梅雨の季節の定番・手塚作品、といえば、やはりこの作品をはずせません。
「ライオンブックス」というシリーズでアニメ化もされた名短編で、民話を思わせるノスタルジーが魅力です。
ぜひ読んでみてください。
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『タイガーブックス』8巻あとがき より)
(前略)
この短編集にふくまれたものは、主に集英社の「少年ジャンプ」を中心にした読み切りですが、小学館や旺文社その他のものも雑然とはいっています。主として人情劇というか、センチメンタルな内容のものが多く、動物を扱ったファンタスティックな作品が主体になりました。また、一連の民話のバリエーションもありますが、これは、あまりにSFものがつづいたための肩ほぐしにかいて、けっこうたのしかったのでつづけているのです。そして、手塚にもこんな一面があったのかと評価してくだされば幸いです。(中略)
「雨ふり小僧」(第3巻)「はなたれ浄土」(第8巻)「てんてけマーチ」(第5巻)「いないいないばあ」(第7巻)は、柳田国男氏や、そのほかの著者の民話から変形させた作品で、もとの話をご存知のかたは、その手塚流味つけをご賞味ください。
(後略)
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「雨ふり小僧」は、「月刊少年ジャンプ」の昭和50年9月号に掲載された、民話調の短編作品です。山奥の分教場の少年と、小さな妖怪との心の交流をノスタルジックにえがき、数ある短編の中でも、特に人気の高い作品となっています。
分教場に通う主人公のモウ太には、同級生がいません。そのモウ太の前に突然、ボロボロの傘をかぶった小さな妖怪があらわれます。「雨ふり小僧」と名乗るその妖怪は、モウ太のゴムのブーツとひきかえに、3つの願いをかなえると言います。モウ太は雨ふり小僧にブーツをあげる事を約束して、3つの願いをかなえてもらうのですが…。
この作品の人気の高さを語る上で、ノスタルジックな雰囲気や、キャラクターの魅力に加え、読者の胸を打つ感動的なクライマックスを外すことはできません。ずっしりと心に残るその読後感は、あの「ブラック・ジャック」の傑作エピソードを読み終えた感覚に似ています。「約束を守ることの大切さ」というシンプルなテーマが、シンプルであるがゆえに力強く、読者の心を揺さぶるのです。