山奥にあるタヌキの小学校に、人間の男の子が一人入学してくることになりました。男の子の名前は三五郎。お寺のおしょうさんの孫です。おしょうさんは山のタヌキたちと仲が良いようですが、タヌキの子どもの中には三五郎を怖がったり、追い出そうと考えているものがいるようです。さて、そんなタヌキ村の中で、三五郎はどんな生活を送ることになるのでしょうか…?
1958/04-1959/03 「小学三年生」(小学館) 連載
この「お山の三五郎」は、手塚治虫の中のディズニー的な「動物擬人化もの」に対する嗜好と、豊かな自然に対する郷愁などを融合させ、民話的な設定のもとで展開された作品です。当時、手塚治虫は少年向けのSF漫画家として大人気でしたが、のどかな雰囲気の「お山の三五郎」はイメージがまったくの正反対で、手塚治虫の作家としての幅の広さをあらためて感じさせてくれます。しかし、「鉄腕アトム」を例にとって比較してみると、「タヌキの世界へ一人飛びこんだ人間」という設定は「人間の世界へ一人飛び込んだロボット」というアトムの設定の裏返しとも言えますし、タヌキの腕白坊主・プー吉は、ガキ大将の四部垣を髣髴とさせます。つまり、ジャンルの違いこそあるものの、手塚治虫の作劇のテクニックをあちこちに垣間見ることができるというわけです。ラストで、大人になった三五郎が山を訪れた時に感じる淋しさは、変わりゆく故郷、そして自分自身に、手塚治虫が感じていた想いそのままなのかもしれません。そしてその想いは、やがて「雨降り小僧」や「モンモン山が泣いてるよ」のような、ノスタルジーをテーマとした作品に結実していくことになるのです。