不幸な少女ルリと、不思議な少年ロビンちゃんの、海を舞台にした冒険短編です。
丘の上から海を眺める少女ルリ。ルリは海に出て行ったきり帰ってこない兄を待って、意地悪な男爵と一緒に丘の上のお屋敷で暮らしています。
そこにいかにも上品な風体の少年・ロビンがやってきます。ロビンは男爵となにやら押し問答をしていましたが、欲深い男爵に要求を呑んでもらうには、屋敷の当主であるルリの兄が帰ってこなければならない、と聞き、ルリとともに海へ漕ぎ出します。
本作の読みどころは、なんと言ってもロビンという主人公のキャラクターそのものにあるでしょう。宝塚歌劇の男役のような端正な顔立ちに、ちょっとミステリアスなところもあります。誰も乗っていない船は魚たちを操って動かし、食事はすべて海のものばかり。海の中ではまさに「水を得た魚」のように泳ぎまわる、という少年です。どうも身の上に重要な秘密があるようですが、そんなところもルリならずとも少女ならば心惹かれる魅力となっています。
そしてもうひとつの読みどころは、この作品の構造そのものにあります。この作品を読んで見ると、察しのよい方なら、あるおとぎ話の巧みなアレンジであることがわかるかと思います。おとぎ話をちょうどフィルムを巻戻すかのように並べなおして、新しい物語として構成された作品なのです。手塚治虫は漫画の描き方を少年少女にレクチャーした「漫画大学」の中で、「漫画を描くには、名作文学の漫画化から始めると良い」といっていますが、この作品こそまさにその応用作。ただ名作文学を漫画化するのではなく、それを応用してべつの物語にしてしまうという、離れ業の一例がこの作品。『ロビンちゃん』は、手塚治虫のストーリーテリングのテクニックをも学べる作品でもあるのです。
1954/09-10 「少女の友」(実業之日本社) 連載