先月は演出の徳尾浩司さんに引き続き、今月は主演「ドラキュラ伯爵」役の橘ケンチさんにお話を伺いました!
EXILEのパフォーマーなどでダンスを見せる一方、舞台にもいくつも出演しているケンチさん、ご本人は原作のおっちょこちょいなドラキュラ伯爵よりもかなり洗練された雰囲気。どんな意気込みで「ドン・ドラキュラ」に向き合われているのでしょうか?
——正直なところ、…漫画、読んだりしますか?
橘ケンチさん(以下、K):漫画、好きです! あまり読まないように見えますか?
特に子供のころは好きでいろいろ読んでいましたし、20代のころは少し遠ざかってましたが、30代では舞台の仕事も増えましたので、作品のリサーチのために読むようにしてます。
——たとえば手塚マンガで好きな作品というと、なんですか?
K:小学生のころは、『ブラック・ジャック』を夢中になって読んでいました。『ジャングル大帝』はアニメで見ていました。
『鉄腕アトム』は、世代的に僕よりも上ですよね。アニメの再放送をたまに見ていたぐらいですね。あとは『ブッダ』とか。『火の鳥』はすごく怖かった覚えがあるんですよ。
——なるほど。
K:宇宙の不思議とか、不死鳥そのものがすごく怖くて。
手塚先生がいったいどんな人なのか、解らなくなった時期がありましたね。コメディタッチのものも描けば、ああいった怖いものも描くじゃないですか。いったい、どういう人なんだろう? って、子供心に思った記憶がありますね。
——今、ちょっと気になっている手塚作品はありますか?
K:『アドルフに告ぐ』を一度ちゃんと読みたいですね。今回のお話をいただいた後、改めて手塚作品について調べたのですが、その時に初めて、こんなにたくさんあるんだ! ということを知って。
『ドン・ドラキュラ』はライト・コメディですが、手塚作品で舞台をやるのであれば、もっと重いテーマのものでもいいのかな、と思った時期もあって、その時に『アドルフに告ぐ』を演じてみたいな、と。
——『ドン・ドラキュラ』という作品は、手塚作品のなかでも少しマイナーな作品かもしれませんが、読んでみてどう思いましたか?
K:最初のイメージは、まず、コメディ、しかも、ライトに読める作品なんだな、と少し驚きました。お話いただいて初めて、この作品を手に取ったのですが(文庫本を手に取り)、表紙がこんな感じじゃないですか。もっと怖い作品だと思ったんですけど、でも、表紙を開いてみたら、なんていうのか…あたたかさも感じるし、風刺も込められていて。
手塚先生の作品には『火の鳥』のようなすごいスケール感の話もあれば、『ドン・ドラキュラ』のようなカジュアルで、子供でもとっつきやすい作品もあるけど、根底に流れるテーマは同じなんじゃないかな、と思います。表面上はギャグ漫画でも、裏には大切なテーマが流れていますよね。
——ドラキュラ伯爵、というこの作品の主人公については、どうですか? シンパシーを感じますか? それとも、友達にいたら面白いだろうな、とか?
K:以前から、「ドラキュラが似合う」と言われることがたびたびあって。
実は先日、「月刊EXILE」の企画でティム・バートン監督と対談する機会があって、いろいろなお話をしたのですが、その時に、「もし、僕をあなたの作品に出演させるとしたら、何の役にしたいですか?」ということを伺ったんです。そうしたら、「君が演じるんだったら、ヴァンパイアだね」と言われて。その数か月後にこのお話いただいたんです。まさかこんな偶然があるとは! ってテンション上がりましたね。
——ティム・バートン監督といえば、ゴシックホラーの名手というイメージがありますよね! そんな監督にそう言われるのはうれしいですね。
K:そうなんですよ。今回の舞台を映像に取って、監督に送りたいぐらいですね!「やりましたよ、ヴァンパイア!」って。
——ドラキュラ伯爵はおっちょこちょいで巻き込まれ体質、でもチョコラという娘を持つ父親でもあります。ドラキュラ伯爵の一面で、一番似ているところはどこですか?
K:うーん……。彼はちょっと三枚目じゃないですか。そこには共感しますね。EXILEのときはカッコつけさせてもらっていますが、そんなかっこいい人間でもないので(笑)。役者として芝居をやるときも、コメディもよくやったりしますし。
プロデューサーの松田さんもそういうところをよくわかってくれてて、「これケンチにあうと思うよ」といってくれたんだと思います。見た目のカッコよさは大切にしたいですが、どこか抜けてるというか、中身の三枚目なところ、親しみやすいところは感じていただける表現にしたいですね。
——娘がいる、という父親の設定はどうですか?
