月刊ヒーローズにて絶賛連載中! “鉄腕アトム”誕生までの物語を描く『アトム ザ・ビギニング』のTVアニメ放送が決定、2017年4月よりNHK総合テレビにていよいよスタートします。
虫ん坊ではアニメ化を記念し、現在、制作進行中の本作について、監督を務める佐藤竜雄さんにいろいろお話を伺いました。あわせて、制作現場の風景もお届けします!
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高校時代は陸上競技の有力選手だったそうですが、昔からアニメには興味をお持ちだったのでしょうか。
佐藤 竜雄さん :
(以下、佐藤)
マンガというか絵を描くのがもともと好きだったんですよ。恥ずかしながら、小学校の文集には「マンガ家になる」って書いていますからね。「火星人も笑うようなマンガを描くぞ」って(笑)。
陸上スポーツをやる以前、小学5年生の頃まで身体が弱かったんです。割と町なかの学校に通っていたんですけど、その後転校した先が自然豊かなところで、必然的に友達と一緒に外を駆けまわっている間に体質が変わったのか、突然速く走れるようになったんですよね。
中学時代は陸上部に入ってしまうので、マンガから一時期離れてしまうんですが、部活から疲れて帰ってきて観るものというと、1970・80年代当時はドリフターズのお笑い番組かアニメなわけですよ。マンガも兄が大学生だったので、毎回、『週刊少年マガジン』・『週刊少年サンデー』・『週刊少年チャンピオン』は買ってきてくれて読んでいましたね。
高校生になって、2年生の冬に大きな怪我をしまして。リハビリ中、美術部の友達から、お前、走れないんだったら、一緒に遊ぼうぜと言われて頻繁に映画研究部・漫画研究部・写真部という文科系てんこ盛りの連中と付き合うようになりました。そこで、洗礼を受けるというか、いろいろ見せられるわけです。『宇宙船』『スターログ』などの特撮雑誌をはじめ、マンガ雑誌では『ガロ』とか。いきなり、『ガロ』ですよ(笑)。
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当時の『ガロ』といったら、日本漫画界のアングラ的存在で、サブカルチャーの最先端というイメージがあります。
佐藤 :
丁度、泉昌之さん(久住昌之:原作、泉晴紀:作画のコンビ)の『かっこいいスキヤキ』という、夜行電車に乗った男が、頭の中で食べる順番を考えながら駅弁と向き合うシュールなマンガを高校3年生のときに読まされまして。これはすごい、こういうのだったらひょっとしたら描けるかも知れないと思い立って、大学に入ったら、まず漫画研究会に入ってみることにしました。
早稲田大学に入学後、漫画研究会の部室に足を運んだら誰もいなくて、通りすがりのラウンジで絵を描いている人たちがいたので、これは何の集まりですかと聞いたら、アニメーション研究会ですという答えが返ってきて。
アニメ研も漫研も変わらないよなと思って入部したのが大きな間違いでしたね。いきなり入って早々にセル画を塗らされましたから(笑)。そこのサークルは、自分たちで本格的なオリジナルアニメを作っていたんですよ。
あまりアニメを知らないで入ったのが良かったんでしょうね。実際に手伝ってみると、フィルムを撮影する作業が面白かったりしたので。
早稲田のアニメ研は今でも「WAFL(ワッフル)」という名前で活動していて、僕が卒業したあと、いわゆる「業界」に入ってくる人が増えたようです。40周年の懇親会で、出席者の中で僕が一番上だったんですけど、レジェンド扱いですよ。確かに18歳の新人にしてみたら三倍近い年のOBですから(笑)。
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アニメにも力を入れていた手塚治虫ですが、手塚が手掛けたアニメは観たことがありますか?
