キヨシ少年をはじめとした七名の探検隊員が、小惑星メヅーサを破壊するため、宇宙へと飛び出した。しかし、出発前に隊員達がうった注射の中に、一人分だけ誤って毒薬が混じっていた事が発覚。しかもその毒薬に侵された人間は、気が狂って他の人間を襲うかもしれないというのだ。七人の隊員は、自分自身を含めた全ての人間に対して疑いを抱いたまま、メヅーサへと向かうのだった…。
この『だれかが狂ってる!』のように、登場人物を一つの空間に閉じ込め、そこに展開する心理・行動によってストーリーを紡いでいく…というのは、ホラー系のSF映画などでよく使われる手法です。例えば、『エイリアン』では、宇宙船という絶対の閉鎖空間を舞台にする事で、恐怖感・焦燥感を増すことに成功していますし、「見ただけではわからない」ことによって生まれる猜疑心・争いについては『遊星からの物体X』をすぐに思い起こすことができます。ただし、『だれかが狂ってる!』には、人間を襲う宇宙モンスターどころか、主役級のレギュラー・スターすら登場せず、隊員達のドラマだけでストーリーが展開するため、手塚SFとしては地味な印象を受けます。が、そのぶん正統派なSFだと言えるでしょう。別の言い方をすれば、「正統派SFを描く」という、手塚治虫の狙いが強く感じ取れる作品なのです。
そういえば、あの“ブラック・ジャック”も、トンネル、ビルの地下シェルター、エレベーター、洞窟内など、色々な場所に閉じ込められていますが、閉鎖空間でのドラマというのは、きっと短編向きなのでしょうね。
(SFミックス1巻収録)
1960/08 「週刊少年サンデー」夏休み号(小学館) 掲載