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虫ん坊 2017年4月号 特集1:妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』 脚本・演出 倉持裕さんインタビュー

虫ん坊 2017年4月号 特集1:妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』 脚本・演出 倉持裕さんインタビュー

劇作家・脚本家・演出家 倉持裕さん


 手塚作品の中でも異色中の異色作、『上を下へのジレッタ』が遂に舞台化!!
 演出・脚本を担うのは、演劇界でも気鋭の若手として注目を浴びている倉持裕さん。
 最近、スマホ依存になっている人、必見?!
 『上を下へのジレッタ』をどのように捉え、なぜ「妄想歌謡劇」と掲げたのかなど、いろいろお話を伺いました。


 プロフィール

1972年生まれ、神奈川県出身。劇作家・脚本家・演出家。
学習院大学 経済学部経済学科卒。
1994年岩松了プロデュース「アイスクリームマン」に俳優として参加。
2000年劇団ペンギンプルペイルパイルズを旗揚げ。主宰・作・演出を手がける。
「ワンマン・ショー」にて第48回岸田國士戯曲賞受賞。
舞台戯曲、演出、ドラマ執筆、ドラマ企画監修など分野を問わず活動し、注目作を生み続けている。
最近では、2016年「家族の基礎~大道寺家の人々~」脚本・演出、劇団☆新感線春興行いのうえ歌舞伎《黒》脚本、2017年「お勢登場」(原作:江戸川乱歩)脚本・演出 など。8月には、人気シリーズ最新作「鎌塚氏、腹におさめる」(作・演出)の公演も控えている。




妄想歌謡劇 『上を下へのジレッタ』 について

虫ん坊 2017年4月号 特集1:妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』 脚本・演出 倉持裕さんインタビュー


―――手塚作品の中でも大人の風刺マンガと呼ばれる『上を下へのジレッタ』ですが、今回、舞台化となった経緯を教えて下さい。


倉持裕さん :
(以下、倉持)

 シアターコクーンから「ミュージカルでなにか作りませんか」という依頼を受けたときに、ミュージカルだったら『上を下へのジレッタ』を舞台化出来るかも知れないと思ったんです。
 子どもの頃から好きな作品でしたし、いつか作れないかなとずっと考えてはいたんですけど、原作は情報量も多いし、ストレートプレイ(歌や踊りがない舞台)で全部やるのは難しいなと思っていて。でも、歌だったら、会話より短い時間で多くの情報を伝えることができるので行けるんじゃないかと。
 僕の方から作品の提案をして、是非やりましょうとOKをいただきました。


―――子どもの頃から好きな作品とのことですが、『上を下へのジレッタ』との出会いを教えて下さい。


倉持 :

 小学校3年生の頃、通称「黒本」と呼ばれていたと思うんですけど、講談社の手塚治虫漫画全集で読みました。
 当時はジャケットに惹かれて手に取ったんです。絵柄が大人っぽいじゃないですか。エロチックだったし、大人の世界をみた感じというのかな。いけないモノを読んでるようなところもあって、すごくドキドキした覚えがあります。
 あと、主人公の門前市郎がすごく格好良いなって思ったんですよ。成り上がっていくバイタリティとか、物事を動かす行動力とか。
 道中にモノローグをどんどん語って、語り終わったら、もう次の場所にいるというようなマンガの描き方とスピード感が相まって本当に格好良かったんですよね。


―――はじめて読んだ手塚作品が『上を下へのジレッタ』だったということでしょうか。


倉持 :

 いえ、『ジレッタ』を知るもっと前に『七色いんこ』を読んでいたんですが、それが最初に演劇というものを知った作品だと思います。
 あの作品は、演劇の戯曲を題材にしてマンガに盛り込んでいるじゃないですか。『七色いんこ』で覚えた古典をもとに、いまだに台本を考えたりします。


―――『上を下へのジレッタ』を読まれた当時と今とで印象が変わった部分はありますか。


倉持 :

