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虫ん坊 2016年7月号 特集2:せたがやこどもプロジェクト2016 キッズ・ミュージカル「ワンサくん」インタビュー!!

虫ん坊 2016年7月号 特集2:せたがやこどもプロジェクト2016 キッズ・ミュージカル「ワンサくん」インタビュー!!

 手塚治虫の知る人ぞ知る名作『ワンサくん』が、この夏、キッズ・ミュージカルとして帰ってきます!
 『ワンサくん』は、元々、企業のマスコットキャラクターとして誕生しました。その後、1971年にマンガの『ワンサくん』として連載開始、1973年にはアニメ化もされ、原作とはまた違う味わいのある、コミカルでミュージカル調な作風が当時の子どもたちに人気でした。
 今月の虫ん坊では、キッズ・ミュージカル「ワンサくん」について、演出を手掛ける小林顕作さんと脚本を担当された喜安浩平さんに色々お話を伺うほか、見事、オーディションでワンサ役に選ばれた、みのりくんと鈴木颯人くんにそれぞれお芝居に対する意気込みなどを語っていただきました。


 プロフィール


小林顕作(こばやし・けんさく) さん

4月9日生まれ。東京都出身。
宇宙レコード※の作・演出・出演の他、ダンスカンパニー・コンドルズにおいてコント部門の脚本も担当。脚本や演出を手掛けることも多い中、数々の客演もこなしている。CMナレーションも多数。その他ライブイベント『明大前フォーク集会』を月に1度開催している。代表作に、NHKEテレ『みいつけた!』(オフロスキー役)、學蘭歌劇『帝一の國』 第1章・第2章・最終章(演出)、ラジオCM『大正製薬・リポビタンD』など。この後NHK大河ドラマ『真田丸』(明石全登役)の出演や、7月6日〜7月10日に時速246億 川本成ソロ公演「独歩」の演出を控える。※「レ」の文字を丸で囲むのが正式の表記。



喜安浩平(きやす・こうへい) さん
1975年生まれ。愛媛県出身。
劇団「ナイロン100℃」に所属、劇団員として活動する一方、’00年より劇団「ブルドッキングヘッドロック」を旗揚げ。主宰として、脚本・演出を手がけている。俳優・声優としても幅広く活動中。13年、『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。他の主な脚本作品に、【舞台】ブルドッキングヘッドロック全作品、『ショーシャンクの空に』、學蘭歌劇『帝一の國』 第1章・第2章・最終章、【映画】『幕が上がる』、『ストレイヤーズ・クロニクル』、『ディストラクション・ベイビーズ』【ドラマ】『徳山大五郎を誰が殺したか?』(7月放送予定)など。


みのり くん ( EBiDAN KiDS )

2004年10月12日生まれ。東京都出身。
スターダストプロモーション所属。
趣味ジェイボード・キックボード・卓球・漫画読むのが大好き。
スカウトされたのをきっかけに現事務所に所属。
今作が初舞台出演で初主演に抜擢。


鈴木颯人(すずき・はやと) くん

2005年1月1日生まれ、東京都出身。
テアトルアカデミー所属。
2013年より広告・映画・ドラマと幅広く活躍中。
2015年、ミュージカル『風雲新撰組-月影-』沖田総司役で舞台デビュー(シアター1010)。
秋以降に短編映画『The Night Skies』が公開予定。




●はじめに、演出の小林顕作さんと脚本の喜安浩平さんが登場!


虫ん坊 2016年7月号 特集2:せたがやこどもプロジェクト2016 キッズ・ミュージカル「ワンサくん」インタビュー!!


——

おふたりはもともと『ワンサくん』をご存じでしたか?