佐藤 :
僕が大学2年生のときに、広島国際アニメーションフェスティバルの第1回目が開催されたんですけど、実はそこで、『ジャンピング』と『おんぼろフィルム』を観ているんですよ。
当時、まだ、第1回目で入りが悪かったんでしょうね。急遽、審査員だった手塚先生のサイン会をやります! となって、公式パンフレットにサインももらっています(笑)。サインと一緒にアトムを描いていたのに、一緒に来ていた友達が、レオを描いてくださいって言いだして。不意な注文にも文句を言わずに笑顔で描いてくれました。スケジュール的にもキツかったのか、手塚先生、疲れていそうだなという印象がすごく残っています。
いまになって、まさか『アトム ザ・ビギニング』という作品で監督をやるお話が巡ってこようとは思わなかったですね。
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原作漫画『アトム ザ・ビギニング』の存在はもともとご存じだったのでしょうか。はじめに原作を読んだときの印象や感想をお聞かせ下さい。
佐藤 :
第1話を『月刊ヒーローズ』で読んでいたんですが、まずキャラクターが可愛らしく、割とシンプルな反面、ガジェットがすごく細かいので、すごく油っぽい感じがするぞと思いました。いわゆるハンドメイド的な。
海外のロボットのデザインだとサイズが大きいものが多いんだけど、天馬午太郎とお茶の水博志の2人が開発したA106(エーテンシックス)に関しては、割とギュッとしていて、設定の身長も162cmなんですよね。その辺に収まっているところが日本っぽくてすごく親しみやすいなと。
ただ、職業柄、アニメ化することを考えたときに、面白そうだけど動かすのが大変だなと思いました。当時は他人事としてそういう話をしていたんですが、単行本の1巻が出たあたりでアニメ化の話があがって、今回の監督のお話をいただいたときに、あ、大変な要素として色々思っていたものがダイレクトに自分に跳ね返ってきたな、と思いましたね(笑)。
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様々なスタッフの方々が携わっている本作ですが、アニメ制作にあたり、どのような話し合いをされたのでしょうか。
佐藤 :
まず、はじめの脚本の打ち合わせのときに、マンガを描かれているカサハラテツローさんとプロジェクト企画協力・監修の手塚眞さんも参加されていて、そのときに眞さんが、原作をそのままなぞるのではなく、アニメでしかできない、アニメでやった意義が見出せるような形で取り組んでいただきたい、というようなお話をされていたんです。
カサハラさんからは、基本的に、午太郎と博志が通う大学の校内・第7研究室だけで進んでいく話なので、オリジナルストーリー部分には、A106が凄い力を明らかにムダなことに使ってしまう話とか、いかにも学生がやりそうなことを盛り込んで欲しいという意見をいただきました。
そこに関しては、讃岐出身で総監督の本広克行さんとシリーズ構成の藤咲淳一さんがとにかくうどんが好きで、「やっぱりうどんですかね」と機会があるたびに言っていたせいか、4話の学園祭の回にはしっかり取り入れられています(笑)。A106の場合、焼きそばをつくるよりもうどんを打つ方が1000馬力の使い道があるのでは、いやそんなに力は要らないでしょ、なんて話を会議の時に真面目にしてました(笑)。打ったはいいけど固くて食べられないんじゃというツッコミも検討要素として組み込まれています。更にA10シリーズが全機総動員して、午太郎たちの屋台を成功させるよう奮闘しています。
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凄い能力をもっているロボットなのに、人間がやるような日常的なことをやっている、という演出がいいですね。
佐藤 :
作中でも、これに何の意味があるんだって、ツッコまれていますけどね。午太郎の感覚でいえば、単にサボりたいだけっていう。「俺は作らん! うどんの作り方のレシピがわかるロボットがやればいい」という感覚ですよね。
絵作りにあたっても、画面全体の印象として、スクラップ置き場が映像のメインだったりするから、どうしてもゴチャゴチャしちゃうんですね。そこは、美術さんとも話して、必要な情報以外の部分はあえて色味を抑えるなど、雰囲気としてカサハラさんのテイストに似せるようにしたり。
全てを再現というわけにはいきませんが、撮影まで含めたトータルのイメージを考えて、そのイメージに近づけるためにはそれぞれのセクションでどういうふうに動くのがベストかを考えながら指示を出しています。
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放送前も合わせて、テレビアニメの制作期間は通常どれくらい掛かるものなのでしょうか。
佐藤 :
作品によるでしょうけど、だいたい準備期間は1年半から2年掛かりますね。実制作は放送中も入れて更に1年ほど掛かります。
