2016年8月に、キッズミュージカルとして上演されることが決定している『ワンサくん』。
演出は、俳優としても活躍し、NHKの子ども番組『みいつけた!』のオフロスキー役で人気を集めている小林顕作、脚本は映画「桐島、部活やめるってよ」で第36回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した喜安浩平が担当ということで話題になっています。
元々、企業のマスコットキャラクターとして誕生した"ワンサくん"は、1971年にマンガの『ワンサくん』として連載開始となりますが、掲載雑誌が廃刊になってしまった為、未完のまま終了。そのまま最後まで描かれることはありませんでした。
1973年にアニメ化もされましたが、笑い多め・劇中歌ありのミュージカル調な作品となっており、手塚治虫はあくまで原作者としてクレジットされているだけで、『ワンサくん』の原作とは全く異なるものになります。
今回のオススメデゴンス!では、マンガ版『ワンサくん』にフォーカスをあて、その世界観に迫って行きたいと思います!
主人公"ワンサくん"はもともと三和銀行のイメージキャラクター。"ワンサ"は"サンワ"を逆さにしたネーミング。1973年4月には虫プロダクション製作のテレビアニメが放映されたが、ストーリーはほとんどオリジナルで、手塚治虫はまったくタッチしていない。
「解説」にもあるとおり、この原作マンガとテレビアニメのストーリーは、まったくといっていいほど異なっています。アニメの『ワンサくん』に親しんでいた方も、いや、そんな方こそこの原作を一度読んでみてください。テレビアニメとはまた異なった魅力を持つワンサくんを見出すことができるでしょう。
手塚マンガでのワンサくんは、かわいいけれども少々やんちゃの過ぎる感のある、かなり癖の強い変わり者の白い子犬。銀行のイメージキャラクターでありながら、そんな型にはまらない、むしろわざとそこから抜け出ようとするかのようなキャラクターです。
地面に埋まった10円玉を掘り当てるという特技は、おそらくは『はなさか爺さん』に出てくる犬をヒントにしたのでしょう。ここほれワンワン、お宝ざくざくとはいきませんが、物語の序盤、危うく殺されかけたワンサをやさしいおじいさんが哀れに思って拾ってくれる、という展開は、そのまま現代版『はなさか爺さん』といった風情。しかしそこは手塚マンガ、一筋縄には行きません。そのうち人間たちは姿を見せなくなり、変わりに個性豊かな野良犬仲間たちが主人公となった動物マンガとなっていきます。
作品数が圧倒的に多く、また目の回るように多忙であった手塚治虫の作品には、物語の途中で休載になった作品も少なくありませんが、この『ワンサくん』も虫プロダクション倒産などのごたごたに巻き込まれて未完に終わってしまった作品です。犬たちのキャラクターが個性的だっただけに、このあとにいろいろなドラマが想像でき、未完であることが悔やまれるのですが、逆にこの先を皆さんがめいめい想像してみるのも面白いかもしれません。
普段は明るくていたずらっ子なワンサくんが、珍しく真顔で怒っているシーンです。
お金を掘りあてることはワンサくん以外の他の犬には出来ません。女の子の犬はワンサくんを褒めながら「いつからそんな芸おぼえたの」と尋ねます。しかし、ワンサくんから返ってきたのは「げいじゃないやい」という強めの言葉でした。
なぜでしょうか。
それは、このあとに出てくるワンサくんの過去のエピソードに秘められているのですが、ワンサくんがお金を見つけられるのは、最終的に「人間がなんでもお金で値打ちをきめる」というところに直結していきます。本当はお金なんて必要ないはずなのに、お金がものをいう世界だからこそ、必死に覚えるしかなかったのです。
褒められても嬉しくない、やり場のないワンサくんの本音が強く出ています。
「おれあな太く短く生きるんだ」
ワンサくんの仲間の一匹、ルパンのセリフです。
左目を常に眼帯で被い、時に葉巻を手に持つ彼の過去が気になりますが、ルパンという名前から察するに、仲間になる前から野良犬として食べ物を盗むなどのどろぼう稼業に勤しんでいたようです。
お金を得るため、自ら作戦を立てて実行するも失敗。ワンサくん達はピンチに陥りますが、最終的に彼の「太く短く生きる」という信念がみんなを救います。