「山の彼方の空紅く」は、冒頭からいきなり民家に爆弾が飛び込んでくる場面が登場するショッキングな作品です。
たった一つの家族が自衛隊を相手に、これまで大切に守ってきた山を守り抜こうと、小さな家に立てこもっています。山のふもとに作られた軍事基地のため、彼らは国に立ち退きを命じられているのでした。
その日の朝は、ついに自衛隊による攻撃が始まる日でした。以前から立ち退きを求める政府から、様々ないやがらせを受けていた家族ですが、とうとう、政府が痺れを切らして、戦車にものを言わせてきたのです。それでも家族は抵抗をやめず、手に手に武器を持って攻め込んでくる自衛隊に応戦します。
国に抵抗して立てこもっているといってもたった4人の小さな家族。無謀と言うか、悲壮と言うか、まさに絶体絶命の危機。このまま、一家は国家権力によって皆殺しになってしまうのか、それとも…?まさに「アラモの砦」ばりの誇り高い抵抗劇なのですが、だからといって彼ら4人はデイビー・クロケットのような屈強な戦士達、というわけではありません。いくらかは頼もしそうだといえるのは精悍なひげ面のお父さんに、まるまると太ったお母さんぐらいで、あとは小学校を卒業したばかりと思われる少年とその姉らしき少女。砦となっている家も一昔前の文化住宅のような小ぢんまりと可愛い家なのです。
格子柄の床の生活感溢れるキッチンや、壁にアイドルのピンナップが貼られた少年の部屋と、爆弾によって壊された壁や屋根、弾痕が生々しく付いた塀が同じページに描かれているのには、一種異様な迫力があります。日常生活の中に、暴力が突然割り込んでくる恐ろしさが、とてもリアルに描かれています。
物語のほうは結末がちょっとSF的で、びっくりするとともにじんとするラストシーンが不思議な後味を残します。是非秋の夜長に一読してみてはいかがでしょうか。
1982/05 「ジャストコミック」(光文社) 掲載