「旋風Z」は、1957年から58年にかけて『少年クラブ』に連載された、手塚治虫お得意のSFヒーローものです。
日本の科学者・鷹群博士の発明品は、いまや世界中にあふれていました。しかし、心の歪んだ科学者・蛇沼博士は、鷹群博士の優秀な頭脳を憎み、科学兵器を使った決闘を申し込みます。そして、鷹群博士と妻は殺され、一人残された幼い息子は、博士の残した養育ロボットに育てられて、やがて「Z」と名乗る正義の少年に成長するのでした。
シルクハットに蝶ネクタイ、黒マント姿で警察を手玉に取るZの活躍は、まるで怪盗ルパンのよう。そして、卑劣な策略のせいで悪人の汚名を着せられながらも、蛇沼博士の悪行を阻止するために戦うのです。初期の手塚作品には、ルパンやホームズ、そして乱歩の少年探偵シリーズなどの雰囲気を色濃く感じさせるものが数多くありますが、この「旋風Z」もその典型的な1本。そこにSFを取り込んで、何でもありの荒唐無稽な作品に仕上げてしまう楽しさが、まさに手塚風であり、この時代の少年漫画の魅力なのです。
ちなみに、この作品に出てくる女性型の養育ロボット「ジェット」は、のちの劇場映画「火の鳥2772」に登場した「オルガ」の原型であると言われています。「火の鳥2772」をご覧になったことのある方は、その共通点を探しながら読んでみると、より楽しめるでしょう。Zの頼りになる相棒であり、母親代わりでもあるジェットは、作品を代表する魅力的なキャラクターの一人です。また、おなじみのスター・下田警部が、代表作「バンパイヤ」にも負けない活躍をみせるのもファンにはうれしい趣向です。
1957/01-1958/06 「少年クラブ」(講談社) 連載