虫ん坊

令和の「火の鳥」を聴け。手塚治虫生誕90周年記念 火の鳥 COMPILATION ALBUM 「NEW GENE, inspired from Phoenix」 プロデューサー平野氏 インタビュー

2019/10/09

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2019.10.30にリリースされる「NEW GENE, inspired from Phoenix」。


言わずと知れた手塚治虫のライフワークとも呼べるマンガ「火の鳥」からインスピレーションを受けた10組のアーティストが作品の世界を音楽で表現するアルバムである。


参加アーティストの顔ぶれは、浅井健一、GLIM SPANKY、佐藤タイジ、 Shing02 & Sauce81、TeddyLoid×Kizuna AI、toconoma、ドレスコーズ、七尾旅人、森山直太朗、やくしまるえつこの10組。出自やジャンル、活動の形も様々だ。


マンガ「火の鳥」は、黎明編・未来編・鳳凰編と時代や背景で分かれているまったく異なるストーリーのようで、すべての物語が時空を超えて繋がっている。

今回のアルバムに参加するアーティストたちの音楽性もロック・フォーク・ジャズ・エレクトロ、ヒップホップと分かれており、「火の鳥」という作品を介して一体どう繋がっていくのだろう。


平成から令和へと新時代を迎えた今、昭和20年代から60年代にわたって描かれた手塚治虫の「火の鳥」が、形を変えて音楽で蘇る。


(聞き手:手塚プロダクションスタッフ)



平野宗一郎(NEW GENE, inspired from Phoenixプロデューサー


キングレコード株式会社

EVIL LINE RECORDS 制作グループ長

プロデューサー/ディレクター

東京都出身/1985年生まれ

20094月キングレコード株式会社入社。

営業・企画開発セクションを経験した後、

スターチャイルドレコード(アニメ制作部門)を経て、

そこから独立したEVIL LINE RECORDSへスライドし、今に至る。




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「インスパイアアルバム」とは?


―――いよいよ10/30に発売される「NEW GENE, inspired from Phoenix」とは、一体どんなアルバムなのでしょうか?


平野 僕らはキングレコードの中のEVIL LINE RECORDSというレーベルの人間でして、その中で定期的に制作マンが集まって新しいものを提案して吟味してゆくという企画会議を行っているんですが、このアルバムもそこから全員で生んだ企画です。ディレクターの長島君の提案で、海外で「ブラックパンサー」という映画でサウンドトラックではなく「インスパイアアルバム」というものがあり、そういったインスパイアアルバムを作るのは面白いんじゃないかと。要は、作品の主題歌や挿入歌、劇伴だけではなく、その作品にインスパイアされたもので構築するものです。では何ができるんだろうと考えてみたんですね。映画やアニメーションだと、基本的にその作品を思い返したときに脳裏に蘇る印象的な音楽があるものですよね。なので、固定した音楽のイメージがない作品というのは前提で、さらに自分が一番やってみたい作品を考えた時に僕が「だったら『火の鳥』のインスパイアアルバムなんてどう?」と言ったら、僕らの制作チームが全員ちょうど「火の鳥」がものすごく好きだったんですよ。それで盛り上がってすぐに手塚プロダクションさんに連絡だ! となって、それから1週間ぐらいで手塚プロの方とお会いすることができて、その時期偶然にも手塚るみ子さんにもお会いしまして。なぜ「火の鳥」なのか、という理由としては、黎明編から未来編までの長さって何千年じゃきかないくらいの時間の幅がありますよね。それはもう様々な音楽が沢山生まれるだろうなと思い提案させて頂いた次第です。


―――やりたいと思ったことがすぐにやれる環境があるんですね。


平野 ウチのレーベルヘッドの宮本さんが5年前にEVIL LINE RECORDSを起ち上げまして、音楽や映像のジャンルの垣根を越えて良いと思ったものをやって行こうという指針を作ってくれたので、その中で遊ぶじゃないですけど、これはやっちゃダメだよね、このジャンルでなければいけないよね、よりも「面白いからやりません?」という空気づくりがレーベル内であるんです。だから今回も自由にできた。みんなが「火の鳥」好きで、「じゃあやろうよ!」というノリで。


―――みんながみんな「火の鳥」好きだったんですね!


