大洪水によって文明が海底に沈んでしまうという旧約聖書のノアの箱船伝説を、近未来の日本に置き換えて描いたSF短編です。
鯛二少年は、軍人である兄・鮫男の保管していた原子力要塞の設計図を処分しようとして毒を盛られ、脳に異常をきたして病院に入れられていました。
やがて、北極海上に建設中の原子力要塞が大爆発を起こし、間もなく日本に大津波が押し寄せてくることがわかります。
ところが、鯛二たちは、脱走犯たちによって病室へ閉じ込められていたために、津波の事を知りませんでした。
外へ出てみると、街はすでにもぬけのから! ヘリコプターで残った人を探しにきた鮫男も捕まり、一同はビルの屋上に追い詰められてしまいます。
そのとき、鯛二が旧約聖書に出てくる箱舟の伝説を思い出し、ありあわせの材料で箱舟を造ろうと言い出しました。
1955/08 「おもしろブック」付録(集英社) 掲載
短編の読み切り作品ながら、登場人物もそれぞれに魅力的で、初期の別冊付録の中でも名作となっている1本です。 ノアの箱船伝説は手塚治虫の好きなテーマのひとつで、『来るべき世界』や、後の『アトム大使』を始めとするいくつもの作品に、そのモチーフが使われています。 日本とイタリアの合作アニメーション『聖書物語』の第3話もノアの箱船伝説を描いたもので、手塚治虫はこの第3話ではシナリオから原画までを手がけ、亡くなる直前までその製作に情熱を傾けていました。