ローマの地下洞「カタコンベ」の中で、野良犬の子犬たちが飲んだ特殊な薬…これが、目にも見えないスピードで地を駆け、空飛ぶ鳥をも落とすジャンプ力や、ライオンをかみ殺すパワーを持った3匹のスーパー犬を生み出した秘密でした。
この3匹のスーパー犬が、シルクロードに隠された財宝の地図を持つ少年・タダシを守って、時には悪の組織と戦い、時にはタダシを奪い合い、お互いに反目して争う…それが「フライングベン」のストーリーです。
この作品の印象を簡潔にあらわすとすれば、ズバリ「スピード感」でしょう。スーパー犬のベン・ウル・プチが、画面せましとコマの空間上を飛び回る姿…手塚治虫の頭の中では、この3匹がアニメーションのように実際に飛び回っていたに違いありません。それがそのまま「のっていた時期」のペンの勢いとあいまって原稿用紙の上に表現され、読者を圧倒するのです。ストーリー展開も、実に少年漫画らしく、波乱万丈そのもの。次々と起こる事件や、登場するキャラクターたちに、飽きるヒマがまったくありません。
それにしても、登場する犬たちの生き生きしていること!手塚治虫が動物ものに取り組んだとき、通常よりも「のって」かくことは有名ですが、手塚治虫のやわらかいタッチで表現された犬たちのたくましさ、しなやかさ、そして可愛さ。
犬好きでない方にもぜひおすすめしたい、「犬が主人公」ものの代表作のひとつです。
1966/02-1967/10 「少年ブック」(集英社) 連載