小林:

僕は小さい頃にアニメ版の『ワンサくん』を観ていて、知っていました。なかでも一番強く心に残っているのが、ワンサくんのお母さんのエピソードなんですけど、僕はそれを観て悲しくてワンワン泣いちゃったんです。課題で提出する感想文にも、ワンサくんがかわいそうって内容を書いて提出しているんですよ。兄弟からも、『ワンサくん』と言えば顕作ってすっかり覚えられて、よくからかわれていましたね。


喜安:

僕は、なにも知らなかったですね。アニメはもちろん、原作も知らなかったです。舞台化のお話をきっかけにはじめて原作を読みました。


——

キッズ・ミュージカルとして舞台化すると言うのは最初から決まっていたのでしょうか。


小林:

イメージとしては最初からありましたね。やっぱり、ワンサくんが子どもなので、子どもが集まってめちゃくちゃやるっていう。
 おもちゃの「ロディ」(馬をモチーフにしたイタリア生まれの乗用玩具)ってあるじゃないですか。3年前くらいなんですけど、『ロディ・ミュージカル 2012』という作品に携わっていたんですよ。その経験もあったので、意外と自然にキッズ・ミュージカルという流れになりました。


——

小林さんと喜安さんのコンビでの舞台化は『ワンサくん』で2回目かと思うのですが(古屋兎丸先生原作『帝一の國 ていいち くに』が初回 )、また組むことになられていかがですか。


喜安:

どうなんでしょう。原作の在り方が『帝一の國』とは違うので、『ワンサくん』をやるにあたって、前の作品の作り方を参考にすることは、あまりありませんでしたね。


小林:

前の作品は原作をどうやって舞台にこしらえるかというのがかなり大変だったというのがありましたよね。


喜安:

原作がある程度の長編でしたからね。どうしても、ストーリーを追わざるを得ないところがあったので、そこをどうやって舞台に収めるかということについて、お互いに工夫しなければ、という状態でした。


小林:

今回は前回の作品と違って、土台をほぼイチから我々が作らなきゃいけないというのがあったので、まずその話し合いからはじまりましたね。
 先に、お母さんのエピソードは思い入れがあるから入れたいとか、だいぶざっくりした希望を僕から言って、あとは喜安君に任せて脚本を書いてもらったっていう(笑)。


喜安:

主人公のワンサくんは犬なわけじゃないですか。でも、舞台でやろうとしたら、人が演じることを前提に考えなくてはいけない。まずはそこだけを意識して書きました。途中、原作からは、自分が引っかかった要素だけを抜き取っていった感じです。


——

例えば、ワンサくんが10円玉を掘りあてる特技を持っているという設定ですね。


喜安:

そうですね。ただ、“ワンサくんは10円玉で売られた犬です”という事実だけ書けば済むほど、簡単なことではなかったですね。それをいまの人が聞いてピンとくるのかという点や10円玉のエピソードの特徴をどことどう紐付けるかということを考えなきゃいけないなと思いました。
 実際、いまの人たちが聞いたら、相当安い犬ってことになってしまう……。


小林:

いまの時代に置き換えたらそうだよね。10円じゃなくて、100円にした方がいいのかなとふと僕も考えたんだけど、100円だと違うんだよなっていう違和感があったんです。10円ってもはや、「10円」という響きがきちんと存在している気がするんですよ。ただもう、10円は10円なんですよね。


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手塚治虫漫画全集『ワンサくん』より。ワンサくんが10円玉を掘りあてるシーン。



——

もはや、10円自体の貨幣価値ではないと。


喜安:

昔といまの価値観の違いだったり、そういう部分を想像して埋めていく作業に時間を掛けた感じです。なので、あまり、原作やアニメを繰り返し観て参考にしようという感じではなかったですね。


小林:

まず、タイトルから決めていったんです。子どもたちの視点から考えた時に、夏だし、やっぱり「祭り」が好きだろうなと。他にも「脱走」って好きだよなあとイメージそのままの言葉を繋げて、とりあえず、このタイトルでどうだ! って喜安君に投げたんですよ。
 言葉から連想していったときに、祭りに行くためにどこかから抜けだすんだろうなってイメージに辿りつくかなと。


喜安:

タイトルに関しては、原作の途切れる直前ですか、野犬収容所から脱走するというエピソードがあるじゃないですか。それ自体は短いエピソードですけど、大きく外れてはいないだろうというのもありました。


小林:

昔って、ペットを飼っているのが珍しいというくらいのら犬がたくさんいたじゃないですか。いまは逆に、のら犬がいなくなって、ペットが大半になっている。じゃあ、そこはあえて逆の発想にして、すでにペットとして囲われている犬たちの中にのら犬を置くことで、「なんだ、のら犬って」ってなるような設定にしました。


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手塚治虫漫画全集『ワンサくん』より。野犬収容所から脱走するシーン。



——

世間では良く犬派か猫派かという話題になりますが、おふたりはどちらがお好きですか?