平野 僕は小学校の頃には図書室にあったので読んでいたんですが、二十代になって買ったんです。色んな方がいるかと思うんですけど、僕にとって最初のトラウマというか、最も印象的なのは復活編でした。人間の定義という問題にど直球で斬り込んでて。

制作チームみんな本当に「火の鳥」好きで。またそれぞれで好きな編が違うんですよね。それも超大作ならではですよね。


―――平野さん自身はリアルタイム世代ではないですよね?


平野 僕の世代ではもう学校にあるものでした。ヴェートーベン、モーツァルト、手塚治虫というような、バイブルじゃないですが教科書的な扱いという感じですね。制作チームのみんなも20代〜30代といった感じです。みんな手塚世代ではないんですが、アーティストの方も含めて、手塚作品、特に「火の鳥」は音楽との結びつきが強い気がしますね。合わない音楽が無いだろうという懐の深さがある。紀元前3世紀から30世紀以後、何千年もの時が描かれた作品に拾えない音楽は無い気がするんです。ですから、それぞれの編、それぞれのシーン等、絶対に合うテーマソングがあるんだと思います。



newgene_05.jpg平野氏のトラウマ? 「復活編」よりロビタが集団自殺するシーン




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同じく「復活編」より、ロビタが自分が人間であることを証明しようとするシーン




楽曲は手塚治虫の匂いと赤塚不二夫の匂いに分かれる?



―――今回参加されるアーティスト10組はどのように選ばれたんでしょうか?


平野 最初は僕らのイメージでしかなかったんですけど、それを手塚るみ子さんに具現化してもらったというか。ざっくりとしたイメージを何度も打合せさせて頂いて、決まっていった感じですね。この作業は結構時間がかかって、その中で僕らがハッとしたのは、これは言って良いのか悪いのかわからないですけど、「なんとなくですが、アーティストの楽曲は手塚治虫の匂いがする作品と赤塚不二夫さんの匂いがする作品に分かれる」というるみ子さんからの意見があったんです。言われてみれば確かにそうだなと僕もそう思わされました。それで今回は手塚先生の匂いがするアーティストから選んだという経緯ですね。


―――「手塚治虫の匂い」というのはどのようなことでしょう? ポップさ? もう少し詳しく聞きたいです!


平野 いや、ポップさではないかもしれないですね。なんというか、あくまで個人的な感覚ですが、文化的な偏差値は高くてもそれを表現するアウトプットの仕方が違うというところが分かれ道のような気がしますね。お笑いだったら漫才とコントでアウトプットの仕方が違うように。言葉にはし辛いんですが。



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今回の参加アーティスト10組。





―――今回平野さんが担っている、このようなコンピレーションアルバム、インスパイアアルバムのプロデューサーの役割とはどういったものなんでしょうか?


平野 それがですね、ほぼ、無いですね。(笑)


―――(笑) いや無いことはないでしょう!


平野 いやでも本当にそうなんです。大変なのはアーティストの方々なんで僕はなにも。逆にいうと楽しみに待っている。まあただ、チームとしてみんなでやろう! となったので、役割分担がされていて、デザイナーと密に連絡を取るのはうちのレーベルの森くんと瀧口くんという若くて行動力のあるディレクターチームがやっていて、宣伝は一見ギャル男のような容姿ですが責任感の強い佐藤くんがやっているので、自分が何をやっているかと言われれば......やっぱりなにもやってないですね。


―――一同(笑)


