大宮駅に鉄腕アトムをはじめ手塚キャラクターが描かれたラッピングシャトルが登場!
その正体は、大宮駅(埼玉県さいたま市)を起点に運行する小さな電車、ニューシャトル。2月10日から運行が開始されたこのラッピングシャトルは、埼玉県警察と埼玉新都市交通(株)(以下、ニューシャトル)による自転車事故防止の啓発を目的とした取り組みの一環で考案されたものなのです。
今回の虫ん坊では、埼玉県警察とニューシャトルのご担当の方に運行の背景や自転車の交通事故事情についてお話をうかがいました。
なぜ電車に「自転車事故防止」のラッピングがされたのか? そこには、ニューシャトルならではの理由があったのです。
埼玉新都市交通ニューシャトル公式サイト:http://www.new-shuttle.jp/
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ニューシャトル、なかなか聞き慣れないですが、一体どんな電車なのでしょうか。
中村倫啓さん:
(以下、中村)
ニューシャトルは、大宮駅から鉄道博物館を通り、伊奈町の内宿駅までの12.7㎞の区間を約25分で結んでいる、新交通システムです。
鉄の車輪ではなく、ゴムタイヤでコンクリート路面の走行路を走るのが特徴で、電気で走るため廃棄ガスも出さず、エコな電車として活躍しています。14本ある車両はすべて違う色が塗装してあり、色とりどりのおもちゃのような外見をしています。
新幹線の横を運行するので、お客さまからは眺めがよいとご好評いただいています。
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実を言うと、このラッピングシャトルのお話をいただいて初めてニューシャトルの存在を知りました。
中村 :
この電車が通る伊奈町や上尾市といった沿線地域は、おもに企業や学校が多い住宅街なので、そこに用がなければまず使わないのではないかと思います。さいたま市内でも知らない方が結構いらっしゃいますよ。
新幹線の横を走ってる電車とか、鉄道博物館に行く電車といえば、「ああ!あのおもちゃ箱みたいな電車ね」とわかってもらえますが、まだまだ知名度が低いんですよね……。
小倉岳仁さん:
(以下、小倉)
東北新幹線、上越新幹線の建設により、両新幹線の分岐点となる伊奈町が3分割されることなどから、その代償として新交通システムの導入が決定され、1983年12月にニューシャトルが開業しました。
新幹線が走る横の狭いスペースで走る路線ですので、高架の下を通ったりカーブが多かったりという設備上の理由もあり、小回りが効くように車体は小さいサイズに作られています。
中村 :
1両が8メートルしかありません。JRさんの京浜東北線などは大体20メートルなのに比べると、かなりコンパクトでかわいらしい電車なんですよ。
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車両がカラフルで、とてもキャッチーなデザインですよね。
小倉 :
1983年、ニューシャトルができた当時に運行していた1000系という車両は、新幹線と比べるとかなり小さくそのレトロなデザインから「マッチ箱」という愛称で呼ばれていました。
現在運行している車両は、1050系、2000系、2020系の3種類です。とくに1050系・2000系の車両は、2007年に鉄道博物館ができたことによりお子さんを連れたご家族の利用が増えたため、見て楽しい電車を目指して色とりどりの塗装がされています。
2015年11月にデビューした新型車両である2020系は、並走する新幹線との調和性を考え、より未来感のある外観デザインへと一新されました。
今回、ラッピングシャトルに使用しているのは2000系の05編成であるブルーの車両です。
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近未来的なデザインの車両と手塚キャラクターが描かれたラッピングは相性バッチリですね!
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ラッピングシャトル運行に至るまでの経緯は、埼玉県警察の方にお聞きしたいと思います。なぜ自転車事故防止の啓蒙にニューシャトルを起用したのですか。
大沼誠さん:
(以下、大沼)
原市駅から内宿駅までの7駅の間には無料の駐輪場があり、自転車の利用数が多いということと、自転車の利用者をターゲットに絞った対策なので、通勤・通学で自転車を使用する方の目に入りやすいように沿線を走るニューシャトルを選びました。
後藤順子さん:
(以下、後藤)
大宮駅を出たところの交差点からもよく見える位置だったり、電車なのに以外にも街中の目立つ場所を通るんです。そのため、自転車だけではなく車を運転している人にも見えやすく、ラッピングをして呼びかけるには最適でした。
後藤 :
埼玉県は、平地率が茨城県に次いで全国2位となっており、自転車にとって環境の良い土地柄なんです。東京のベッドタウン的な場所ということもあり、住宅地が非常に多いのも自転車利用数が多い理由のひとつですね。
大沼 :
埼玉県は、県民一人当たりの自転車保有率が全国一になったことがあったり、自転車関連企業が集まっていること、自転車発祥の地とされることなどから「自転車王国」を全面に出したキャンペーンを行うほか、エコや健康維持のためにも自転車利用をかなり推奨しています。
これだけ自転車利用者が多い中、自転車を推奨するとともに事故対策も不可欠です。
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近年の自転車事故件数はどうですか?