小林:

実は僕は猫派なんです(笑)。


喜安:

基本的にあまり興味はないですね。


小林:

動物には興味はないの? じゃあ、虫?


喜安:

いや、虫にもあまり興味はないですね。強いていうなら……、花?


——

花?!


小林:

女子かよ!!!!!


喜安:

いや、僕、花は必ず玄関に飾りますね。自分で買って来てでも必ず飾るくらい花は好きなんですけど、なんというか、介入してこられるのが苦手なんですよ。


小林:

亀なんかは介入しないよね。どう?


喜安:

それでも、結果的に亀が死ぬかも知れないって心配しなきゃいけないじゃないですか。


小林:

花だって枯れて散るだろう(笑)。


喜安:

花は水を取り換えるだけで済むじゃないですか! 僕の中でその数分はありな気がするんです。
 昔、子どもの頃実家で文鳥を飼っていたんですよ。まわりが田んぼばかりの田舎だったんですが、ある日、おふくろがドラマみたいな叫び声を上げるから、何かと思ってみんなで駆け付けたら、文鳥が入っていた鳥籠の中に丸々と太ったヘビがいたりとか、兼業農家だったので、チャボを飼っていたんですが、朝、卵を取り上げたチャボが学校から帰ったら、庭の木に絞めてつるされていたりとか、僕の中で生きものってそういう感じだったので、人間とおなじですけど、それぞれ勝手に生きて勝手に死んでいくという価値観なので、責任を取れないものは拘わりたくない……というだけです。もちろん、興味はあるんだと思うし、人が飼っている動物はかわいいなって思うんですけど、いざ自分が飼って育てるとなると、一生懸命気に掛けてしまうのが想像できるから、簡単には飼えないですね。


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——

『ワンサくん』以外に、手塚作品で読んだことのあるマンガはありますか?


小林:

『ブラック・ジャック』ですね。細かいエピソードまで話してくれって言われたら、そんなに詳しくは話せないですけど。


喜安:

初めて触れたのは、『火の鳥鳳凰編』のアニメでした。世代的に手塚さんのマンガは僕より上の世代のひとたちのイメージだったんですけど、文庫本で全集になったときがあったじゃないですか。そのときに、実際に手にして読んでみようと思って、原作の『火の鳥』をはじめ『ブッダ』や『三つ目がとおる』、『どろろ』など、一気にひと通り追い掛けたような気がします。


小林:

僕、アニメは『ふしぎなメルモ』ですね。メルモちゃんにはドキドキしましたね。あとは、『リボンの騎士』とか『ジャングル大帝』とか。『ジャングル大帝』は音楽が一番好きで、ああいう感じで『ワンサくん』も出来ないかなとは思っているんですけど。手塚さんのアニメがたくさん放映していた時代特有の、楽器の生の音が鳴っている感じを出したいですね。


喜安:

ああいう音って聴かなくなりましたね。


小林:

生音じゃないと作れないんだよね。その音に近づけるため、どのくらい、なにが出来るかということを、これから『ワンサくん』の曲を作るときに考えてみたいと思います。
 僕らの年代とか僕らより上の年代の方が今回のミュージカルを観て、「あ、これ手塚さんの匂いだ」と感じる曲を作りたいと思っているし、それをいまのちびっ子たちが聴いて、どのくらい新鮮に感じるのかというところですよね。
 そこを全く取っ払って、いまの流行り—たとえば、ヒップホップみたいなものだけを取り入れるっていうのは嫌なんです。どうしても、自分がアニメでみたあの時のワンサくんの匂いとか色が残っているから、それはすごくやりたいなっていう。昔のテイストを取り入れて、いまの音楽とどうなるのかなというのがやりたいことですかね。


