子役スタートというのは中々大スターにはなれない、というのが芸能界の常識です。愛らしい子供というキャラクターで愛された子役スターは、成長しても同じイメージを観る者に与えなければならない宿命を負ってしまうせいです。それは手塚マンガの中でも同じで愛らしい正義の子を演じていたケン一くんやアトムはつねに同じ役柄に縛られ続けました。けれどロックは違います。彼は単純な正義の子ではありませんでした。彼は子役の時からずっと「正義が勝利すれば明るい未来がやってくる」というイメージを信じていなかったのです。「この世は常に矛盾に満ち、正義が破れ、悪が勝利しても世界は泣かない。春になれば花を咲かせ、夏には明るい太陽が降り注ぐのだ」と、ロックはそんな現実をみつめている少年でした。シャーロック・ホームズから名前をもらっているだけあって、彼はたぶんに知的な少年だったわけです。だから成長しても彼は愛らしさを売り物にしなくても良かったわけです。端整な顔立ちの下に邪悪な悪魔の顔を隠している。そんな悪役像を彼は作り上げて行きます。手塚マンガの魅力はこういう屈折した少年スターをも物語の中に取り込んで、作品に深みと哲学を盛り込んでしまえるところにあります。他に「間久部緑郎」という名前でも活躍しました。
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