 マスコミへの風刺や先見性もそうなんですが、すべてひっくるめて“妄想”をテーマに描かれていたんだなって思いました。
 “ジレッタ”という現象だけではなく、登場人物たちも妄想を匂わせる職業なんですよね。芸能界もそうだし、マンガ家も政治家も妄想家って感じがするし。“現実”というものを嫌がって“妄想”の割合をすごく増やそうとしている人々の話というか。
 今回の舞台でもその辺をテーマに、“虚構”と“現実”が戦っているような歌と芝居がたくさん出てきます。“現実”があっての“妄想”なのに、“妄想”に没頭していくのはあべこべなことだし、原作でも、“ジレッタ”がすべてを呑みこんでしまうじゃないですか。果たしてそれがいいことなのかどうか、観たらふと我に帰る瞬間があるような舞台になっています。


―――“虚構”と“現実”のせめぎ合いがテーマでもあり、倉持さんが考える『上を下へのジレッタ』の魅力でもあると。


倉持 :

 この作品が描かれた70年代当時は、人々がテレビに夢中になって、ずっとかじりついているような時代だったと思うんです。
 いまに置き換えたら、テレビがスマホにあたるのかな。画面と長時間にらめっこするのもそうだし、実物がそこにあるのに、まず、写真に撮ってネット上で“イイね”をもらうことを大事にしていたり。
 結局、“現実”に背を向けて、“虚構”の方に魅力を感じているのは同じなんですよね。
 今回、あえてどの時代とは言及していないんですけど、なんとなく昭和だとわかるようには描いています。直接的な現代への風刺ではないからこそ、余計にいまも同じだなって思うかも知れませんね。
 時代を問わず、いつ読んでも同じようなメッセージを受け取れる作品だと思います。


―――(ギャーーーー! 思いっきりスマホ依存してたあああ! ※心の叫び)


―――タイトルにある「妄想歌謡劇」ですが、どういった意味を持つ言葉なのでしょうか。


倉持 :

 今回、ストレートプレイの舞台ではないので、作品名の前に付けるために作った造語なんです。
 “ミュージカル”と頭につけるほど全て歌と踊りでやるわけではないし、“音楽劇”だとちょっとあたりまえすぎるなと。
 そこで、妄想世界を表す“ジレッタ”からまず“妄想”、昭和っぽさを匂わせるように“歌謡劇”という言葉を選びました。


―――作曲は宮川彬良さんが担当されていますね。


倉持 :

 はい。ジャズっぽい曲が多くて、どの曲も本当にとても格好良いんですよ。普遍的な感じというのかな。古びないじゃないですか、ジャズって。
 曲はすごく格好良いのに、僕が書いた歌詞は笑える感じなので、そのギャップが更に格好良さを引き出している気がします。劇中にアイドルが出てくるんですけど、そこは80年代アイドルっぽいイメージでお願いをしました。
 キャストも歌が上手い人が多いから、歌の部分はエンターテインメントとしてすごく楽しめると思います。


キャラクター について

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―――門前市郎役に横山裕さん、小百合チエ役に中川翔子さん、山辺音彦役に浜野謙太さん、間リエ役に本仮屋ユイカさん、有木足役に竹中直人さんといったとても個性的で豪華な共演者が揃いましたが、キャスティングの決め手について教えてください。


倉持 :

 横山さんはやっぱり実際にアイドルですからね。日本中を巻き込むという点でも説得力があるし、彼のイメージとしてひとりで考えてグイグイ前に進めていくみたいな役が似合うんじゃないかなって。
 翔子ちゃんはプロデューサーから紹介されたんですけど、本当に顔が人形のように可愛いんですよ。その一方、アニメファンだったりして、彼女自身、タレントとしてギャップがあるじゃないですか。そこもいいなと思ったんですよね。
 浜野くんとは付き合いが長くて、4年前くらいの舞台で役者としても出てもらったんです。彼はミュージシャンで芝居もできるし、あの役は本当にコミカルに演じられる役者じゃないと無理なので、見た目もマンガっぽい彼にぴったりだなと思って。
 本仮屋さんは、すごく明朗で活発な方で、そこがいいなと思いました。リエって男に媚びずに自立している女じゃないですか。
 竹中さんとはこれでご一緒するのは5度目ですね。すごく派手で明快に表現する芝居も、落ち着いた無駄なことをしない芝居も両方できる方なのですごく信頼しています。