大沼 :
ここ10年間の自転車事故で負傷した方のデータを見ると、約1万3900人から昨年は7933人にまで減少しています。 しかし、負傷件数が減っているにも関わらず死亡件数は平成19年度から現在まで40人前後で変わっていないのです。
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自転車事故を防止するには、具体的にどこを見直せばよいのでしょうか。
大沼 :
例をあげてみると、昨年の自転車事故の約8,000人の負傷者うち、交通違反をしていた方が約6800人というデータがあります。これは、起こった事故のうち約85%が自転車側になんらかの違反があったということになります。
違反の内容を見ると、生活で使用する市町村道路の狭い道や、交差点での安全不確認での飛び出しが一番多いです。逆に言えば、この点を守っていただければ自転車事故はかなり減らすことができるということですね。
怪我をする部位が多い順に脚部、腕、頭部となっており、死亡の原因のデータを見ると頭部の怪我が一番多いんです。
後藤 :
去年、自転車事故で亡くなられた方のうち、半分以上は自転車ヘルメットを被っていれば助かった可能性が極めて高いという分析がされました。
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今は、ヘルメットを被らなきゃいけないという規則はあるのでしょうか。
大沼 :
県の条例でヘルメットのことは定められてはいるのですが、被るように努力しないといけないという努力義務であって、罰則までの規定はまだできていません。
ヘルメットを被っていたために重症だったのが軽症で済むといった例もありますので、やはり被っていたほうが確実に安全と言えます。
「そうはわかっていてもなかなか被れない……。」という意識を今後どう変えていくかが課題です。
意識改善の思いをこめて、「自転車ヘルメットをかぶりましょう」というキャッチコピーと、ヘルメットを持ったアトムを大きくデザインしました。 今は帽子に見えるヘルメットなどオシャレを重視した種類も発売されていますので、抵抗がある人にもおすすめですよ!
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ラッピングに手塚キャラクターを起用した理由を教えてください。
大沼 :
手塚先生のキャラクターには歴史があり、若い方から高齢の方まで認知度が非常に高いので、誰もが一目見ても親しみやすいという強みがあります。 新座市には手塚プロダクションさんの制作スタジオもあるし、アトムが特別市民として登録されていますよね。
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新座駅のホームメロディーには、『鉄腕アトム』のテーマが使われています。
後藤 :
そのほかにも、埼玉西武ライオンズのマスコットがレオとライナだったり、手塚プロダクションさんは埼玉との関わりが深いということでお声掛けしました。 親しみやすい個性のあるキャラクターばかりなので、そこから呼びかけてもらえれば我々のメッセージも伝わりやすいのではないかと思います。
大沼 :
ラッピングにいるサファイアやメルモちゃんは、私が小さい頃に見ていた作品だったので懐かしさもあり、どうしても入れたかったんですよね。
手塚先生の漫画やアニメに馴染みのある、私たちの世代の方にも興味を示してもらえたら、対策係としても非常に喜ばしいことです。
僕は40代なのですが、この年代は学生や高齢者などと違って明確にターゲットとして絞り啓発することが難しいんです。幼い頃に馴染みのあったキャラクターを使用することで、中高年の方の意識のなかに留めてもらえればという狙いも込められています。
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キャラクターたちがよく見えるラッピングシャトルのベスト撮影スポットはありますか?ニューシャトルさん、教えてください。
小倉 :
一番のオススメポイントは、大宮駅を出てすぐのところにあるJACK大宮というビルです。ここはビルをニューシャトルの線路がぐるっと回っている珍しい構造をしており、さいたま市民が選んだ「大宮二十景」のひとつになっています。
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鉄道ファンの間では、有名な撮影スポットなのですね。
小倉 :
ここは急なカーブとなっており速度20キロ以下で走るため、ラッピングの柄も見やすく撮影もしやすいです。 もう1点は、鉄道ファンのメッカこと鉄道博物館の屋上にあるパノラマデッキです。ここは展望台になっているのでやや見下ろすアングルから撮影できます。運がよければ、新幹線と一緒に走っている姿を見ることができますよ。
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手塚ファンの皆さん、ぜひ参考にしてくださいね! ラッピングシャトルの今後の運行スケジュールを教えてください。
中村 :
ラッピングの期間は7月31日までとなっています。他の車両と一緒にローテーションしているため、毎日決まった時刻に運行しているわけではありませんので、もしラッピング車両を絶対に見たい! ということであれば、ご乗車日の前日か当日にお電話でお問い合わせいただけましたら運行時間をお答えいたします。
小倉 :
沿線にある高校の生徒さんたちが通学時にラッピングシャトルの写真を撮っていたり、ツイッターで拡散されていたりとさっそく反響があり、さすが手塚先生の効果は大きいなと感じています。
余談ですが、学生さんたちの間では自転車に乗ったり電車に乗ったりさまざまな通学スタイルがあって、ニューシャトルで通うことを「シャトラー」と呼び、上尾市から自転車で通うことを「あげチャリする」と言うそうです。
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「今日は雨だからシャトラーで!」みたいな感じですか? なんだかカッコイイです。
小倉 :
シャトラーの皆さんはもちろん、ニューシャトルは沿線を通りますので、あげチャリで来る学生さんにもラッピングシャトルを見ていただけます。このシャトルがきっかけとなり、交通ルールに気をつけようという個々の意識に繋がれば私たちとしても大変嬉しいです。
取材当日はラッピング車両が車庫で休憩中とのことだったので、せっかくなので見せていただくことに。安全ヘルメットをかぶって、新都市交通の車庫へ潜入します!
ここでは、主にシャトルの点検を行っています。ローテーションで車両の点検を定期的に行い、部品の確認や動作確認をするそうです。予備のゴムタイヤもズラリとならんでいます。
車両点検を終えて一休み中のラッピングシャトルを発見! ここまで近づけるのは、かなり貴重です。
メインのゴムタイヤのほかに、小さいいくつものタイヤがサイドに取り付けされています。これは案内操向装置といって軌道上の案内レールに沿って舵取りをするもの。ミニ四駆でいうところのガイドローラー的ポジションですね。
ニューシャトル、実は雪かきまで付いています。道路を走るため、冬場の積雪時には雪かきは必要不可欠だそう。大雪が降ってもめったにとまらない最強の電車として重宝されています。
以前は運転士を務めていたという小倉さん。「出発進行を見せてください」という虫ん坊スタッフの無茶ぶりにも笑顔でご対応。ありがとうございました!