手塚治虫が創作のアイディアをメモしたノートが復刻発売されることになりました。ネットニュースなどで見た皆さんも驚かれたことと思います。
このノートは、1993年に手塚治虫の自宅から見つかり、手塚プロダクションで保管していたもの。全部で75冊あるうち、今回の復刊では10冊が発行されるとのこと。
同時に、16歳の頃に描いたという「幽霊男」「恐怖菌」「勝利の日まで」の3作の漫画も復刻、読めるということで、かなり貴重な資料となることは間違いありません。
今月の虫ん坊では、この復刻本の仕掛け人、小学館クリエイティブ 取締役
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『手塚治虫 創作ノートと初期作品集』12月24日発売!
小学館クリエイティブの復刊シリーズといえば、2008年の「おもしろブック版ライオンブックス」シリーズの復刊から始まり、「新宝島」や「ジャングル大帝」のオリジナル版をつぎつぎと復刻、今まで全集などでは読めなかった名作たちを私たちの手に取ることが出来る形にしてくださっています。つい最近ではナンデモカンデモ博士がマンガの描き方を教える「漫画教室」が復刻されました。
「私たちのミッションは、漫画史上で価値がある資料でありながら、いままで読めなかった漫画を出版、皆さんの手元にとどけることだと考えています。『復刻名作漫画』シリーズでは手塚治虫先生をはじめ、
川村さんは、復刻漫画シリーズを六年手がけていらっしゃいます。今回の企画も川村さんの発案です。
ちなみに、今回の収録物を教えてください。
「手塚先生の残した75冊のノートの中から、絵の描かれたもの、知名度の高い作品のもの10冊を選んで復刻します。この資料は発見された当時は特に公表をされず、手塚治虫記念館の企画展向けに、「来るべき世界」に関する部分のみを抜粋した形で出版、記念館内のみで販売をされたほかはすべて未公開です。こういった資料があったという事実を公にしたのも今回が初めてですし、復刻という形で世に出すのももちろん初めてです」
復刻の原本になったノートを並べていただきました。
見所はどのノートでしょうか?
「それぞれに見所がありますが、サイズの違うB5版のノートには、『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』『リボンの騎士』といった代表作のメモが残っていて、見ごたえがあると思います。また『ノア』と表紙に題名が書いてあるノートには、『来るべき世界』の下書きが丁寧に描かれています。また、ハードカバーのついた「漫画スタジオ名鑑」ノートは、唯一カラーのもので、単行本からスターの名場面を切り抜いて貼り付け、手書きのプロフィールが丁寧に書かれています。ヒゲオヤジやハム・エッグなど、手塚ファンならおなじみのスターたちが名鑑風にまとめられていて、楽しい一冊ですよ」
なお、各ノートのラインナップは以下の通り。全10冊で、1946年から53年ごろまでのものと推定されます。
1、「恐怖菌」下書きノート
2、「有尾人」下書きノート
3、「メトロポリス」下書きノート
4、「ノア」(「来るべき世界」)下書きノート
5、「来るべき世界」粗筋ノート
6、「ジャングル大帝」脚本ノート(1)
7、「ジャングル大帝」脚本ノート(2)
8、「来るべき世界 后編」構想ノート
9、「雑誌連載作品」構想ノート
10、「漫画スタジオ名鑑」ノート
10冊のノートのほかにも、購入特典がついています。それらについても伺いました。
「まずひとつは、手塚先生が漫画家としてデビューする前、16歳の時に描かれた作品「恐怖菌」「幽霊男」「勝利の日まで」の単行本です。このうち、「幽霊男」「勝利の日まで」は1995年に、手塚治虫の企画展の際に朝日新聞社から発行した復刻版の再収録ですが、「恐怖菌」は初単行本化になります。また、複製原画5枚はいずれも未発表のものです」
複製原画のうちでも極めつけは「モモーン山の嵐」の未使用原画。手塚治虫自作の作品リスト「手塚治虫作品総目録」に「1947年 有文堂より発行」と掲載されていながら、今まで単行本も原画も見つかっていない作品で、手塚治虫唯一の幻の単行本。
「この作品については、作品目録の記述のほかにはこの1枚の原画しか残されていない、まさに幻の作品です。この一枚も、本物なのか、もしかしたら偽物なのか、議論が分かれるところかもしれません。どちらにしても不思議な、ロマンをかきたてられる一枚です。もし、「モモーン山の嵐」の単行本をお手元にお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡をください」
今回のノートに限らず、希少な本を復刻するには、さまざまなご苦労があると思います。そのあたりのお話を伺ってみました。
「
希少本となると、それらを手に入れることにもご苦労があるのではないでしょうか。
「もともと、弊社の復刊事業は6年前、
復刊事業を行うことで、資料提供のつながりも広がっていき、知られざる名作の情報がさらに集まってくるそうです。
「日本の漫画が文化として注目されるようになったのは、ごく近年のこと。それまでは数多く出版された漫画もほとんどが復刻されず、原稿も紛失しているものが数多いのです。手塚先生をはじめ、日本を代表する漫画家の原稿や原画が、アメリカなどの海外に流出しているという話も耳にします。日本人は自分の国の文化について、海外に評価されないとなかなか保存や継承に力を入れない傾向にありますが、こうしたものこそきちんと博物館などで保管するべきなのです」
漫画作品ではなく、構想ノートの復刻、というのは、今回が初の試みだと思いますが、その意義とは?
「漫画が日本独自の文化として認識されるに従って、大学などの研究機関で漫画を研究される方も増えてきました。そういった場で資料として活用いただきたい、と思っています」
手塚治虫の漫画作品を参照するには、講談社から発行されている『手塚治虫漫画全集』が収録作品も多く、一般的ですが、収録時に描き直されたり、編集されたりしている作品も少なくありません。有名な単行本デビュー作『新宝島』についても、描きなおされたものであることが巻末に明記されています。研究を進めるにあたっては、作品として楽しめる以上に、オリジナルがどうであったか、という部分が重要になってきます、と川村さん。
「この復刻版ノートが出版されることで、手塚治虫のみならず日本の漫画史の研究がより進み、多くの議論がもたれるようになれば、と思っています。もちろん、ファンの方が楽しめるようにも心を配っています」
今回の10冊も、手塚プロダクション資料室
とはいえ、創作ノートはいわば舞台裏。創作者にとってはちょっと見せるのを躊躇する部分でもあるとは思いますが…
「手塚先生も没後20年が経って、日本漫画史への影響などを考えると創作ノートと言っても第一級の資料であると考えます。そうした信念で手塚プロダクションには、ノートの復刻を了承いただきました。
ノートの筆跡は大変生々しく、中には大学の講義のノートの続きに書かれたものなどもあって、当時20歳前後だった手塚治虫がどうやって漫画を生み出していたのかが垣間見える、大変貴重な資料です。手塚先生は稀有な作家で、ごく若いころからきわめて完成度の高い、重要な作品を描いているんですよ。ぜひ手にとって、若き天才の才能を感じていただきたいと思います」
研究者はもちろん、クリエイターにとっても刺激的な一冊となりそうです。そして何より、ファンにとってはまさに垂涎! 若かりし手塚治虫の創作に対する情熱に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
「今後も、年に一度は、手塚治虫先生のなにがしかの未発表作品を世に出していきたいと考えています。今も来年末に出す企画について話を始めていますので、楽しみにしていてください」
ということですから、毎年この時期が楽しみになりそうです!
今回は、お忙しいなか貴重なお話をいただき、ありがとうございました。