今月は神田織音さんが8月に講談されるお話の原作、「四谷快談」をご紹介いたします。
かの有名な「四谷怪談」をもじったタイトルがつけられていますが、タイトルだけでホラー作品かな?と想像して読み始めるとかなりの違いに驚くこと間違いなしですよ!
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『タイガーブックス』8巻 あとがき より)
「タイガーブックス」というシリーズは、ぼくの作品の中にはありません。短編を集めるために、かりにつけた全集用の名前です。このタイトルは「ライオンブックス」になぞらえてつけました。
この短編集にふくまれたものは、おもに集英社の「少年ジャンプ」を中心にした読み切りですが、小学館や旺文社その他のものも雑然とはいっています。主として人情劇というか、センチメンタルな内容のものが多く、動物を扱ったファンタスティックな作品が主体になりました。また、一連の民話のバリエーションもありますが、これは、あまりにSFものがつづいたための肩ほぐしにかいて、けっこうたのしかったのでつづけているのです。そして、手塚にもこんな一面があったのかと評価してくだされば幸いです。
(中略)
「ロロの旅路」(第3巻)「低俗天使」(第2巻)「四谷快談」(第7巻)は、「週刊少年ジャンプ」愛読者賞コンクールでかかされたもの。十人あまりの作家が誌上で競作するという企画でした。
(後略)
最近はあんまり聞きませんが、昔は四谷怪談というと、映画化しようとするとたたりが起きるだの、みだりに扱うと良くないことがあるだのといろいろな噂があったものです。だから、映画やテレビ、舞台などで四谷怪談を扱うときは皆、お岩さんの怒りを買わないように、四谷にある〝お岩イナリ〟にお参りに行くという習慣も、確かに昔からあったようです。
手塚治虫自らが進行役として登場し、お岩さんと一緒に暮らしているという、戦争で家族を失ってしまった子供からふしぎな話を聞くというストーリー。
このように手塚治虫が自ら重要な役として出演する作品は、自伝的作品以外はホラー作品が多いようです。熱演が光る『バンパイヤ』を始め、短編では「巴の面」や「うろこが崎」、「ロバンナよ」…どれも最後にぞっと涼しい後味の残るキレの良いホラー作品ですが、この「四谷快談」もやっぱり、ホラー作品? と思った方、すでにあなたは手塚治虫の術中にすっかりハマってしまっています。ぜひ、作品を読んで確かめてみてください。
怖い怖いと思っているものが、実はとてもステキなものだったりすると、普通にいいものを見たときの数倍、嬉しくなってしまうようなことって、ありませんか? この「四谷快談」の感動のタネもそんなところに隠されていそうです。