トップ特集1特集2オススメデゴンス!コラム投稿編集後記

虫ん坊 2018年8月号 オススメデゴンス!:『海の姉弟』

はじめに:

 今回のオススメデゴンス! では、お月見にちなみ、5億年前の月が舞台の『ノーマン』をご紹介します。
 満月を見るたびに、月ではこんな戦いが起こっているのかも……? と考えてしまいます。



解説:

(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ノーマン』第3巻 あとがきより)
「少年キング」に一年間連載の、このSF物語は、「マグマ大使」以来、二年ぶりの少年画報社の仕事です。
 当時、60年安保から70年安保へかけてのはざまで、社会は大きくゆれ動いていました。暗い激動の時代でした。当然、漫画界にもその影響がおよんで、少年週刊誌にも暴力やセックスを肯定して、はみだし人間を主人公にした作品がしだいに出始めていました。ぼくも長いジレンマにおちいり、模索しながら「バンパイヤ」や「どろろ」をかいていた時代です。
 (中略)
 この時期に「ノーマン」のようなSF冒険ものに手を染めたのは、少年漫画界全体がリアルで生ぐさいドラマ偏重に向かいつつあることへの反発だったのかもしれません。
 (中略)
「ノーマン」は、やっぱり、SFファン以外の読者には少しわかりにくい内容でした。したがって、人気もいまひとつぱっとせず、終わりのころになって、突然、原作つきの時代ものをやってみないかという希望が編集部からありました。これが「鬼丸大将」です。なにしろ、「ノーマン」の話は途中でやめるわけにはいかず、編集部からは連載切り替えの要請が強く、とうとう「ノーマン」のラストの五回ほどは、物語の結着をつけるために、毎回二十五から三十ページももらっての大奮闘でした。
 思い出すのは、「ノーマン」の最終回の前の回のしめきり日に、ソ連が初めて月ロケットを打ち上げたことです。このニュースは衝撃的で、それまでの宇宙もの――荒唐無稽という観念を一掃しました。そして、ぼくもそれを記念した一コマを、「ノーマン」のラストに加えることにしたのです。



マンガwiki作品紹介:

キャラクターなど詳しい情報はこちらから




読みどころ:

 「ノーマン」は、1968年の4月から12月にかけて、「少年キング」に連載されました。主人公は、超能力を持った地球の少年・タク。彼は、さまざまな星から集められた超能力集団「ノーマン・レインジャー」の一員で、その名前は、もう一人の主人公ともいえるノーマン王子に由来しています。

「ノーマン・レインジャー」は月の上にある「モコ帝国」を侵略から守るために結成された組織で、彼らレインジャーと、残虐な侵略者・ゲルダン人の攻防が、5億年前の月世界で繰り広げられる、SFアクションドラマなのです。

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』

いろいろな星から召集されたメンバーは、それぞれの超能力を使いこなす超人だった! 地球代表・中条タクの超能力は、意思で物体を動かすことができる“念動力”だ。

 この作品では、残虐なゲルダン人による虐殺や破壊などが徹底してかかれ、それまでの少年向けSFにくらべて、格段にハードな仕上がりとなっています。また、一方的にタクの一家を月に連れて来るなど、月の人間たちの性格設定にも素直に感情移入しづらい面があり、連載時に人気が今ひとつだったのも理解できます。
 おそらく当時、手塚治虫は漫画表現の進化・変革を敏感に感じとって、迷走していたのでしょう。この「ノーマン」発表の頃をさかいに、「ナンバー7」「ビッグX」「W3」といった、古き良きSFアクションスタイルの作品は影をひそめ、再登場までには1970年代の「未来人カオス」「プライム・ローズ」などを待たなければなりません。

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』

タクは両親ともども5億年前の月に飛ばされる。超能力戦士としてさまざまな訓練を受け、やがて攻めてくるゲルダン人との決戦に臨みます。

 しかしながら、“手塚作品の主人公”らしく、マザコン気味のタクや、明るいキャラクターの女性隊員ルーピ、ちょっと世間ズレした(?)性格のノーマン王子など、キャラクター人気は高く、現在でも好きな作品の上位に挙げるファン(特に女性)が多い作品です。

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』

紅一点のルーピは、ノーマン王子に密かに想いを寄せていた。王子の無自覚な人たらしっぷりに、思わずしっぽまで真っ赤に。

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』

しかし! ここは犬型のハウンドロ人であるブッチ隊長を推したい。
いつもは頼れる男前な隊長だが、ふとしたときに犬のようなしぐさや無邪気さが出てしまう。こういうギャップに弱い方、多いのでは!?



注目の一コマ:

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』

 手塚作品の中で屈指の名プロローグだと思うのが、この『ノーマン』なのです!
 ページをめくり、目に飛び込んでくるほど大きく描かれた月とタクの後ろ姿は、インパクト大。不安を煽る不気味な月と語り手の言葉に、一気に物語に引き込まれ、思わず次々とページめくってしまいます。 月という大舞台で巻き起こるSFスペクタクルにふさわしい物語の幕開けといえるでしょう。



作中の名セリフ:

虫ん坊 2018年9月号 オススメデゴンス!:『ノーマン』


ノーマン:「少佐 なかなか デリケートな趣味があるね」


 ノーマン・レインジャーとしての厳しい訓練を見せないようにと、タクのお母さんを冷凍保存してしまったベガー隊長。そして、なぜかそのまわりにバラのドライ・フラワーを散らしていた隊長に向けたノーマン王子の一言がこちら。
 特殊訓練場ではタクたちを厳しく扱く鬼の隊長ですが、その無骨な見た目とは裏腹に、案外ロマンチストなのかもしれません。これもまた、ひとつのギャップ萌えといえるでしょう。
 お母さんを冷凍しながら、「冷凍ママか…ふふふふふふふ……」と不敵に微笑むシーン(1巻参照)も合わせてチェックしていただきたい。




戻る




(C)TEZUKA PRODUCTIONS.