平野 たくさん電話をするとか、あとは......祈る、とかかな。



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そうそうたるアーティストたちへの壮大な無茶ぶり



―――役割がない、と言われてしまうと困ってしまいますね。苦労話なんかもお聞かせ頂きたかったのですが......。



平野 苦労は100%アーティストのみなさんがされてるんじゃないですかね。この壮大なテーマに曲を書いてくださいと言われてすごく悩まれたと思いますので、アーティストの方のカロリーが高い。普段の我々の仕事では、作詞・作曲・編曲のすべてをこちらでコントロールして、ではこれをこのように披露してください、という形ももちろんありますし、シンガーソングライターの方に何がやりたいの? というヒアリングをして、じゃあこういうのはどう? と組んでいく場合もある。だけど今回のパターンは、壮大なテーマを投げて、じゃあこれをあなたが料理してください! という形に結果的になったんですよ。最初のうちはここまで壮大なテーマを言われて何からやっていいのかわからない方もいらっしゃるかもしれないとシミュレートして、じゃあこのアーティストにはこの時代のこの編をとか、このコマを、という提案をするアイデアもあったんですよ。でも結果的にはあまり制約を持たせずにご自身で選んでもらうことになった。ですから全体を通して作り上げることもありますし、一部のストーリーもしくはひとつのキャラクターを切り取ってということもあり得ます。だから参加アーティストの方がとにかく大変だと思います。お声掛けをする際もアーティストの方が悩まれた場合にはこちらからこういうのもありますよとご提案する予定だったのですが、結果的に皆さんはそれを求められなかったんです。



―――今回は普段の平野さんのお仕事とは違う部分があったんですね。



平野 すべて違いますね。言ってみれば今回は無茶ぶりをそうそうたるアーティスト陣に投げるということですからね。() コンピレーションアルバムは何度か作ったことがあるんですけど、いつもはお題を細かく決めて、こういう風に作りたいとか制作陣の意図をまとめて出す場合がほとんどです。でも今回はそれをすると純度が薄れてしまう。だから自分は何もしていないんです。()



―――楽曲があがって来てからもアーティストの方に注文やリクエストなどもしなかったんでしょうか?



平野 もう今回はその部分に我々からのノイズを入れない方が良いんじゃないかという方向性だったのでなにも。それをやると僕たちの思い通りの「火の鳥」になってしまうじゃないですか。なのでそこも自由度高めに。




とにかくマンガが読みたくなるアルバム



―――まもなく発売となりますが、手ごたえはいかがでしょうか?



平野 実は少し変な感覚があって、例えば普段アーティストの方も僕らも新譜のリリースとかを常日頃しているわけじゃないですか。例えばウィークリーでどれだけ聴いてもらえるかということとか考えますよね。それと例えば510年先にこの曲がどう影響を及ぼすのかということ。あとはこのアーティストが作ったこの曲を、この方が例えば親になったとして、子供に聴かせた時のことなんかを想像することって僕は結構あるんですよね。ただ、今回に限っては、初めて「死後の世界」を想像しました。作品のスケールがそう思わせるんでしょうが、今生きている人たちがみんないなくなっても、記録されたものだからこのアルバムは残るわけじゃないですか。それが今回、この令和元年に作られたものが次世代の人たちに聴いてもらえるというのは感慨深いと思いました。令和元年になった時に万葉集が書店ですごく売れたじゃないですか。そういったようにいずれまったく思いもよらないところで聴かれたりするのかなと思うとすごくドラマチックだなと思いましたね。手塚先生の生誕90周年と、令和元年であること、そして「火の鳥」にインスパイアされた今の時代の音楽の記録、というドラマのほんのわずかな一部分に入れてもらうことができたのかな、と考えるとすごく楽しいですね。



―――ずばり、このアルバムはリスナーにとってどんな作品になるでしょうか?



平野 まずはとにかくマンガが読みたくなるだろうなと。() 僕も聴きながら読んでますし。「火の鳥」というマンガ作品あってのアルバムなので、「火の鳥」を今までに読んだ方はこれを聴いてまた読み返してもらえると楽しみが増えると思いますし、まだ読んでいない若い世代は聴いてみて黎明編から読み始めるのも楽しいと思います。「火の鳥」という壮大なお題があって、それに対するアーティストごとのアンサーなのでそこを楽しんでもらうというのが一番ですね。



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取材後、アルバムに収録される予定の音源を数曲聴かせてもらった。



曲調はまったく違えど、どこかに共通する気高さがある。

偶然にも歌詞に共通する言葉が入っていたり、発見もあり楽しい。

なるほど、確かにこれはそれぞれのアーティストたちの「火の鳥」へのアンサーなのだ。



「火の鳥」は、形を変えて、これからも語り継がれ、読み継がれてゆく。




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手塚治虫生誕90周年記念 火の鳥 COMPILATION ALBUM

「NEW GENE, inspired from Phoenix」

<参加アーティスト>

浅井健一

GLIM SPANKY

佐藤タイジ

Shing02 & Sauce81

TeddyLoid×Kizuna AI

toconoma

ドレスコーズ

七尾旅人

森山直太朗

やくしまるえつこ


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