1945年
【解説】
手塚の日記によれば、終戦も近い1945年4月から書きはじめられた長編作品。
山田野博士がある日、あらゆるものを溶かす分泌液を出す超生物“破壊虫”を発見した。それは日本が世界無比の強国となるための最終兵器となるはずだった。
ところが博士の助手が殺され、破壊虫は何者かに奪われてしまう。助手の友人だった素人探偵のヒゲオヤジがその調査に乗り出した。そして明らかになった敵の親玉の正体とは、世界の破壊を企むゴンドラ秘密結社社長ルセーヌ・パンだった。
人造人間プポ氏や意志を持つ美少女アンドロイド毒蛇姫(こぶらひめ)などが次々と登場。のちの手塚マンガにつながる要素が随所に見られる。
手塚はこの前年の1944年9月から勤労動員として大阪のスレート工場で働いており、3月に中学を卒業して以後もそのまま同工場へ通っていた。
手塚のエッセイやマンガ『紙の砦』などに出てくる、工場の片隅で隠れて描いたというマンガのひとつがこの作品だったと思われる。
原本は紙の両面に丸ペンで描かれて手製本されたもので、前後編に分かれていたが、前編のみ現存し後編は紛失してしまった。