——

今回、主役のワンサくんと個性ゆたかな犬役の子どもたちはオーディションで選ばれましたが、オーディションでの様子を教えて下さい。


喜安:

僕は残念ながら立ち会えてないんですよ。


小林:

僕が応募してくれた子どもたちを集めてワークショップのようなものを開いたんだけど、まあ、もう、めちゃくちゃでしたね(笑)。
 2日間に分けて行ったんですけど、初日はダンスと自己紹介をお願いしたんですが、そこには、かしこまったオーディション用の顔がズラッと並んでいて、みんな、ダンスを習ったりしている上手な子ばかりですし、まあ、素晴らしいんですね。
 2日目、2次審査で残った子たちには、タガを外してもらうために、今日は遊ぶだけにしますと伝えて、まず、鬼ごっこをしてもらいました。そうすると、ちょっと本性が出るじゃないですか。思惑どおり、鬼ごっこをやって行くうちに、昨日はいかにも芸能事務所から来ましたっていう子どもたちが、段々、「やめろよ!」って声を張り上げたりして、どんどん汚くなっていくんです。こいつは面白いなと思って。


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小林:

いまの子って、普段、何かを叫んだりすることがなくて、人前では控えめなイメージだったので、ためしに、汚い言葉とか人を罵る言葉を書きならべて、これを相手に向かって叫ばせるというのをやってみたら、子どもたちが、もう、叫ぶ叫ぶ!!


——

例えば、どんな言葉を叫んだんですか?


小林:

「この穀潰しーーーーー!!!!」とか「借金まみれーーーーー!!!!」とか
「この大根役者ーーーーー!!!!」と叫んでもらって、叫ぶ力が強い子たちが生き残っていきましたね。


——

その中で上位の子どもたちがオーディションに受かるという(笑)。


小林:

最後に、「今日のことはママに話しちゃだめだぞ」と釘をさして、解散しました(笑)。
 結果的に、この子も面白い、あの子も面白いって、思ったよりもたくさん採用してしまい、喜安君に「ごめん、人数増やしすぎちゃった」って、メールで事後報告しました(笑)。


——

おふたりはどのような子ども時代を過ごされましたか?


小林:

ただひたすら自転車に乗って、わけもなく走りまわってましたね。僕は団地っ子だったので、団地の中がテリトリーでした。延々とかくれんぼをして誰にも見つからず帰るのが普通で、缶けりをした時も本気で隠れて、その日一日中おとなしくしていながら、隠れている間に別の違う遊びをして帰るという毎日でした。野球をやれば、近所のおばちゃんに怒られたりとか(笑)。


——

やんちゃな子どもだったんですね!


小林:

やんちゃと言うか、完全にダメな子でしたね(笑)。
喜安君は、野っぱらを駆けまわるタイプ? そうじゃなくて、石をただひたすら拾ってみるとか、川を眺めるとか……。


喜安:

そうですね、僕の子ども時代は……、あまり話して楽しい感じではないです(笑)。石を拾って終わればいいんですけど、罪を自覚しないまま、倉庫の蛍光灯を順番に割って行ったりとか(笑)。一番タチの悪いタイプですよね。
 田舎だからまわりに何もないし、なんでもゼロの状態からやるしかなかったので、想像力は豊かだったんだと思いますよ。僕、一人っ子なんですけど、友だちもだれも捕まらない時は、ただひたすら田んぼのあぜ道を歩いたりしているっていう(笑)。
 でも、そういう時間をひとりで過ごしているうちに、ひとりの時間の使い方を覚えて、イチからものごとを考えるという素養を身に付けていったのかも知れないです。


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——

今のお仕事につながる目覚め・きっかけはなんだったのでしょうか。


小林:

