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虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

 明治末期の北海道を舞台に、一癖も二癖もある登場人物たちが「アイヌの埋蔵金」を巡って繰り広げるサバイバルバトル! 北海道開拓史、アイヌ文化など、北海道の魅力を満載した漫画『ゴールデンカムイ』が朝日新聞社主催の第22回手塚治虫文化賞・マンガ大賞を受賞しました。
 綿密な考証と緻密な描写はもちろん、ダイナミックなストーリー、ときに過酷にもなる展開を和ませて余りあるギャグやグルメ描写、まさに「和風闇鍋ウエスタン」のキャッチフレーズの通りのエンターテイメント全部盛りの本作の魅力については、とにかく作品を読むのが一番手っ取り早い! とはいえ、いろいろ知りたいことも……。作者の野田サトルさんに、書面にて質問に答えていただきました。



野田サトル

北海道北広島市出身。2003年に「別冊ヤングマガジン」(講談社)掲載の読み切り「恭子さんの凶という今日」でデビュー。 11~12年にかけて「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で『スピナマラダ!』を連載。
14年より同誌にて『ゴールデンカムイ』を連載中。



アイヌを描く、という事

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このたびは受賞おめでとうございます。
『ゴールデンカムイ』はアイヌの少女・アシパと日露戦争から帰還した元兵士・杉元佐一が出会うことで物語が動き始めます。
 アシパや、彼女のコタンでの暮らしがとても魅力的に描かれていることは本作の大きな特徴の一つであろうと思いますが、一方でアイヌ文化を描くことは長らく難しいこととされていました。
『ゴールデンカムイ』が誕生する過程で、アイヌを描くことに関して葛藤やおそれはありましたか?


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

アイヌのコタンに招かれた杉元佐一がたびたびアシパに教えられるアイヌ文化に関する教えも読みどころの一つ。


いつでも打ち切りになる可能性はあると覚悟はしていました。
アイヌ文化に対して謙虚な気持ちで、知ったかぶりはせず可能な限り専門家にこまめに確認し、
間違いがあれば全力で謝って単行本で修正する。これが大前提でした。
マスコミなどで大問題となったアイヌ表現の例などを集英社で勉強しましたが
明らかな偏見と悪意があるものばかりでした。
そして誰がなんと言おうと自分の中ではアイヌを和人と同じに平等に扱うということ。
善人もいれば悪人もいる。
悪人のいない民族など、人間と言えないと思います。

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「恭子さんの凶という今日」は他紙の漫画賞を獲得したデビュー作ですが、今は「週刊ヤングジャンプ」の看板作家となりました。


いろいろあって温めていたアイスホッケー漫画を「ヤングジャンプ」に持ち込んで、
たまたま見ていただいたのが
いまの担当の大熊(八甲)さんでした。いま考えても本当に運を引き当てた瞬間だったと思います。
『ゴールデンカムイ』のきっかけとなる狩猟モノの小説を僕に持ってきたのも大熊さんでした。
それを読んだ瞬間に僕のメガネが光ったとか光らなかったとか。

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熊谷達也氏の作品からインスピレーションを受けたそうですが、他に読んでみた作品はありますか?


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銀の毛並みの狼・レタと、レタを追う二瓶鉄造。『銀狼王』からのインスピレーションが生かされています。


熊谷達也さんの本を読んだのは『銀狼王』だけです。ほかはまだ読めていません。
事前にアイヌ関係者の方たちからアイヌの登場する創作物は間違いもあると聞いていたので創作物はできるだけ避けましたし、読むべきアイヌの研究書がすでに膨大だったので創作物を読んでいる暇がありませんでした。創作物は読む時間に対して情報量が少ないので無駄と判断しました。白石の過去編で『破獄』とかパラパラと読んだくらいでしょうか。



〝和風闇鍋ウエスタン″はいかにして生みだされるか

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描かれたエピソードは読者の思いもよらない方向にどんどん進んでいくように思います。どうやってアイディアをひねり出していらっしゃるのでしょうか?


パッと思いつくものは読者も予想できる安易なものなので
自分を追い込み
追い込んだ先に斜め上の逃げ道を探します。
色んな高級食材を用意して最高級のカレーを作るかと思いきや
ウンコを作るみたいな大胆さも必要ですね。


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

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作品としてはシリアスなテーマを扱いながら、ギャグ表現もふんだんに盛り込まれています。


自分は元々ギャグ漫画でデビューしたのでギャグシーンは描くのが楽しいです。
担当の大熊さんとは
「ちょっとシリアスが多かったので、次の展開はほのぼのでなんか楽しくご飯食べようか」
「ちょっと最近ふざけすぎてるので、このへんでちょっと本筋に戻って引き締めようか」
みたいなやりとりで打ち合わせしてます。

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また、魅力的なキャラクターがいっそう作品の魅力を高めていると感じます。暗号のカギを握るのは脱獄囚たちですし、彼らを追うキャラクターたちも皆一癖も二癖もあって、いわゆる「善良な市民」ではないですね。アウトローでありながら、一つ筋の通った人物、というか。


