今月のオススメデゴンスでご紹介する作品は『ファウスト』。 6月に講演されるミュージカル『ファウスト 〜愛の剣士たち〜』の原案となる3作品のうち、最初に描かれた作品です。
多数の日本語訳書が出版されているゲーテの戯曲「ファウスト」ですが、わかりやすく描かれているこの漫画版から試してみてはいかがでしょうか?
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ファウスト』あとがき より)
漫画やアニメで、世界名作路線がいたってさかんですが、その路線のいちばん始めが、この「ファウスト」だと思います。
ぼくの家にあった世界文学全集のおかげで、ぼくは中学時代から、このゲーテの原作には、何十回となく読み返すほどとりこになっています。
それを、なぜ、あの赤本時代の大阪で、わざわざ漫画化しようと思いたったのか、どうも記憶がはっきりしません。何か、この物語には悪魔的な(これはシャレではありません)魅力があって、一度、アニメにしてみたいなという夢があったのです。ですから、アニメを思いうかべながらかいただろうこの作品は、いかにもディズニー(というよりフライシャーの方でしょうか)のアニメ的です。
ひとつ記憶がはっきりしているのは、この作品の前後に、ぼくはソ連製のアニメ「せむしの仔馬」を観てしまったのです。そしてこれにもとり憑かれ、なんと百回近くもくり返し観てしまったのです。
したがって、その「せむしの仔馬」の美術デザインの影響が、この「ファウスト」には、かなり顕著にあらわれています。また、設定もかなり「せむしの仔馬」的です。
(後略)
解説にあるとおり、手塚治虫はゲーテの戯曲「ファウスト」に魅せられ、時代劇「百物語」・現代劇「ネオ・ファウスト」と、作品の舞台にひとひねりを加えて自作に取りこみ、発表をしています。が、これは原作をそのまま直球勝負で漫画化した物で、「ファウスト」という題材に、初めて、しかも真正面から取り組んだ、記念すべき作品です。
とはいえ、子供向けの作品に仕上げるため、かなりシンプルな物語にかみ砕いてあり、随所に手塚風の味付けがなされています(特に、天界〜王国での王女誕生にいたるプロローグは、のちの『リボンの騎士』を彷彿とさせます)。機会があれば、原作とぜひ読み比べていただきたいと思います。
なお、この作品が発表されたのは昭和24年、手塚治虫21歳の年。当時、まさに売れっ子の単行本作家として乗りに乗っていた頃で、その勢いと自信がこの名作戯曲に取り組んだ大きな理由なのでしょう。絶筆となった「ネオ・ファウスト」へとつながる、手塚治虫の「ファウスト」に対する取り組みのスタートとして、一読をお勧めします。