目覚めは殆どなくて、もう、ただ“流れ”ですね。
 大学でたまたま劇団にスカウトしてもらって舞台に立ったんですけど、その時はもう二度と舞台に立ちたくないって思って。でも、また違う先輩から、うちの劇団で楽しくやろうよって声を掛けてもらったんです。そこでまた演劇をやりはじめて、まじめに芝居をやっていこうと思いはじめた頃に、突然、劇団がコスプレ集団になるぞって言われたんですね。当時の僕は、変なキャラクターになりきってチャラチャラした芝居をすることに抵抗があって、それよりもちゃんと人間のやりとりの中で演劇をやりたいと思っていたから、こんな劇団にはもういられないって、飛び出して。
 20年経ってふたを開けてみたら、こども番組『みいつけた!』のオフロスキー役になっているという(笑)。良く分からないですよね。なんで、僕、自分が一番やりたくなかった、コスプレして、化粧して、キャラやってるんだろうって。人前に出て、キャラクターで人気者になるなんて、露ほども思わなかったですもん。
 アレがやりたくて、俳優を続けてきたわけでは全くなくて。本当に流れですよね。これが好きかもってことをどんどんやっていったら、気がついたら、もともと嫌いなことをやっているという。結構、友だちに聞いたら多いんですよ。昔、すごくいやだったけど、それで自分はいま飯を食っているってやつが。面白いですよね。
 喜安君ってそのへんしっかりしてるの?


喜安:

いや、何もないですけどね。もともと、美術の先生になるつもりだったんですよ。


小林:

ちゃんとそういう何かになるつもりっていうのはあったんだね。


喜安:

第1希望は、日がな一日、筆の思うがままに絵を描いて過ごしていたい、というものでした。もう、夢でしかないですよ、本当に。ただひたすら毎日絵を書いて生きていける人間なんてそんなにいないし、お金を稼がなきゃいけないんだよということを散々色んな人から諭されて、職業というものを意識した時に、まわりから唯一それなら良いんじゃないと言われたのが美術の先生だったんですよ。そのつもりで大学にも行ったんですが、釈然とはしていなかったんでしょうね。そんなときに出会ってしまったのが、演劇だったんです。絵を一日中描いていたいというと、待て待て待てとなっていたのに、演劇はなぜか、頑張ってねと応援してもらえたんですよ。どちらも1円のお金にもなっていないのに。


小林:

そうだよね! あれってなんだろうね!


喜安:

やはり、そこに人が集まってくるからですかね。
 ひとりじゃなくて、ふたりなり何人なり、同じ考えの人間が複数いるって思えるからかもしれないですけど、紙っぺら1枚程度の信頼が生まれて、まあ、頑張れみたいな空気になる。


小林:

必ずバイト先で演劇青年がいるとさ、応援されるじゃん! おばちゃんから、パン、持って行きなよって声を掛けてもらえたり。


喜安:

そこで、演劇やってますじゃなくて、絵を描いてますってなると、とたんに大丈夫なの?! と心配されてしまう(笑)。


小林:

頑張ってねっていいにくい(笑)。


喜安:

一応、演劇をやっていることを応援してもらえたので、その分猶予を得られたんですね。もっと、ちゃんとしろと言われない時間が少し生まれて。とはいえ、流石になんとなく内容について批評されはじめるので、段々そこはプライドじゃないですけど、だったら、もっとほめられたいし、もっと良いものを見せたいと思うようになっていって。なので、特に、ここというタイミングがというよりは色々積み重なって今の仕事に繋がっていったということですね。


小林:

僕らいま40代の人間が20代くらいだった時代って、一番小劇場が元気だったんですよ。団体がいくつもあって、みんなアホみたいなことをいっぱいやってて。たとえば、色んなやつらが火を点けたり、舞台にブタを放したりとかそんなことを日常的にやっていたんですよ。まわりが本当に元気だったし、もっと、過激なことをやっていたりする連中が横の友だちに沢山いたから面白かったですね。めちゃくちゃやりながらも、3カ月後には公演やるぞってなったり、熱がとにかくありました。その時代その場所に自分がいられたのは、今、この仕事をしている理由として大きいかも知れない。


虫ん坊 2016年7月号 特集2:せたがやこどもプロジェクト2016 キッズ・ミュージカル「ワンサくん」インタビュー!!