―――各キャラクターの魅力やここに注目して欲しいと思う点を教えて下さい。


倉持 :

 マンガでいうと大したページ数はないかも知れないけど、門前とリエの関係はこの作品のなかでかなり重要な位置を占めるドラマだと思っています。
 門前は“虚構”ばかりに夢中になっているけど、唯一、リエだけは“現実”として捉えているから頭が上がらないし、弱点でもあるんです。去って行くリエに対して、おれにはお前が必要だと思っていても言わないという、昭和の男っぽいところもあって。
 リエのドラマとしても、最初は“尽くす女”でいたけれど、徐々に距離を置いて自立していきますよね。
 チエと山辺の場合は、コミカルな役どころのなかにもふたりの悲哀を出していきたいなと思っています。
 あの二人って、マンガ家と歌手で食っていこうと夢を追っているんだけど、稼げるようになったら結婚したいとかずっと現実的な話をしているんです。でも、ものすごい能力を二人とも持っていたわけじゃないですか。そこに目を付けた人間に能力を利用されて、二人が求めているものとは外れているものばかり背負わされた悲しい人たちなんですよね。


―――そういう視点でみると、山辺とチエに対する見方もだいぶ変わってきますね。


倉持 :

 百戦錬磨の大人たちに巻き込まれて利用されてしまうという(笑)。素朴な山辺やチエなんていうのは被害者になっているわけで、かわいそうなんですよ。
 有木足とか竹中プロの社長というのは、人を利用しようとする人たちですよね。でも、ヒットを仕掛ける側の人間なわけで、大人として然るべき利益追求をしているだけだから、そこまで否定はできない。世の中、そういうもんだって気もするし、すごく現実的だなって感じがします。
 その辺、門前は、徹頭徹尾ダークヒーローで自分の理想に忠実で、迷いがない。そこがまた格好良さのひとつに繋がっている気がします。
 自己中心的で行動力だけはある、THE・主役という感じの門前のようなキャラクターは、自分の他の作品でもモデルにして描いています。初めて読んだときに感じた彼のエネルギッシュさを、そのまま舞台に乗せたいですね。


演出 について

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稽古場にて


―――普段は不器量な容姿で、空腹時にだけ絶世の美女になるという設定について、どのように演出されるのかがとても気になります。答えられる範囲内で教えていただけますか。


倉持 :

 それはまだ僕自身も気になるところではあるんですけど(笑)。
 最初の頃、二人で一役をやる話もあったんですが、最終的に全部翔子ちゃんで行きましょうとなりました。そこも見どころです。
 ついさっきも顔の仕掛けの打ち合わせをしていたんだけど、観客も1回見たら飽きちゃうし、不器量に化けた状態をしっかり見せるのは冒頭だけだと思います。
 まあ、特殊メイクを使いつつ、衣装で太らせたり痩せたりという変化をさせるかとは思うんですけど、最初だけは丁寧に演出して、それ以降はそういう人なんですと理解してもらうように仕掛ける予定です。


―――実際に、稽古が始まって手応えみたいなものはありますか?


倉持 :

 まだまだ、みんなでどういうシーンなのか確認しあいながら進めている状態ですけど、テンポ感がすごいです。セットも軽量のものを使っているので転換も速いですし、役者もそれに合わせて素早く動いてくれているので、原作の持つ疾走感やエネルギーが舞台にも出せてきているのかなと思いますね。スピード感にはとにかくこだわりたいです。

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演出の説明をする倉持さん


―――最後にひとことお願いします!!


