元バレリーナのママと、売れない児童劇団をやっているパパの間に生まれたヨッコちゃんは、まるで男の子のような荒っぽい性格。というのも、心の弱さからバレリーナの道を断念したママが、星に向かって「心のしっかりした強い明るい子どもをおさずけください」とお祈りした時、天上の世界から使者が舞い降りてきて、オスの子犬の強さをこの子にあげてしまったからでした。
ここから、少女漫画定番のバレリーナものか、天上の神々が絡むファンタジーものにでも展開していくのかな…と思ったら大間違い。ヨッコちゃんが厳しいバレエのレッスンを受けることもなく、天上界の話もいつのまにかどこかへ行ってしまうと、物語はあっという間にTV業界ものに突入。ヨッコちゃんは男の子の姿で「丘ヨシオ」という芸名を名乗り、一躍スターになります。
男の子を演じる女の子というと、まず思い出すのが「リボンの騎士」ですが、サファイアのキャラクター設定など“女の子に受ける要素”が「ヨッコちゃん」を描くにあたり意識されたことは間違いないでしょう。既存の作品形式を流用したため、キャラクターや作品世界の練りこみが足りない感もありますが、肩の力が抜けている分だけ、生の手塚治虫が出た作品とも言えます。最後にパパが言う「おとなにどんなにほめられるものをつくっても子どもがよろこんで見てくれなけりゃあなんにもならないもんな」は、漫画に対して無理解な大人に対する、手塚治虫流の反撃ととることができるのではないでしょうか。
なお、この連載がはじまる前年、NHKで実写ドラマの「ふしぎな少年」が放送されているのも興味深いところ。「ふしぎな少年」は生放送のドラマで、手塚治虫も時々収録スタジオを訪れていたそうなので、この作品のために多いに参考になったことは間違いないでしょう。
1962/01-1962/04 「なかよし」(講談社) 連載