国でマルチや特殊効果までつかった長編アニメができたのは、ほんとうにおどろくべきことです。日本語版はたしか徳川夢声さんや岸井明さんたちが声のふきかえをしていたと思いますが、そのアニメのおもしろさ、スケールの大きさときたら、もう舌をまいたほどでした。

で、「ぼくの孫悟空」には、この「鉄扇公主」の影響がかなりつよくでています。ことに「火焔山と牛魔王」のくだりは、はらいのけようと思ってもあのアニメのイメージが心にちらついて、とうとう、ほとんどイミテーションにちかいものになってしまったくらいです。今それを読んで、まったくおはずかしいくらい、あのアニメのものまねなのです。

しかし、それはそれとして、この「ぼくの孫悟空」は、それなりにぼくのギャグ路線を自由奔放にださせて、以後、新進の漫画家を刺激、模倣させることができたのではないかと思います。
(後略)

(講談社刊 手塚治虫漫画全集『ぼくのそんごくう』8巻 あとがきより抜粋)

中国最初の長編アニメ「鉄扇公主」

「火焰山のたたかい」
本文 原稿より

秋田書店 漫画王 連載時扉絵 1957年

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  • ぼくの孫悟空 (1)
  • ぼくの孫悟空 (2)
  • ぼくの孫悟空 (3)
  • ぼくの孫悟空 (4)
  • ぼくの孫悟空 (5)
  • ぼくの孫悟空 (6)
  • ぼくの孫悟空 (7)
  • ぼくの孫悟空 (8)

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