トップ特集1特集2オススメデゴンス!コラム投稿編集後記

虫ん坊 2017年8月号 オススメデゴンス!:『火の鳥』復活編

はじめに:

 今月は芸術の秋、読書の秋……ということで、ブラック・ジャックより「絵が死んでいる!」をご紹介デゴンス!
 
 この「絵が死んでいる!」は、手塚治虫が生涯にわたり生み出し続けた「反戦」がテーマとなっている作品のひとつです。
 週刊少年チャンピオンへの掲載日が終戦記念日の近い8月18日号というところにも、この作品を読むひとときのうちだけでも戦争の悲惨さ、平和への願いを意識してほしい、 という手塚らしいメッセージが込められているようにも感じる一作です。



解説:

「絵が死んでいる!」は『週刊少年チャンピオン』昭和50年8月18日号に掲載されました。



マンガwiki作品紹介:

キャラクターなど詳しい情報はこちらから




読みどころ:

 この、「絵が死んでいる!」は時にシビアなエピソードの多い「ブラック・ジャック」の中でもかなりショッキングな部類に属する一編です。

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

 若い画家ゴ・ギャンがキャンバスを広げているのは、楽園のような南の島。島の美しい自然の風景を絵に残そうと、楽しげに絵筆を振るう画家と、和やかな雰囲気の動物達。そこへ突如爆風が降りかかり、楽園が一瞬にして地獄へと姿を変えます。島の近くで核兵器の爆発実験が行われたのです。

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる


 放射能に侵され、折り重なるようにして倒れている人々や動物達を目の当たりにしたゴ・ギャンもまた、まともに放射能を浴び、全身が焼けただれてしまいます。
 美しい自然が人間の愚かな行為によって一瞬にして地獄に変わるこの場面は、いきなり物語がクライマックスから始まったほどのインパクトがあり、いきなり読者をどきりとさせます。
 もちろん「ブラック・ジャック」のエピソードの一つですから、当然ブラック・ジャックが登場し、ある奇想天外な方法で見事画家の命を救うのですが、実はそれすらも、このエピソードにかぎってはさして重要な部分ではありません。それよりも奇跡的に命を取りとめた画家ゴ・ギャンのその後の生き様のほうが、この作品のテーマとなっています。

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

いままで生きていたのが不思議なくらいだ、と言われるほどに重篤だったゴ・ギャン。「核爆発の恐ろしさを世界じゅうに知らせてやりたい」と必死に訴える姿に、B・Jは延命治療を決めたのだった。


「あの悲惨さを絵にして残したい」といって、ブラック・ジャックに治療を依頼したゴ・ギャンは、いったいどんな絵を描きあげたのでしょうか。どうしても生き延びて絵を描きたいというゴ・ギャンの芸術家としての執念もすごいのですが、このエピソードの結末はもっと皮肉で、すさまじいのです。 手塚治虫自身の芸術観も垣間見える壮絶なラストを、ぜひご覧下さい。

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

どんな絵を描き上げたのかは……その目で確かめてみてください。


注目の一コマ:

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

 ゴ・ギャンは、画家と漫画家、立場は違えど「反戦」を作品のテーマに掲げ続けた手塚治虫自身を投影したキャラクターであるのではないでしょうか。
 B・Jの手により、わずかながらも延命し、「核爆弾の残酷さを世界中に知らせよう」と筆をとり続けた姿も、最期まで漫画家であり続けようとした手塚治虫を髣髴とさせます。

 このゴ・ギャンのモデルは、言わずもがな19世紀フランスの画家ポール・ゴーギャンでしょう。西洋文明の社会に絶望したゴーギャンは、己の思い描いた楽園を求めて南太平洋の島タヒチへ渡りますが、そこは彼が思い描いた楽園ではなく、ゴーギャンは病気と貧困に悩まされてしまいます。
 希望を失ってしまったゴーギャンは、人生最期の作品として、「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」を制作したあと、自殺を図ってしまいます。

 西洋文明に深い問いを投げかけるゴーギャンの作品群は、彼の死後に世間から評価を受けるようになりました。
 ゴ・ギャンが命を削って描きあげたこの大作もまた、きっと人々の心に突き刺さる作品となることでしょう。


作中の迷セリフ:

虫ん坊 2017年9月号 オススメデゴンス!:『ブラック・ジャック』 絵が死んでいる

チャンピオンを確認しているB・Jにもクスリとさせられます

ゴ・ギャン

「先生が前に放射線障害の患者を三人もなおしたってチャンピオンにかいてありました」

 B・Jに延命治療を求めるゴ・ギャンが発したこのセリフをあえて推薦します!
「シリアスシーンが続くとお尻が痒くなるので照れ隠しのため」にギャグをついつい入れてしまうという手塚らしい、思わすニヤッとしてしまうようなメタ的ギャグです。

 この「放射線障害の患者を三人もなおした」というエピソードを探してみたところ、おそらくブラック・ジャック第46話「恐怖菌(原題:死神の化身)」なのではないかと推測しています。
 少年チャンピオン掲載時には乗員の事故の原因が、「沖合で原子炉から漏れだした放射能灰が原因」とされていましたが、単行本収録時には「米軍の秘密細菌兵器による汚染」と描きかえられているところを見ると、 間違いなさそうです。





戻る




(C)TEZUKA PRODUCTIONS.