『鉄腕アトム』、『ブラック・ジャック』、『ジャングル大帝』など、おなじみの人気キャラクターがクロスステッチに——。
『手塚治虫キャラクターのクロスステッチBOOK』が辰巳出版より7月31日に発売決定となりました。
クロスステッチの図案を手掛けたのは、手芸界のみならず、男性ならではのポップで斬新な視点で、アートやカルチャーシーンからも注目を浴びている大図まことさん。
今月の虫ん坊では、ご本人にインタビューしました。
——幼い頃は野球少年だったと伺いました。
大図まことさん(以下、大図):僕が手芸をはじめたのって、おとなになってからなんですけど、子供の頃は少年野球をずっとやっていたので、当時、手芸は全然興味がなくて。
でも、手芸は家族では僕以外の祖母・母・姉・妹の女性陣がやっていましたね。作品をバザーにだしたりしていました。今もみんなそう思っていると思うのですが、やっぱり手芸って女性がやるようなイメージがあるじゃないですか。なので、小さい頃はミシンとか針とか触っちゃいけないのかなって。無意識のうちに、男だからそういうのは…っていう思いがありました。
——どちらかというと、外で元気に遊びまわる少年だったんですね。
大図:昆虫採集が趣味で、実家が埼玉なんですけど、クワガタとかカブトムシがむっちゃたくさんいたんですよ。近くに雑木林があって、そこに気持ち悪いくらいいて。幼稚園くらいから、毎年遊びに行っていました。
中学生になって、悪知恵がついたのか、隣町のペットショップでカブトムシを一匹100円で買ってくれるよという風の噂を聞いて(笑)、仲の良い友だち3人で部活帰りに雑木林に取りに行って、100匹捕まえたら売りに行こうって話になって。で、実際に100匹捕まえて売りに行ったら、ペットショップの店主に、「おまえらこのカブトムシを売ったお金でゲームセンターに行くんだろう」って怒られて。結局、買ってもらえなかったっていう思い出があります(笑)。
——手塚治虫も昆虫がすごく好きで、自分で図鑑を作って、友だちに回し読みさせていたようです。
大図:そのことは知らなくて驚いたのですが、僕も会社を辞めてフリーになってから、とにかく作品をいっぱい作らなきゃいけないと思ったので、好きだった昆虫をモチーフにクロスステッチをひたすら作って、昆虫の図案集というのを自分のサイトで販売していたんですよ。
男性目線のデザインが珍しかったのもあって、結構、評判が良くて。すごくこだわって、原寸大になるように作ったんです。昆虫の形とか色とか刺しゅうにしたら面白いなって思ったし、代表作になるようなものが作りたいなというのがあったので。
はじめてやった個展では、クロスステッチの昆虫を標本のように額装して展示したら、全部売れたんですよ。
——活発に行動されていたんですね。独立される大きなきっかけは何だったのでしょうか。
大図:三十歳手前で独立する前は手芸屋さんで働いていたんですが、自分の作品の制作時間がなかなか取れなくなっていたのと、まだ周囲で似たようなことをやっている人がいなかったというのも、大きかったのかもしれません。
なにかしら、ものづくりで生計を立てたいなっていうのはずっとあって、習字とか小さい頃の習い事はなにも続かなかったんですけど、大人になってからはじめたクロスステッチだけは結構しっくりきて。
今もデザインをしながら、完成したものを見ると自分でも本当にかわいいものが出来たな〜って思うんですよ。ちょっと、はた目には気持ち悪いかも知れないですけど(笑)。
今回も完成したものを丁寧に手洗いして、つぶれないように裏からアイロンを掛けて、できあがった作品をみて、綺麗になったねって(笑)。 その時に、改めて、自分はクロスステッチが本当に好きなんだなって思ったんです。
あと、他の分野ではオリジナルな作品で褒められることってあまりなかったのに、クロスステッチをはじめて、褒められたのも嬉しかったからかもしれない。
——今回のお話をいただいたきっかけを教えて下さい。
大図:本を出版する辰巳出版の担当の方が手塚治虫先生と大図を組み合わせたクロスステッチの本を作りたかったようで、お話をいただきました。当時、僕もコラボの仕事がだんだん増えてきていたので、そのこともきっかけになったんでしょうね。
それまでは全部オリジナルの作品だったんですけど、「スヌーピー展」のグッズ制作だったり、ゲームのキャラクターとのコラボもやっていた時だったので、大図はこういうこともやっているんだなって思ったんだと思います。
——クロスステッチの本をキャラクターもので作るという流れで大図さんにお話が来たんですね。
大図:お話が来てすごく嬉しいですし、光栄だと思う反面、やばいなと思って(笑)。
ファンの方も多いですし、みんな、知っているじゃないですか。