——

70年代の作品がいま平成のこの時代に舞台化されるにあたって、いまだからこそこういう魅力を伝えたいとかこだわろうとしたポイントはありますか?


小林:

僕にとっては、いまだからこう……と思うこと自体がナンセンスなんですよね。
 ねらってやっている訳ではないですし、すべては流れに乗って、色んな力が働いてあるべくしていまがあると思うんです。そう考えると、「ワンサくん」というキャラクター自体も力を持っていたんじゃないのかな。


喜安:

先程のお話にもありましたけど、いま、のら犬っていないじゃないですか。原作にあるような空き地に犬が集まってくるという光景は実際にはないし、それを想像できるのってある程度大人のひとたちしかいない。そういう原作といまのギャップを解消するために、いまにマッチングさせることばかり考えていくと、今度はワンサくんというキャラクターがあまり面白くないキャラクターになる気がするんですよね。なんかこう、家から出たことがないんだ、僕、みたいな。
 まあ、いま、東京にいる犬の多くはそういう犬な訳じゃないですか。
 現代という視点にとらわれて、犬たちがみんな自分の親を知らないとか、ブリーダーの顔しか知らないという現実を書いても、全く違う社会問題の話になっちゃうし、どこを狙っても、結局、ひずみがでる気がするんですよ。
 やっぱり、意識すべきは、いまここにこの子たちが集まったということであって、その子たちがお客さんの前で何かをやるときに媒介するものがワンサくんであればいいとだけ思っているから、いま、ワンサくんをやる理由というのは僕はまだ分かっていない状態ですね。


小林:

真剣にこだわって作ってしまっても、なんだか頭のいいことばかりやっているみたいで、嫌になるんだよね。


喜安:

極端なことを言えば、もっと、フィジカルに、ただ、走りまわっているみたいなことでいいんですよ。


小林:

おい、こいつら1時間走りまわっているだけじゃないかって(笑)。


喜安:

ただ、それをそのまま、「1時間走りまわっているのである」とト書きに書くわけにもいかないから、筋道を決めて脚本状のものを書いたというだけで、脚本なんて、発射台みたいなものです、ただの。
 子ども達それぞれが、脚本という発射台を利用して、どんな勢いで駆け下りて行って飛ぶのか、逆に楽しみですね。


——

脚本はあくまでベースでしかないということですね。


喜安:

稽古場で役を作っていくことに対して、ポジティブに取り組むことが出来るかどうかですね。
 面白ければという大前提はありますけど、こちらが思うものと全然違うものになったって良いんだと思うし、なにより、ここに集まった子どもたちがステキかどうかという方が重要だと思います。まじめにやっても良いんですけどね。まじめにやって、誰よりも面白くなれるならそれで良いし、こちらもあまり強制力のない脚本を書こうという気ではいたんですけどね。


小林:

一番の願いは、観に来てくれた人が元気になって帰ってもらえたら、それで良いんですよ。別に、むずかしいことなんて考えなくて良いし。楽しかったと走って帰ってもらえるようなものになれば、僕はそれだけで満足です。


虫ん坊 2016年7月号 特集2:せたがやこどもプロジェクト2016 キッズ・ミュージカル「ワンサくん」インタビュー!!


——

舞台を楽しみにしている虫ん坊読者にひとことお願いします!


