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「わらび座ミュージカル『アトム』公演決定!」
「数十年越しに温めていました」と、ミュージカル「アトム」のチーフ・プロデューサー、
「あれやこれや、というところはなかったですね。作品を選ぶときには、『いま私たちがつくらなきゃいけない作品はなにか?』ということを一番に考えて選ぶものですから」
今回、演出・脚本を手がけるのは舞台「新浄瑠璃 どろろ」の
演出家としては若手でもある横内さんは、そのキャリアに多くの手塚作品が名を連ねている。「リボンの騎士」や「陽だまりの樹」の舞台化も手がけているのだ。
しかし、最初の内、横内さんと渡辺さん他わらび座の制作陣との間では、舞台の方向性についての議論も絶えなかったという。若い人向けの、キャッチーな舞台を得意とする横内さんと、和の伝統を得意とし、メインのファンが50〜60代というわらび座。しかし異質な才能が出会うことで、全く新しいものが作り上げられていく手応えを、渡辺さんは感じている。
「最近はようやく作品の方向性が一致してきたと思います。横内さんも、わらび座の制作の人たちと、『幕が開くまでこういう戦いが続きますね』と言っているのですが、創造する人間はそれぞれに主張するものがないとだめだと思うのです。私たちも主張はありますから、そこらへんはもう最後まで話し合って。
幕があいたときに、『渡辺さんの笑顔が見たい』なんて横内さんがおっしゃるものだから、私、すごい顔をしているんじゃないかな、って思っているんですけどね(笑)」
音楽担当の甲斐正人さんといえば、映画「蒲田行進曲」が有名だ。わらび座でも、「義経 平泉の夢」「銀河鉄道の夜」「火の鳥 鳳凰編」など、6作品の音楽を手がける。いずれの作品でも、美しいメロディに定評があり、わらび座を音楽面で支えてきた人でもある。
「甲斐さんだけははずせないな、と。 甲斐さんと横内さんも初めてなのですが、かなり侃々諤々(かんかんがくがく)とやりあっていましたよ」
甲斐さんと横内さんの間では、遠慮することなく、活発な意見交換があったようだ。
「『アトムの音楽は、もっと親しみやすい、易しい音楽にしてほしいな』と横内さんはおっしゃるわけです。お客さんが舞台を見終わったら、口ずさみながら家に帰れるようや音楽が良い、と」
甲斐さんによるメロディも随分できあがっている。今回の舞台ではロボット・アズリと人間の女性・マリアとの恋愛物語があるが、彼らの愛の歌も、甘くて切ない、とても良い歌に仕上がっている、という。キャラクターそれぞれに歌があり、それがすべて個々にテーマをもつ。この歌も聞き所だ。
キャストでは、主人公トキオを「火の鳥 鳳凰編」で
我王役は、新宿公演でのパク・トンハさんと、地方公演での三重野さん、
「横内さんは、死に掛けたおばあさんにしたい、と言ったのですが、私のほうで『それはあまりにもひどすぎる』と(笑)。椿千代のようなきれいどころが、かわいそうですよ、って言ったら、『じゃあ、年齢不詳ということにしよう』ってなったんです。和的な日本人のおばあさんというよりは、かくしゃくとした、西洋のおばあさんみたいな女性ということにしよう、と。」
老いてなお美しく、背筋のすっきり伸びた、意志の強い女性、というイメージだろうか。
「お茶の水博士の遺志を護る人として、重要な役どころである神楽坂を、椿千代にやってもらおうと思うんですね」
そのほか、人間を憎み、暴力で立ち向かってゆこうとするロボット、ダッタンや、お茶の水博士に反抗し、アトムの10万馬力を戦争に使おうとする科学者・スーラなど、悪役も登場する。ダッタンはこの脚本のベースとなった「鉄腕アトム」のエピソード『青騎士の巻』の青騎士ブルーボンにあたる立場のキャラクターになる、という。
舞台は「鉄腕アトム」の世界の約30年後、2030年。アトムは解体され、博物館に眠っている。手塚治虫の短篇にある「アトムの最後」も取り入れた設定の本作では、アトムは既に神話である。
わらび座営業制作局 局長の
「そのときに私たちは秋田にすむ劇団として、コミュニケーションの断絶と、親が子供を殺すという行為について、非常に大きなショックを受けました。『青騎士の巻』に描かれる、ロボットと人間の対立、つまり機械文明と人間という異質なもの同士が認め合わないところに、アトムは自分の身を
親と子でさえもコミュニケーションをうまく取れない時代に、「I LOVE YOU」というメッセージを送ることの重要性を、渡辺さんも考えている。
「現在の日本でさえも、アトムは神話になっているのではないか、と思います。人間を愛し続けたアトムでさえも、『もうボクは我慢できない』というところまで来てしまっているのが、今の日本ではないでしょうか。命あるものは、——ロボットでさえ、みんな同じなんだ、境界線を越えてすべての人たちが手を取り合って生きていかなくてはならないんだ、という大きなメッセージを発信していきたいと思います」
公演の日程は非常にハードだ。わらび座の本拠地である秋田の「わらび劇場」で四月から二ヶ月間ほぼ毎日の公演を終えた後、六月から東京都新宿「新宿文化センター」での公演を経(へ)、学校公演を含めた全国巡業が始まる。
学校公演は学校側の厳しい予算設定の中、実は原価を割った価格設定をしています、と浦野さん。それでも特に子供たちに、舞台を見てほしいのだ、という。
「『アトム』の学校公演はすでに70校で決まっている。2年間で、200校で公演する予定です」
公演はその学校公演含め、地方会わせて「火の鳥 鳳凰編」と同じ2年間300公演を目指している。公演会場ではグッズ販売もする、というからファンには嬉しい情報だ。
私たちは商売ベタですが、と浦野さんは苦笑する。
「火の鳥饅頭が大変好評でしたので、今回もアトム饅頭を作ります。また、公演パンフレットは原作となった『鉄腕アトム 青騎士の巻』を掲載し、役者のプロフィールなどをまとめたものになる予定です。ほかにも、既存商品からアトムのグッズをいくつか販売したいと思っています」
アトムの存在が神話となってしまった今、「鉄腕アトム」が描いたメッセージが世の中に特効薬になるに違いない。子供たちのみならず、大人にもぜひ見てほしい作品だ。
来月号でもわらび座ミュージカル『アトム』を特集します。お楽しみに!
関連リンク:
わらび座 オフィシャルサイト
http://www.warabi.jp/