K:新鮮かもしれないですね。父親役はあまりやってこなかったので。年齢的には演じてもおかしくないのですが。
今回は、ドラキュラと人間という対比のほかに、父と娘という親子愛に着地できたらいいな、と思っています。チョコラ役の神田愛莉さんの役割は重要だと思います。彼女ともよく話し合いながら、方向性を共有しながら楽しくやっていきたいな、と思っています。
今回の舞台では、僕や演出家の徳尾浩司さん、プロデューサーの松田さんと一緒に、さまざまなことを話しながら作り上げていっています。キャスティングやストーリーにもいろいろな提案をしました。たとえば、ヘルシング教授は原作だと丸っこくてかわいらしいフォルムのキャラクターですが、もっと威圧感がある外見で、キーパーソンにしたい、ということで、池田鉄洋さんに声をかけてもらいました。ブロンダ役の平田敦子さん——僕は、あっちゃん、って呼んでいるんですが、——も僕が推薦させていただいたのですが、ちょうど去年、「歌姫」という劇団EXILEの舞台でご一緒したのですが、むちゃくちゃ面白い方です。原作でブロンダを見たときに、この役は、あっちゃんだな、って思ったんですよ。ヒロインのルーシーを演じる原田夏希さんも以前お会いしたときに印象的な方で、機会があれば作品でご一緒したいなと思っていましたし、イゴールの野添義弘さんも僕がすごく好きな役者さんでもあり、松田さんも太鼓判を押されていたので、もう、配役はばっちりだと思います。
徳尾さんは、なんでもまずは受け入れてくれて、そのうえで自分の中でバランスをとって話を作り上げてくださるタイプの演出家です。演出家の方の中には、自分がまず引っ張っていく、というタイプの方もいますが、そういう感じはぜんぜんなくって。ですから、こっちも言いたいことをどんどん言っています。毎日のようにLINEでやりとりしてますね(笑)。
出演者以外では、アートディレクターに若槻善雄さんに協力していただくことができました。ファッション業界で活躍されている方で、パリ・コレや東京コレクションの、コム・デ・ギャルソンやアンダーカバーなどの著名ブランドのランウェイの演出なども手掛けられている、世界的に有名な方なのですが、話していると面白いアイディアがどんどん飛び出してくる方で。ファッション界の人ならではのおしゃれな、かっこいい要素を持ち込んでいただけると思っています。舞台以外の世界で活躍している方にもそうして参加していただくことで、ぼくらなりの新しい『ドン・ドラキュラ』の舞台を作り上げられたら、と思っています。
——今回の『ドン・ドラキュラ』のために何か役作りはされていますか?
K:たとえば、「手」の表現ですよね(指をぐっとこわばらせるようなポーズ)。こう、人間だったら普通に伸ばしたりするところを、こう、ちょっと鉤爪のような表現になるのかな、とか…それを強調するためのつけ爪を付けるのか、とかはまだ分かりませんが…。
立ち姿も、人間とはどこか違うような、いびつな違和感があるのかな、とか。まだ漠然としていますが、アイディアはありますね。
——客も「ドラキュラ」にも固定イメージを持っていますよね。黒いマントで、こう、わーっと手を広げて襲ってくる、みたいな…。
K:そういうイメージは大切にしながらも、一方でそれを打ち破っていきたいな、そうしないと面白くないな、という気持ちもあります。僕なりの新しい要素を見せたいとも思います。それはこれから、試行錯誤して作り上げていきたいです。
————ダンスパフォーマーとしての橘ケンチさんが普段のパフォーマンスを維持するために、なにか工夫されていることはありますか? もし、将来、ダンスパフォーマーになりたい、という方に相談されたら、どんなことに心がけておくこと、とアドバイスしますか?
K:音楽を聞いておくことですね。それから、自分の体がこう動くんだ、ということは認識しておくべきです。普段から、トレーニングは常にたくさん、しています。最近は特に、総合的なトレーニングを心がけるようにしています。若いころは筋トレだけとか、走り込みだけ、というような感じのころもあったのですが、年月を重ねてくると、自分の体の癖とか、特徴がだんだんわかって来て。そういう感覚をつかむのは大事かもしれません。でもそういうのって、20代のころは全然分からなかったですね。
——長年のキャリアあってこその感覚ですね。ダンスを始められたのは、18歳のころだったそうですが、一方で大学では、理系の学部に通われていましたよね。初めからプロを目指されていたのですか?
K:僕が最初にダンスを習ったのが、BOBBYさんというアンダーグラウンドシーンでカリスマ的な存在の方で、EXILEのリーダー・HIROさんといっしょにずっと踊りをされていた方だったんです。それで、ありがたくも色々な出会いがあり、この世界に運良く恵まれたところに行けた、というところでしょうね。
初めは楽しみのつもりだったんですが、やっていくうちに、もっともっと、うまくなりたい、というふうにのめりこんじゃって。そういう意味では、向いていたのかな、と思います。
——今回の舞台もそうですが、今後挑戦したいことはありますか?
K:EXILEで今までやってきたダンスは、ストリート寄りなんですよね。その中でもいろいろな種類があるのですが、この舞台では、コンテンポラリーダンスも取り入れたいな、と思っています。そのために、今回はコンドルズの近藤良平さんをご紹介してもらいました。振付全般を担当していただくことになっているのですが、お仕事をするのも、お会いするのも初めてで。世界中で活躍をされて、とてもユニークな、独自の視点をお持ちの方じゃないですか。きっと良いエッセンスをもらえるんじゃないかな、と思います。いったいどういう化学反応が起こるのか、とても楽しみです。
橘ケンチ主演で舞台の表現をするとしたら、一流のクリエイターがお互いの強みを表現しあいながら化学反応を起こすようなものにしたい、と考えていました。今回、近藤さんや、若槻さん他、いろいろなすごい才能を結集した中から生まれるものをこの『ドン・ドラキュラ』で表現できそうな、いい形になっていっていると思っています。
——舞台を楽しみにしている方に、メッセージをおねがいします。
K:『ドン・ドラキュラ』という作品を舞台化するにあたって、原作のキャラクターは残しながら、いい意味で裏切っていきたいな、と思いもあるので、もし、見に来てくださる方がいらっしゃるなら、心構えをしていただいて、あまりびっくりなさらないように…(笑)。新しい形の表現になると思いますし、見終わった後には心にしっかりと感動が残って、この舞台について誰かに話したくなるようなものにしたいです。楽しみにしていてください。
——ありがとうございました!