——実際、情報を削ぎ落としながらクロスステッチをデザインするにあたり、どんな葛藤と工夫がありましたか。
大図:一番試行錯誤したのがアトムです。自分の中でアトムがかわいく作れないとまず先に進めないというのがありました。手塚治虫先生のキャラクターのイメージとして、みんなが第一に思いつくのがアトムだと思っていたので。
はじめ、アトムをデフォルメしたときに、全然かわいく作れなかったんです。今回、いろんなタイプのアトムを作りましたが、どのくらいまで小さくしてかわいく見せられるのかが個性や腕の見せ所なのでそこはこだわりました。
実は、はじめに取り組んでから、一ヶ月くらい何もしなかったんです。クリアな状態になったら、今度はできるかもしれないと思って。
それで、一ヶ月後にまた気を取り直してデザインしたら、またダメで。こうなったら、とにかくいっぱいデザインを作るしかないなって思って、ファンの方がみて、思わず刺したくなるデザインだということはもちろん、自分が納得するものになるまではひたすら作っていました。やっぱり、やっていくと、あ!これだなっていうのが出来てくるんですよ。一個完成した後は結構スムーズに出来て行きましたね。
あと、迷ったのが、ブラック・ジャックの移植した肌の色が水色だったり茶色だったりして、これはファンの方的にはどっちなんだろうと思って。
——あれは、ファンの方の間でも分かれるんですよ。
大図:『ブラック・ジャック』と『火の鳥』と『ブッダ』はなぜか実家に全巻あって、ベッドの上で横になりながら、読んでいた記憶があります。
今回、少年チャンピオン・コミックス版の『ブラック・ジャック』の表紙をブックカバーにさせてもらったんですけど、あのイメージをすごく持っていて。出版社が違うのに無理を言って作らせてもらいました(笑)。
——ブラック・ジャックとキリコのモノトーンのデザインも素敵ですね。
大図:2色しか使っていないのですが、シルエットだけでうまく表現出来て自分でも気に入っています。『ブラック・ジャック』の文字の下の部分は、はじめは単なるラインだったのですが、メスにしたら面白いんじゃないかと思って、最後に変えました。あと、キリコは絶対に入れたかったんですよ。重要なキャラじゃないですか。
今、ふと思い出したんですけど、僕、入れ忘れたキャラがいますね。あの、針を刺す…。
——琵琶丸ですね。
大図:琵琶丸、入れ忘れていましたね!! めちゃくちゃ重要人物じゃないですか! 忘れた〜…。
——(笑)。
——総キャラの絵の作品は大きさもありますし、一番時間や手間暇も掛かっていそうです。
大図:基本的にデザインは僕で刺しゅう部分は分業なんですが、まず総キャラの絵のデザインそのものを考えるのが結構大変でした。マス目の位置が一目ずれただけで見た目がだいぶ変ってしまうんですよ。特に、レオの足の部分とアトムの目の部分はずっと最後の最後まで何度もやりなおした記憶があります。足の部分は、位置や縫い目の数を変えてもっと丸みをもたせようとか。
——他にもこだわった部分はありますか。
大図:あとは、色ですね。参考にさせていただいた元絵は、もう少し色が淡いんですが、ここはポップな感じにしました。こうして完成した作品をみると、良い配色になったなって思います。肌の色も、ピノコとヒョウタンツギは色白にしたり、微妙に変えた所もこだわりです。
——元絵の雰囲気がすごく伝わる作品ですよね。
大図:一応、本では決めてますけど、糸の色はやる人によって、好きなように変えてもらって良いって思うんです。それも、刺しゅうのひとつの楽しみだなって。難しいと思われるのが一番残念なので。
ここはイラストレーターやデザイナーとクロスステッチのデザイナーの違いかもしれないんですが、クロスステッチのデザインって、誰かに真似してもらうことが前提なんですよ。そこも踏まえ、広い世代にわたってファンがいる手塚作品なので、今回は細かいものから大きくデフォルメしたものまで、みんなが真似したい! って思えるようなものをデザインしようと思って作りました。実際、うまくいろいろなものを組み合わせられたかなって思います。
——今回、キャラクターはどのように選んだのでしょうか。
大図:出版社の担当の方とまず題材となる作品を選んで、そこからキャラを決めました。
資料が膨大で、そこでも結構迷いました。全部、気になるものはチェックして、深夜のファミレスでずっとひたすらメモをとっていました。
手塚先生の作品もそうですけど、クロスステッチの図案はずっと残るものなんですよね。たとえば、おかあさんが子供のために図案を見て作ってくれたものも残るし、図案のデザイン自体も残るんです。僕、結構昔の図案が好きなんですが、百年以上も前の図案の本が今も復刻されて世に出ている。それって、すごくないですか?