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

野田先生の自画像にも採用されている辺見和雄は、凶悪な殺人犯ながら、どこか憎めない多面的な人物。出だしこそ不気味な印象ですが、一連のエピソードを読めば、「こいつに早く死んで欲しい」とは、思えなくなるはず。


多面的な人間にしたほうが予定調和にならないからです。
明らかな悪人で読者の誰もが「こいつに早く死んで欲しい」となって、結果、主人公が懲らしめる。
こういった流れは、ありきたりで退屈です。
凶悪な男なのに、どこか魅力があり尊敬すら生まれ、「死んでほしくない」と思わせたら成功だと思ってます。
ちなみに僕の中にはアウトロー的なものは一切無く、犬の散歩でうんこを片付けないような反社会的な人間はその場で、と考えてます。

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キャラクターの服装も、つい注目してしまうのですが、杉元や白石の和洋折衷スタイルや、アシパやキロランケのアイヌ衣装など、非常に細かく描きこまれています。さまざまな立場のキャラクターが出て来るために、さまざまな知識が必要ではないか、と思います。実はここが大変だった、というところはありますか?


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鶴見中尉の服装に注目。登場するたびに微妙な変化が。軍装の人物はほかにも様々な階級で登場します。


軍服は非常に決まりが多くて大変です。縫い目の位置とか上着の丈の長さ、肩章や軍刀の刀緒の形、夏服冬服など様々な違いがあり日露戦争前後はデザインが変わってたりなど非常に難しくいろいろと至らないところがあり、後悔の連続です。アイヌの繊細な衣装以上に難しいです。

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連載中の「ヤングジャンプ」誌上では、谷垣がグラビアページに登場し、大きな話題を呼びました。1人、誰かを選んで模擬写真集をつくるとしたら、やっぱり谷垣になるのでしょうか。


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阿仁マタギ・谷垣源次郎のセクシーグラビアページは単行本未収録。まだチャンスはある!?


谷垣グラビアはもっと描きたかったです。巻頭と巻末のグラビアを独占するくらい。
表紙になっても良かったはずと思ってます。納得いきません。まだ諦めてません。

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ちなみに、ファンの間ではどのキャラクターが人気なのでしょうか? またそれは、先生の中では納得の反響なのでしょうか? 少し意外な声もあったりするのでしょうか?


ツイッターで読者から定期的に質問の企画をやっているんですけど
その企画で最近、月島軍曹の質問が非常に多くてこれは納得です。
自分も「こういう男が、かっこいい」と思いながら描いてますので。
それが女性にも支持されると嬉しいです。
尾形も女性の人気があります。それだけがよくわかりません。
尾形は深く考えずに素で描いていたのが良かったのかなと思ってます。


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

月島軍曹(1コマ目奥)と尾形百之助(2コマ目)の対決シーン。寡黙な副官タイプの月島と、プロフェッショナルでシニカルな尾形。野田先生の「素」は尾形寄り?


手塚治虫は読んでいましたか?

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手塚治虫公式サイト、ということで、ここは伺いたいところですが、かつて手塚治虫も『シュマリ』や『勇者ダン』といったアイヌをテーマとした作品を描き、「征服者である内地人であるぼくが、被害者であるアイヌの心情などわかるはずがないと悟った」とあとがきに書き残しています。
読んでみたりはされたのでしょうか?


『シュマリ』は読んだことありませんでした。類似点があるのは後で知ったことで
北海道の面白いネタを集めたらいくつかカブった程度にしか考えてません。
いち早く北海道の面白さに気付いた手塚先生恐るべしという感想でした。

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もしあれば、好きな手塚作品か、印象に残っている手塚作品を教えてください。それはいつ頃、なぜ手に取ったのでしょうか。


『ブラック・ジャック』と『三つ目がとおる』は幼い頃、家にあったので読んでいました。
和登さんが肉感的で非常に良かった記憶があります。今読むと
そこまでムチムチしてないんですけど。


虫ん坊 2018年6月号 特集1:第22回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞 『ゴールデンカムイ』野田サトルさんインタビュー

『三つ目がとおる』より 和登千代子


「舞台裏は全て忘れて」

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読者に向けて何か一言ありましたら、お願いいたします。


本当は内情をべらべらと話すつもりはありませんでした。
この舞台裏は全て忘れて作品に没頭して欲しいです。
作者のことなんてどうでもいいんです。知ろうとしなくていいです。
この作品の世界は本当にあるのかも知れないとまで深く入り込んでくれると
キャラクターたちへの想いは増していくはずです。
そうなったら僕も幸せです。

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お忙しい中、ありがとうございました!

(C)野田サトル/集英社



 関連情報

  • 『ゴールデンカムイ』公式サイト 集英社 - ヤングジャンプ
  • 朝日新聞社「手塚治虫文化賞」ページ


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