脚本は2016年の年明けから夏にかけて書きあげていただきました。絵コンテがドドッと上がってきたので、僕がいまチェックをしています。キャスティングも発表されていますから、ボチボチ収録もはじまるという段階ですね。
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メインキャストとして、天馬午太郎役を中村悠一さん、お茶の水博志役を寺島拓篤さん、A106役を井上雄貴さんが担当されますが、キャスト選考の決め手は何でしたか。
佐藤 :
中村君と寺島君はわりとスムーズに決まりました。
午太郎に関しては、上から目線のセリフが多くて口が悪いんですけど、棘があってはいけなくて、ロクでもないこと言っているけどコイツが言ってるんじゃ仕方が無い、というように流せてしまう品の良さやソフトさが重要だと思いました。中村君はキャリアもあるし、絶対、A106役は若い子になるから、引っぱっていってくれるような人がいいなとも考えていました。
寺島君は、本来の彼の素の部分が柔らかでリラックスした人なんで、その辺がうまく博志に反映されるといいかなと思っています。あとは、寺島君も中村君もオタクの心を分かってるので、キャラクターに通じるところがあるかなと(笑)。
問題はA106、井上君の役ですね。最初、若い男性声優と男の子役を演じたことがある女性声優の両方を呼んだんですよ。やっぱり、初代アトムの声のイメージもあるし、かといって、自我がまだ確立していない本当に不安定な役なので、あまり色に染まっていない方がいいなと思いました。途中、オーディションの人が足りなくなってしまうくらい難航して最終的に決まったのが、井上君でした。
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作中でいちばん好きなキャラクターについても教えて下さい。
佐藤 :
それぞれ好きですけど、蘭がいちばん好きですね。この子はマンガではあまりしゃべらないので、アニメ化するにあたり、すごく気を遣っています。
カサハラさんが単行本を買ってくれた方たちに各書店でお配りしている4コマ漫画があるんですけど、蘭の友達が二人登場しているんです。その中で蘭はクラスでは大声でしゃべってるというネタがあるんですけど、そこを参考にもう少ししゃべるようにしています。あえて原作通りにしないという時点で異質ですし、その辺も含めて蘭が一番気になりますね。
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最後にTVアニメ『アトム ザ・ビギニング』に関してこんな作品にしたいというところを教えていただけますか。
佐藤 :
天馬午太郎とお茶の水博志という、この先袂を別ってしまうかも知れない2人組がクロスしている状態のすごく幸せな時代を描いた作品となっています。一番いい時期でもあるし、後から考えると悲しくなってしまう部分でもあるかもしれないけど……。
現実には、僕らが昔考えていたようなロボット=人型という形態から随分変わってきているなか、あくまでも人に模したものを求める午太郎と博志というのは、ロボット開発には心を持たせることが必要なんだという点で共通していますが、かたや友だちを作りたい、かたや神を作りたいんだとそれぞれ目指すものが違いますよね。
午太郎と博志の関係性も見どころですけど、結局、なんだかんだ言って最終回では、みんながみんなA106の方を向いていたという話にしたいんですよ。
アニメでは1、2巻を中心に、自我の目覚めというところが最終的なピークになるので、それまでA106という存在が12本のお話を通して勝ち得るものをどう描くのかがテーマだよねとシリーズ構成の藤咲さんとも話をしています。
ロボットが何をどう見て何を考えているのかというところを描いていけば、今までのロボットものとは違うものが出来るんじゃないかなと考えています。。
博志と午太郎、加えて蘭や茂斗子たちも、それぞれ、なにか闇を抱えているのだろうけど、みんな、第7研究室に集まってくるのは何故なのか。A106もそこにいて、みんなの居心地よい場所として、第7研究室を描けたらいいかなって思います。
アニメ『アトム ザ・ビギニング』は、OLM、Production I.G、SIGNAL.MDという3社のアニメ―ション制作会社が携わり、制作されています。
インタビュー後、実際の制作現場を目撃すべく、特別に佐藤監督の作業場が置かれているSIGNAL.MDさんにお邪魔させていただきました!!
様々なアニメ作品のブース毎に分かれている社内。いざ、『アトム ザ・ビギニング』のブースへ。
佐藤監督の手元を激写。iPad ProとApple Pencilを使用し、絵コンテを描き上げています。どの部分の絵コンテになのか気になるところ。
作画スタッフが絵コンテを元に作画を起こしていきます。
総作画監督の伊藤秀樹さんの作業机。仕上がってきた作画の束(右)を1枚ずつ丁寧にチェックしていきます。
資料を元にデジタルで着色。実際に見るとものすごいスピードで手を動かしています。ゴッドハンドかよ!
放送間近となり、現在ものすごい作業量と熱量で制作中のTVアニメ『アトム ザ・ビギニング』。
今春の放送日には、是非リアルタイム視聴しましょう!!