—— 本当ですね!仮に百年以上も前に作ったものなら、ヴィンテージになるし、図案だけなら情報としてずっと残りますしね。
大図:もちろん、その中には、残されなかった図案もあるわけです。
この仕事が決まってすぐ、手塚治虫記念館に行かせてもらんたんですが、その時に思ったのは、手塚治虫先生の作品みたいに自分の図案もきちんと百年先まで残るものを作らないといけないなと。そういうものを僕も作りたいとすごく感じました。
——今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。
大図:やっぱり、クロスステッチを含めた手芸というジャンルはマイナーなので、もっと広くいろんな人に作品を見てもらわなきゃいけないなっていう思いが強くあって。
今は国内だけですけど、海外でも見てもらいたいですね。
僕の本も一冊は翻訳されているんですけど、一冊だけではなくて、今回の本も翻訳されたら嬉しいですし、実際にクロスステッチをもっと多くの方にチャレンジしてもらう為にも、今はいろいろな場所で展示や実際にクロスステッチを試せるイベントをしていく時期だと思っています。
作品はたくさんあるんですけど、まだ、僕を知らない人もいっぱいいると思うので、本が発売したら、たくさんアピールしないとなって(笑)。すごく良い本ができたと思うので、どういう反響があるか楽しみです。
——最後に読者の方々へひとことお願いします。
大図:今回の本は、ブックカバーやクッションカバーなど作品のバリエーションもたくさんあるし、見ているだけですごく楽しいと思います。
手芸だから興味がないと思わずに、まず、作品をひととおり見てもらって、自分がかわいいなって思うものをひとつ選んで、そこからできれば実際に作ってみて欲しいですね。ピノコが好きだったら、ピノコからとか。あのお決まりのポーズもありますよ。
はじめてやる人は、小さいモチーフでも一時間くらい掛かると思うので、ハンカチとかワンポイントになるものからはじめるといいと思います。是非、ご家族でやってみてください。これはなんのキャラなのか当てっこするのも楽しいかもしれません。
注意点として、本屋さんで手に取る場合は、マンガコーナーではなく、手芸本コーナーでお探しください(笑)。
——本日はありがとうございました!
・今回ご紹介した大図まことさんの最新刊『手塚治虫キャラクターのクロスステッチBOOK』(辰巳出版、税込み定価1,512円)は7月31日に全国の書店及びオンライン書店にて発売されます。手塚治虫の人気キャラクターが大図さんによるデザインで120パターン以上収録されています。ぜひお手に取ってみてください。
http://www.tg-net.co.jp/item/4777813983.html
・8月31日まで国立新美術館1Fにあるミュージアムショップにて「大図まことのピコピコたのしいクロスステッチ大図鑑」を開催中です。クロスステッチ入りのハンカチやブローチなどの雑貨から、ここでしか買えない限定Tシャツや陶器まで、大図さんがデザインに関わっている商品が一同に展示販売中です。今回のムック本も並ぶ予定です。詳しくはHPをご確認ください。
http://oozu.jp/