いよいよOVA『ブラック・ジャック FINAL』の発売が、12月16日に迫ってきました!
出崎統監督の「遺作」となるこの二本は、出崎監督の下で演出を学んだ桑原智監督(カルテ11)と西田正義監督(カルテ12)が引き継ぎました。それぞれの作品の見どころなどを、両監督に伺いました!
ブラック・ジャック カルテ11 「おとずれた思い出」
ストーリー:
ピノコが突然異変に襲われる。激しい痛みを伴う発作だ。だが、検査では何の異状も見られなかった。そんなとき、B・Jの元に手術の依頼が舞い込む。ピノコの様態を気にし、断るB・Jだったが、患者の名前を聞いて愕然とする。西園寺ゆりえ。かつてB・Jが手術を施したその女性は、ピノコと関わりのある特別な患者だったのだ…。蘇るピノコとの出逢い。B・Jは、ピノコを救うため、伝統ある舞の宗家家元、ゆりえを訪ねるのだが…
ブラック・ジャック カルテ12 「美しき報復者」
ストーリー:
飛行機内で急病人の救命措置を頼まれ、仁川空港に降り立ったB・J。しかし、そのまま安遼国に拉致されてしまう。国家主席チェ・ヒョクに治療を強要されるも拒否するが、病に苦しむその姿を見て、手術を引き受ける。病名はグリオーマ。チェ・ヒョクはアナフィラキシーのため、麻酔が使えない身体であった。同時に国は大きく揺れ動いていた。B・Jは、警護についた謎の美女Lとともに、時代の渦に巻き込まれていく…
—— このお話はピノコの誕生秘話のOVAバージョン、ということで、原作をさらに掘り下げ、意外なピノコの「血筋」が明らかになりますね。重要なお話だと思いますが、プレッシャーはありましたか?
桑原: プレッシャーはかなりありました。私が最高の演出家と思っている監督の作品なので、私などはおろか、誰がやっても上手くいかない気がしました。
でも一度、仕事を受けたのなら、甘ったれた事は言っていられないので気持ちを奮い起こし、作品を作りました。まあ私は私の演出しか所詮できないので監督の真似で作品を作る事はことだけはやめようと思いましたが。
しかし常に、苦しい時、頭の中に浮かぶのは、監督だったら諦めないで、より困難な道を選ぶぜ!みたいな励ましのイメージでした。監督に教わった一番大切なことはそれなので。また監督のいつもの姿を見ていれば、まだまだ甘い己にいくらでも鞭を打てたのです。なんか演歌的ですが精神的な教えが何よりも、貴重で大切だと思います。
—— 演出上でこだわったところはどこですか? 同じく桑原さん演出の「緑の想い」や「人面瘡」のような、ちょっとファンタジックな世界観ですが。
桑原: 私は元来、根暗な人間なので、精神世界を表現することは好きですし、得意だと思います。特に人間の内面の中にある本来の姿を描くことが好きですね。今回は主人公の内面を舞いで表現しています。美しさや悲しさ、それが喜びに変わってゆく変化を見てもらいたいです。
—— 見どころのシーン、お気に入りのセリフやシークエンスなど、ありましたら教えてください。
桑原: ブラック・ジャックが腹の中のピノコに、お前が生きたいのなら俺がいかしてやると言うシーンが大好きです。あとピノコかラストで…これはネタばれなので言えないか…。
——「ブラック・ジャック」らしい、海外の、独裁国家が舞台ということですが、海外の雰囲気を出すために特別な資料などを見たりされたのでしょうか?
西田:カルテ12の原作は、「アナフィラキシー」です。まだ映像化されていないもので、面白いものはないか、ということで選ばれたのですが、あの話のテーマが「戦争」ですよね。戦地で負傷した軍人の息子を治療して戦場に戻させる、というストーリーでした。このお話を膨らませていくにあたり、現在の情勢を考えるとアラブ諸国が適当かな、と思っていたのですが、営業側から、もっと日本人にとって、身近に感じて、且つ興味深い話題にしたほうがいいんじゃないか、という提案がされました。それで「日本のとある隣国(以下隣国)」を思わせる架空の国家が舞台となりました。
しかし、隣国の問題は未だに解決されていない部分も多く、また非常にデリケートな問題でもあるため、演出の方法には注意を払いました。初めは、具体的な舞台をぼかすようなプランもあったのですが、出崎監督は非常にわかりやすいドラマ作りをする方ですので、そのスタイルを受けてあえて全貌を見せるような流れにして、作品世界に入っていきやすいようにしています。
なかなかリアルな取材をすることも出来ませんので、資料は基本的には、一般の書店や図書館などで皆さんにも手に入れることが出来るような書籍や写真資料を参考にしながら、作らせていただきました。
——西田さんの演出作品は、ブラック・ジャックOVAとしては初となるかと思いますが、演出上でこだわったところはどこですか?
西田:監督とは以前、「白鯨伝説」や「鉄腕アトム(京都駅ビル用短編アニメ、全3本)」などで作画監督としてご一緒させていただきました。その経験の中で監督の表現方法を僕なりに解釈して、盛り込んでいます。
それはキャラクターたちの「情熱」を描くことです。また、出崎版ブラック・ジャックといえば、B・Jと作品ごとに登場する美女との淡い恋愛的なものがありますよね。それが艶というか、色気というものを感じさせていると思います。毎回それぞれ印象的なヒロインが登場し、それぞれブラック・ジャックに恋をしています。この作品に登場するLもまた、不幸な生い立ちを背負っているわけですが、ブラック・ジャックの命と向き合う真摯な姿勢に出会って、彼女もまた少しずつ変わっていきます。
その結果がどうなるのかは見てのお楽しみですが、彼女がどのような行動を起こすのかは、スタッフ一同で注意深く掘り下げて描いていきました。
全体の骨子としては、ブラック・ジャックとLの「逃避行」的なお話になればいいな、と考えていましたが、どこかにほっとできる部分がほしい、と。そこで竹内監督に「鳥の声の言い伝え」という説話をいただいて、Lからの告白というようなシーンを入れさせていただいて、作品に彩が加わったのではないかな、と思います。——見どころのシーン、お気に入りのセリフやシークエンスなど、ありましたら教えてください。
西田:やっぱりクライマックスの車の中の、「鳥の声のいいつたえ」を絡めてLがB・Jに告白するシーンですね。それから、最後の荒涼とした大地を行くふたりの「逃避行」のようなシーンは、きっと涙なしには見られないと思います。ヒロインとB・Jの逢瀬のシーンがいいですよね。女性に見ていただいて、いいなあ、と思っていただければうれしいです。
——ご覧になる方に一言ありましたらお願いします。
西田:ブラック・ジャックとLの生き様をぜひ見ていただいて、面白いと思ったらぜひ皆さんに宣伝していただきたいです。「よかったよ」「また見たいね」とおっしゃっていただければ、というのがスタッフ一同の願いですね。
——桑原監督、西田監督、御忙しいなか、ありがとうございました!