倉持 :

 純粋にエンターテインメントとして楽しんで欲しいなというのはすごくあります。歌の部分もそうだし、笑えるし、役者それぞれが格好良い瞬間がたくさんあるので、観ている間ずっと楽しめるはずです。
 “現実”と“虚構”の、“虚構”の方が勝ってしまうような、そんなあべこべになりつつある状況について、ちょっと、立ち止まって考える機会になればと思います。


制作発表 の模様


 妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』の制作発表が2017年4月10日に行われました。

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門前市郎役は横山裕さん


 本作への意気込みや見どころについて、門前市郎役の横山さんは「こんなに歌ありの演劇は初めて。宮川彬良さんの音楽が本当に素敵でそこに倉持さんの世界観が入ってきて、また、みなさんのパワーも重なりあって本当にすごい化学反応が起こっています」と刺激的な稽古場について述べました。

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中川翔子さん


 小百合チエ(越後君子/晴海なぎさ)役の中川さんは「マンガ原作の作品を演じるということは念願でした。手塚先生の原作は人間の妄想の強さや面白さはもちろん、ずっと先の未来を予言していたようなすばらしい内容で、演じるのも歌うのもとても楽しく、毎日が冒険のような日々を送っています。門前市郎のようなパワフルさとカリスマ性を実際に横山さんがお持ちなので、ボス! ついていきますという感じで、現場の士気も高いなか制作も進んでおります」と力強く挨拶。

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浜野謙太さん


 チエの恋人役でジレッタを生みだすキーパーソン、山辺音彦役の浜野さんは
「倉持さんとは古い付き合いなのですが、すごく尊敬していて、また5年振りに出演させていただくことを嬉しく思っています。倉持さんとはよく遭遇するんですが、住んでいる駅が同じで……」
 ここで、ジレッタのスポンサー、有木足役の竹中さんに「駅に一緒に住んでるの?!」とすかさずツッコまれ、「最寄駅が同じなんです。うるさいよ!」と笑いを誘い、
「めちゃくちゃ新しくて面白い舞台になっているので楽しみにしていてください」とキャラクタ―味があふれるト―クを展開していました。 

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本仮屋ユイカさん


 門前の元妻、間リエ役の本仮屋さんは「Bunkamuraシアターコクーンという劇場はとても特別な場所で、まさか自分が立てるなんてととても光栄に思いました。門前市郎という男性は今まで見たことがないくらいハイテンションで、ころころ気持ちが変わるんですが、なにか一発当ててやるぞ、という気概は女からみてとても魅力的だなと思うので、元妻役として支えていけたらいいなと思います」と想いを語りました。

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竹中直人さん


 日本天然肥料株式会社社長、有木足役の竹中さんは「小学生の時に初めて読んだマンガが手塚治虫さんの『ロック冒険記』で、それを機に、本当はマンガ家になりたかったという思いがあります。稽古は若い方ばかりで大変ですよ。踊りのシーンがちょっとでも少なければいいな~なんて(笑)。でも、とても勉強になる現場で毎日楽しいです」と意外なエピソードを交えながら、会場の笑いを誘っていました。


 公演情報

シアターコクーン・オンレパートリー2017
妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』

脚本・演出:倉持裕
音楽:宮川彬良
出演:横山裕、中川翔子、浜野謙太、本仮屋ユイカ
   小林タカ鹿、玉置孝匡、馬場徹、銀粉蝶、竹中直人 他
企画・製作:Bunkamura

【東京公演】
会場:Bunkamuraシアターコクーン
公演期間:2017年5月7日(日)~6月4日(日)※全30公演
お問合せ:Bunkamura03-3477-3244(10:00~19:00)

【大阪公演】
会場:森ノ宮ピロティホール
公演期間:2017年6月10日(土)~18日(月)※全11公演
主催:サンライズプロモーション大阪
お問合せ:キョードーインフォメーション0570-200-888
      (10:00~18:00)

※公演スケジュールはコチラでご確認ください。



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