喜安:

脚本家として、手塚さんが仮にこのまま連載を続けていたとしたらと考えたときに、お母さんに対する憧憬の念というのは多分、もう少し膨らませていた部分なんじゃないかなと思っていて。
 ワンサくんを一匹のキャラクターとして作り上げて行くときに、お母さんとの部分はどうしても外せないだろうなと思ったので、セリフだったり行動だったり、なるべく具体的に書こうと意識しました。そこが、僕が原作といずれ出来上がる舞台の間をつなぐ上で、一番、きちんとまとめようとした部分かもしれません。
 もちろん、お母さんに対する憧憬の念というものも、全面に出して押し付けるのではなく、作品の世界観の底の方で漂っているように書いてみました。
 原作をお好きな方には、そういう底に隠れている部分に気付いていただいて、舞台を楽しんでもらえたら嬉しいですね。


小林:

僕は、手塚さんの作品だということを意識して考えすぎるのは、多分手塚さんが望んでいないことだと思うんです。
 それより、僕が昔、ワンサくんに対して抱いた感情やあの頃流れていたアニメの感じ、いま出演してくれるみんなのことを大切にしたいという思いを作品にした結果、こうなっちゃいました! というのをやろうと思います。
 今回、こどもプロジェクトということで、子どもが主体ではあるのですが、僕としては大人の方も笑えるものにしたいし、観にきて下さるみなさんのためにという作品を作りたいと思っているので、是非、いろいろな方に観て欲しいですね。
 最後、実際に観に来たお客さんに、「良かったよ、顕ちゃん!」って、肩を叩いてもらえたら嬉しいです(笑)。



●続いて、ワンサ役のみのりくんと鈴木颯人くんが登場!!


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——

とてもユニークなオーディションを見事合格して、それぞれ、「ギャオ!組」と「ワァオ!組」のワンサ役となったおふたりですが、はじめて合格と聞いた時はどんな気持ちでしたか?


颯人:

僕はもともとネルケプランニングさんの舞台がすきで、何度か観に行っていたんですけど、僕もいつか出たいなあとずっと思っていたので、ワンサくんに合格して、めちゃくちゃうれしかったです。


みのり

合格と聞いたときの気持ちをひとことで表すと、「よっしゃあ!」ですね。その時はすごく飛び跳ねて……、ちょうど、食事をしに出かけることになっていたんですけど、気付いたら、足取りも勝手にスキップになっていました。


——

ビジュアル撮影のときに、実際、ワンサくんになってみての感想は?


みのり

実際に犬のメイクをしたんですけど、犬の鼻とかヒゲもちゃんと描かれていて、すごくクオリティが高くて、ものすごいなあと思いました。想像以上にすごかったですね。


颯人:

メイクで自分の顔がどんどん犬になっていくところをみていたら、すごくテンションが上がっちゃって、それでそのままの状態でビジュアル撮影にのぞむことが出来たのでとても楽しかったです。


——

どんなワンサくんを演じたいと思いますか?


颯人:

『ワンサくん』のビデオを観た時に、ワンサくんは優しくって勇気があって、時には頑固なところがあったりして、自分に似ているところがときどきあったので、そこを出せたらと思っています。


みのり

ワンサくんはすごく勇気があるキャラクターなんですけど、面白い部分も持っているので、勇気があふれるワンサくんと楽しいワンサくんの両方を演じたいですね。


——

最後に意気込みをお願いします!


みのり

ワンサくんはすごく自分にあっているキャラクターだと思いました。あっているキャラクターだからこそ合格したと思いますし、2日目のオーディションのときに、“変顔3連発”というのをやったんですよ。そこもポイントで受かったので、表情豊かなところにも注目してほしいと思っています。


颯人:

自分たちのグループ、ワァオ!組を引っぱっていけるようにがんばっていきたいと思っているし、ギャオ!組の舞台の刺激も受けながら、チームみんなのいいところを引き出して良い作品になれるようにがんばりたいと思います。



 イベント情報


せたがやこどもプロジェクト2016

キッズ・ミュージカル「ワンサくん」−祭りにいくぞ!大脱走!−


公演期間:2016年8月18日(木)〜28日(日)

劇場名:シアタートラム 
https://setagaya-pt.jp/performances/20160818wansa.html

前売り開始2016年6月26日(日)10:00〜

チケット料金おとな:4,500円 こども(4歳〜中学生):2,000円

(前売・当日共/全席指定/税込)

主催・製作:ネルケプランニング

詳細:http://www.nelke.co.jp/stage/wansa_stage/


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