ライオンブックスシリーズ「複眼魔人」

1957年

太平洋戦争末期、善悪を見分ける目を持った少年が特高警察に利用され悲劇に巻き込まれるSF作品。手塚治虫は戦争の嘘と欺瞞を鋭く描いています。

 マンガ ライオンブックスシリーズ「複眼魔人」より

 マンガ ライオンブックスシリーズ「複眼魔人」より

マンガ ライオンブックスシリーズ「複眼魔人」より

【解説】

雑誌『おもしろブック』1957年4月号と5月号別冊付録として発表されたライオンブックスシリーズ第9作目。

 

昭和20年、太平洋戦争末期の東京。

空襲で両目を負傷した幼い少年アー坊が、瀕死の眼科医から開発中の人造角膜を移植される。

だがそれによって視力を回復したアー坊の目には人間の善悪を見分ける力が備わっていた。

その能力に目を付けた特高警察はその力をスパイを見わけるために利用する。

特高警察とは特別高等警察の略で戦前から戦中にかけてスパイや反体制活動家などを取り締まった組織のことだ。

アー坊の力のせいで多くの大人が死に、アー坊は大人たちから「複眼魔人」と恐れられるようになった。

 

手塚治虫の創造したロボット少年・鉄腕アトムも7つの威力のひとつとして善悪が見わけられる目を持っているが、本作では純真な少年が人の善悪を見わけられるようになったことで起こる悲劇をたんねんに描いている。

戦争とは嘘と欺瞞の塊なのだということを浮き彫りにする一作である。