毎年、朝日新聞社の主催で優れたマンガ作品に贈られる手塚治虫文化賞。今年で29回目となります。
銀座堂書店では受賞作を買うこともできます。
ロビーでは受賞作品のパネル展示も。
選評は、選考委員より、南信長さんから。
「マンガ大賞は、ウクライナの戦争を描いた『BATTLE SCAR』(蔵本千夜)と受賞作の2作に絞られた中、『BATTLE SCAR』はいま読まれるべき作品であるという意見は選考委員全員が一致したものの、日本のアニメの歴史的な側面、そして、個人の人生とが絡み合った『1秒24コマのぼくの人生』の完成度と芸術性が評価され、受賞に至りました。
新生賞については、『どくだみの花咲くころ』がはじめから支持を集め、多数派が正しいわけではない、というメッセージを持つ作品ながら、選考委員全員が本作品を推すという事態に。
短編賞は受賞作の『ザ・キンクス』と、大白小蟹さんの『太郎とTARO』に分かれる形になりましたが、より漫画表現を突き詰めた受賞作に決定。
特別賞は選考委員からの推薦をもとに朝日新聞社が決定するという形を取りました。
今年は比較的すんなり決まりましたが、毎回いうように、賞を差し上げたい作品が多すぎて、賞が足りない、と感じます。もっと、敢闘賞だとか、殊勲賞といったものがあってもよいのではないか、と考えています。」
マンガ大賞・『1秒24コマのぼくの人生』りんたろうさん。
作品は自伝アニメーションのプロットとして描いたものを、「どうせならバンド・デシネにしない?」と言われて描き始めた作品だったそうです。
完成までに6年の歳月がかかった本作に関わった、フランス・日本両国のスタッフへの感謝が述べられました。
また、映画上映後、スタッフロールの最後につく『おまけ映像』的なエピソード。
「中学時代の修学旅行の旅費をかせぐためにしたアルバイトの新聞配達は、朝日新聞の配達でした」。
新生賞・『どくだみの花咲くころ』城戸志保さんは代読でのコメントを寄せられました。
初めは戸惑いもあったものの、今は純粋に「やったー!」という気持ち、とのこと。
「『優等生』と『問題児』といった、人々の分断を乗り越えるものは、創作物に対する感動だと思います。そういう考えに私が至ったのも、日ごろ、他人の作った創作物に感動する体験があったからだと思っています」。
コミティア発表作品から講談社『アフタヌーン』連載にて描き続けられている本作は、今後も続いていきます。「まだお読みになっていない方にはシリアスな作品と思われるかもしれませんが、結構ふざけたところもある作品です。だらっとした状態のときにでも、手に取っていただければと思います」。
短編賞・『ザ・キンクス』 榎本俊二さん。
創作の原動力として、「笑わせたい」「驚かせたい」というギャグマンガへの愛が根底にある、という榎本さん。
『えの素』他、荒唐無稽、不健全、不真面目、不謹慎、下品なギャグなどの「得意技」を一部封印した本作の受賞について、「自分でも驚いています。何かの間違いなんじゃないか、朝日新聞社や手塚治虫文化賞は本当に『大丈夫か?』と」。とはいえ、本作の受賞が、ギャグマンガが今一つ元気がない現代のマンガ界で、なおもギャグマンガを愛し、描き続けている若い方の励みになれば、と、後続の若手へのエールも送りつつ、「でもまあ、間違いですと言われないうちにトロフィーを持って早く帰りたいです」とコメントされ、会場を笑いに包みました。
特別賞・一般社団法人横手市増田まんが美術財団
代表理事 大石卓さんがトロフィーを受け取りました。
受賞された財団が営む、マンガ原画・原稿のアーカイブという、本来は国を挙げて取り組むべき事業に取り組む、秋田県・横手市の美術館・「横手市増田まんが美術館」。今年開館30周年の節目の年に当たります。
マンガ原稿は「現代のマンガの隆盛、世界に誇る大衆文化といったもののマンガを作り上げた原資料であるマンガ原画というのは、確実に、そして着実に未来に残し伝えていく貴重な文化財」。作家個人個人から預けられた原稿を今後も後世に伝えるべく精進したい、と述べられました。
なお、横手市増田まんが美術館のはじめての企画展は手塚治虫の影響でマンガ家になることを決意した矢口髙雄先生と、手塚治虫の「矢口髙雄・手塚治虫二人展」でした。もちろん、手塚治虫との縁も深い美術館です。
賞金の使い先については、地域の子供たちのために寄付をされるそうです。「地方の美術館は、地域に愛されないと長続きしません」と大石さん。
秋田県に訪れる際にはぜひ立ち寄りたい美術館です。
贈呈式の後は選考委員・マンガ家の秋本治さん、りんたろうさんによるトークイベントも開催されました。
改めまして、受賞された皆様、おめでとうございます。